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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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一口の『ラメン』

 悩む私の目に、ドンブリの隅っこの『レンゲ』が映る。


 ……ん? そういえば……。

 この幅広の形って、何かに似ているな……?


 次の瞬間、私の頭に稲妻のような閃きが走るッ!

 私はワリバシでメンを数本持ち上げると、レンゲの中に入れた。さらにはチャーシュ、アジタマ、ホウレン草、ヤクミと、具をちょっとずつ(つま)んで切り取り、それもレンゲに入れる。

 最後に、具とメンの入ったレンゲを、スープに沈めて持ち上げると……なんとレンゲの中に、ミニチュアのように『小さなラメン』が完成した!


 ふっふっふ。名付けて、『一口ラメン』!


 レンゲをドンブリに見立てた、こんな発想。

 レンから『ショクヒンサンプル』を貰った、私にしかできないだろうな。

 いっつもショクヒンサンプルを見るたびに、「これが食べられたら、どんな味がするのだろう?」と考えずにはいられなかった……その夢が、ついに叶ったぞ!


 私はレンゲに、ニンニクを思う存分山盛りにして……パクっと、一口で食べてみた。


 くうー、美味いッ!

 荒々しい生のニンニクに、チャーシュの肉々しさ、アジタマのまろやかさ、ホウレン草やヤクミの爽やかさ、メンの香りにスープのジューシーさ……たったの一口で『ラメンの全て』を味わえる!

 しかも、あれだけ大量のニンニクを入れたというのに、ラメンのスープはまったく(にご)っていない……『一口ラメン』はスープの味を変えることなく、完璧に『ニンニク欲』を満たしてくれたのである。


 な、なんと画期的な食い方だろう!?

 自分の素晴らしいアイデアを、私は誰かに教えたくなった。

 再びレンゲの中に『一口ラメン』を作ると、小声で隣のオーリに呼びかける。


「おい、オーリ。ちょっと、こっちを見ろ……」


「なんだよ、リンスィール? 俺っちは今、『イエケイラメン』を食べるのに忙しい……って、うおお!? な、なんだよ、そりゃあ!」


 オーリは目を丸くして、私のレンゲを見つめている。


「ふっふっふ。これは私が発明したラメンの食い方でな、『一口ラメン』と言う。こうやってレンゲの中にミニサイズのラメンを作り……パクぅ!」


「な、なんとぉー!? ドンブリの要素全てを、たった一口で食っちまいやがった!」


 私は、ニンマリと笑って(ささや)く。


「……どうだ、すごいだろ?」


「す、すごい……! さっそく俺っちもやってみるぜ……メンと具を入れたレンゲで、スープを(すく)って……と。よっしゃ! おい、ブラド……こっちを見ろ!」


「なんですか、義父(とう)さん。僕は今、『イエケイラメン』を食べるのに忙しい……わ!? なんですかそれはっ!」


「こりゃあ、リンスィールの野郎が考えた食い方でな。『一口ラメン』って言うそうだ。こうやって、レンゲの中に小さいラメンを作って……ハグぅ!」


「……っ! し、信じられない……ラメンの全てを一口で味わっている! 早速、僕もやってみます! メンと具とスープをレンゲに入れて……なあ、マリア。こっちを見てごらん?」


「なによ、兄ちゃん。あたし、今、『イエケイラメン』を食べるのに忙し……って、わああ! なにそれ、ブラド兄ちゃん!? かっわいー!」


「これは、リンスィールさんが考えた食べ方でね。『一口ラメン』と言うそうだよ。こうやってレンゲにメンと具とスープを入れて……ハムぅ!」


「すっごーい! あたしもやってみるぅ! アジタマの黄身を崩さないように、慎重に切り取ってえ……」


 なんと……。

 私の考えた『一口ラメン』は、あっという間にブームになってしまったぞ!

 ううむ。これはもしかしたら、とんでもないテクニックを編み出してしまったかもしれん。


 私は、自分の素晴らしいアイデアを、レンにも教えて上げたくなった。

 今まで彼には教えてもらってばかりだったが、この『一口ラメン』ならば、レンにとっても新しい知識に違いない!

 彼に伝授すれば、少しは恩返しになるだろう……レンの驚き喜ぶ顔が、目に浮かぶな。

 ゆくゆくはレンが自分の世界にも『一口ラメン』を広めていって、向こうの世界でこの食い方が大ブームになったりして……?

