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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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心に火を点けて

 しかし、レンは即座に手を突き出す。


「おおっと! 悪いが、そいつは教えられねえぜ、オーリさん!」


 レンの態度は、いつになく拒絶的だった。

 オーリがムッとする。

 ブラドが慌てて尋ねた。


「そ、そんな……どうしてですか!?」


 レンは腕組み顎上げポーズで言う。


「だってよ。あんたらに教えたら、面白くねーじゃん?」


 面白くないから、教えない。

 オーリとブラドがポカンとする。

 レンは歯をむき出して、ニカッと笑った。


「言葉で説明するのは簡単さ。作り方を教えれば、ブラドの腕ならすぐ完成させちまうだろうな……でもよ、それって楽しいか?」


 レンは期待に満ちた目で、二人の顔を交互に見ながら言葉を続ける。


「俺は、見たいぜ。こんな異世界でラーメンを作り上げちまったあんたたちが、今度はどんなインスタントラーメンを作るのかを……な? 考えただけでもワクワクしちまうだろ!?」


 しばらくしてから、


「く、くく……く、ぐふふ……。がぁーっはっはっはぁー!」

「あ、ははは……あはははははっ! あーはははは!」


 オーリとブラドが同時に笑いだした。

 オーリが、ブラドの肩を抱いて楽しそうに叫ぶ。


「がっはっはぁ! なあ、ブラドっ! レンの言う通りじゃねえか!? 何の苦労もなしに作り方だけ教えてもらおうなんて、俺たちあまりにも虫がよすぎらぁ!」


 ブラドも笑顔で大きく頷く。


「あっははは! そうですね、義父(とう)さん! 世界に革命を起こすほどのラメン、すんなり手に入れたんじゃ面白くありません!」


 オーリが立ち上がって、レンに言う。


「おう、レン! 悪りぃが、これで帰らせてもらうぜ! 早速店に戻って『インスタントラメン』の研究を始めるからよぉ!」


 ブラドも不敵に笑った。


「ふっふっふ。レンさん、期待しててください……とびきり美味しい『黄金のメンマ亭製のインスタントラメン』を食べさせてあげますからね! うおおーっ、やるぞー!」


 二人は肩を組み、わいわい言いつつ去って行く。


「おう、タルタルの野郎も仲間に入れてやろうぜ! こんな面白いこと、誘ってやらなきゃかわいそうだ! 日が昇ったら、すぐに連絡しろ!」


「いいですねえ! タルタル先生なら頭がいいから、きっと力になってくれるはずです!」


 マリアが二人の後ろ姿を見ながら、嬉しそうに笑った。


「お義父ちゃんも、ブラド兄ちゃんも楽しそう……あんな二人を見るの、久しぶりだわ! レンさん、ありがとう!」


 レンは苦笑しながら言う。


「まあ、一朝一夕でできるもんじゃないと思うけど。それでもブラドとオーリさんなら、必ず完成させられると信じてるぜ!」


 マリアが立ち上がり、二人の後を追いかける。


「それじゃレンさん、あたしも帰るね! また明日の夜、ペジポタケイラメンを食べにくるから! 三日後も楽しみにしてるーっ!」


「ああ、またなーっ!」


 レンも笑顔で手を振った。


 楽しそうに遠ざかる三人を見て、私も目を細める。

 彼らが『タイショのラメン作り』に燃えてた頃を思い出すな……貧乏しててもああやって、楽しそうにラメンを作ってたっけ。

 こちらの世界で『インスタントラメン』が食べられるのも、きっとすぐに違いない。


 ……告白しよう。

 実は、オーリが『インスタントラメン』の製法を聞こうとした時、我らの友情を壊すような『不幸なやりとり』が起こるのではないかと、私は少しドキリとしたのだ。


 ドワーフは強欲な種族だ。

 二百年前、ドワーフの王は黄金の山に目が(くら)んで魔王と取引するという愚かな選択をし、王国を潰した。

 以来、彼らは『流浪の民』となっている。

 苦労せず手に入れた金は、人を狂わす……しかし、ドワーフは気高き『職人魂』を持つ種族でもある。

 レンは、そんなオーリの職人魂に火種を投じてくれたのだった。

 オーリは二十人もの孤児を引き取ったり、ラメン作りに私財を投じたりと、価値ある金の使い方を知っている男である。自分の力で手に入れた金なら、身を持ち崩す事はないだろう。


「さて。それじゃ、私もそろそろ帰るとしよう。レン、今日は良い経験をさせてもらった。礼を言う」


 言いつつ立ち上がると、レンが真剣な顔で引き留めてきた。


「……あ、あのよ、リンスィールさん。ちょっと相談があるんだけど……いいかな?」


「相談だって……? なんだね、聞こうじゃないか!」


 私は真面目な顔で椅子に座り直す。

 レンはいそいそと隣の椅子に腰かけて、私の瞳をジッと見つめて言った。


「リンスィールさん。これは、『あくまで仮の話』なんだけどよ……異世界人との恋愛って……あんた、どう思うよ!?」


 その質問に、私は面食らう。


「む、むむむっ。な、なんだと!? い、異世界人との恋愛かぁ……っ!」


 私は腕を組み、しばらく考えた後でポツリと言った。


「うーむ、大変に難しい問題だな。ただ、よっぽどの覚悟がなければ、悲恋(ひれん)に終わるのは間違いなかろう」


 レンが、ハァーっと深いため息を吐きながら言う。


「……そ、そうだよな? やっぱリンスィールさんも、そう思う?」


 私は大きく頷いた。


「ああ。言葉、文化、家族、宗教……色々と問題あるが、一番の問題は、私たちが向こうの世界には行けないことだ。それは恋愛において、あまりにも高すぎる壁となる」


「だよなぁ! やっぱり、どう考えても難しいよなぁ……」


 ガックリと肩を落とすレンに、私は言う。


「結婚しても、悩みの種は尽きないぞ。ある日、世界を越えられなくなったら? 子供ができたとして、その子は行き来できるのか? 唯一の解決策があるならば……思い切って、『こちらの世界に移住』するしかあるまいね」


 レンは遠い目をして天を(あお)ぎ、乾いた笑いを浮かべる。


「こっちの世界に移住か……ははは。リンスィールさん、はっきり言ってくれるぜ! やっぱ、異世界人との恋愛って、最終的にはそうなるよなぁ……あーあっ!」


 私は首を傾げて彼に問いかけた。


「レン……こちらの世界に、思い人でもいるのか?」


 レンは、首を振って否定する。


「別に。そんなんじゃねえ、最初に前置きしたろ。これは、『あくまで仮の話』だってさ!」


「む、むう。ならばいいのだが……なあ、レンよ。私たちは、何があっても絶対に君の味方だぞ! みんな、君のことが大好きなんだ。いつだって力になりたいと思ってる……それだけは、しっかりと心に刻んでおいてくれよ」


 私の言葉に、レンは晴れ晴れとした顔で嬉しそうに笑った。


「ふ、ふふふ。ありがとよ、リンスィールさん!」

次回は……another side 4

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― 新着の感想 ―
[良い点] 発想と着眼点 [気になる点] 筆者の病状。お見舞いのポイント処方しておきますね、おだいじに。 [一言] 解熱して以降の、なかなか治らない咳には咳止めシロップがお勧めです。案外効きますよ。
[良い点] やっぱり ほいほいと教えたんじゃ面白くないw 自分で創意工夫して だねw [気になる点] ラスト リンスィールとレンは言葉を『交わして』る・・・ これは・・・ [一言] レンの思い人 だれ…
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