 夢は、どんどん膨らんで行く!

 私はワクワクしながら、レンに呼びかけた。


「な、なあ。レン、ちょっと見てくれ!」


 レンはカウンターから身を乗り出して、こちらを見つめる。


「なんだい、リンスィールさん?」


 私は彼の前で、得意気に一口ラメンを披露(ひろう)してみせた。


「あのなっ! こうやってだな!? レンゲに一口サイズの具とメンを集めて、スープを掬って……パクぅ!」


 私の食い方を見たレンは、困ったような顔で苦笑する。


「ん? ああ、ミニラーメンな。子供とかが嬉しそうに、チマチマ作ってるやつだろ?」


「……………」


「全部の具を一度で味わうってのはいい考えだし、小さいラーメン作るのも楽しいだろうさ。でも、ラーメン屋としては麺が伸びる前に食って欲しいから、あんまり時間かけて欲しくない……だから、そうやってミニラーメン作ってるの見かけると、つい笑っちまうんだよなぁ!」


「……バカ」


「えっ?」


「レンのバカ」


「は、え? えええっ!? ちょ、ちょっとリンスィールさん……? なに、急に不機嫌になってんの!?」


「ふんだ、もういい。ラメンに集中したいから、しばらく話しかけないでくれたまえ!」


 私はレンから顔を()らし、再びラメンに向き合った。

 だが、レンゲの中にラメンを作ろうとして、手を止める。


 ……まあ、よく考えれば、レンの言葉にも一理ある。

 いちいち『一口ラメン』を作っていたら、食べ終わるまでに時間が掛かりすぎて、伸びてしまうのも事実だな。

 それに、メンをズルズルと勢いよく啜る気持ちよさも味わえないし……。


 よし、決めた! 『一口ラメン』は、ここぞという時の『奥の手』として封印しよう!

 私は、残りのラメンは普通に食べることにした。

 メンを完食すると、後には白濁したコッテリ濃厚スープが残る。

 このスープ、そのまま飲んでもいいのだが……お、そうだ。

 また、いいことを思い付いたぞ!


 私はワリバシを置いてレンゲに持ち替えると、半分ほど残ったライスをスープに投入し、上からニンニクとコショウとトウバンジャンを追加した。

 名付けて、『ラメンリゾット』である。

 スープとライスと具がごちゃまぜとなり、トウバンジャンの赤みが混じったドンブリの中は、もはやカオスそのもので……見た目はすこぶる下品だが、これ絶対うまいやつだ!


 レンゲで掬って口に入れると……むうう、やっぱりバカうまっ!

 ライスはスープが染み込んで膨らみ、もっちりした食感から、サクサクトロリとした口当たりへと変化している。

 ニンニクやコショウを足したので味が薄まることもなく、スープのおかげで喉越しもよく、レンゲで豪快に食べられる。

 味の濃いアジタマの黄身がライスに絡んで、時折チャーシュやホウレン草の味わいも顔を出し、これは堪らん美味しさだ!


 私は夢中で、あっという間に『ラメンリゾット』を平らげたのであった。

誤字脱字直しました。

中学一年の時、初めて背脂ちゃっちゃ系のラーメン屋に友達と行ったら、ニンニク入れ放題でテンション上がって、友人と一緒に調子に乗ってニンニクどかどか入れたら完全に味が壊れてしまい、青い顔してシクシク泣きながら二人でラーメン完食した思い出があります。

店を出る前にバイトのお兄さんが、気の毒そうに口直しのアイスくれました。


ブクマ評価で元気100倍です!

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― 新着の感想 ―
調子に乗ってニンニク入れ過ぎるとな... おなか壊して下痢するぞ笑
[気になる点] 場所時間問わずラーメンが食べたくなる点 [一言] まだ出てないカテゴリのは油そば、つけ麺、鶏白湯と純粋な味噌がまだかな? 替え玉文化もぜひ取りあげてほしいところです。 一玉目はシンプル…
[良い点] 蓮華を使うとは! なるほどね~ らーめんりぞっとw ご飯にインスタントラーメンのスープの素振りかけてお湯を注いでらーめん茶づけなど食ったことがw うまかっちゃんででしたw [気になる点]…
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