プレゼントフォーユー
「くちゅん!」
突然、なんとも可愛らしいくしゃみが聞こえた。
そちらを見ると、マリアが気まずそうな顔をしてる。
「あ……。ごめんなさい、お話の腰を折っちゃって」
ふと空を見上げると、粉雪がチラチラと舞っている。
「寒いはずだよ、雪が降ってる。『ゲキカラケイ』のラメンで汗を沢山かいた後だし、身体が冷えるのも無理はない。風邪でも引いたらいけないし、そろそろお開きにしようか」
私がそう言うと、レンが緊張した面持ちでマリアに呼びかけた。
「あ、あー、そのお、マリア! 帰る前に、ちょっと渡したい物があるんだが……?」
「えっ、あたしに? 何かしら、レンさん」
マリアがニコニコと笑いかけると、レンは照れくさそうな顔をして、ガサガサと音のする白い袋から赤い布を取り出した。
「俺、こういうのはよくわかんねえし、ユニクロだけどさ……カシミヤ100%だし、テレビで特集してたから、きっと女の子には人気があるんだと思う」
受け取ったマリアが広げると、それは真っ赤なストールであった。
細かな毛で織られた柔らかそうな素材に、色も鮮やかに染められている。なんとも高価そうな品である……こんなに立派なストールは、おそらく貴族だって何枚も持ってないだろう!
マリアの顔がパッと輝く。
「わ、わあ、素敵ーっ! レンさん、こんなすごい物、本当にいただいちゃっていいの!?」
「ああ、遠慮なく貰ってくれよ」
「すっごーい! レンさん、大好きーっ!」
マリアは大はしゃぎでレンの手を取り、ぶんぶん振った。
レンの顔が、真っ赤なストールに負けないくらいに赤くなる。
マリアは早速ストールを肩に巻くと、ヤタイの前で嬉し気にクルクルと回りだした。
「ねえ、みんな! 見て見て……似合う?」
鮮やかな赤いストールを肩に掛け、雪の舞い散る暗い路地でヤタイの光に照らされて、笑うマリアは美しかった。
ブラド、オーリ、そして私は口々に言う。
「とっても綺麗だよ、マリア!」
「あの垢塗れだった小娘が、ここまで別嬪に育つとはなぁ、ちきしょうめ!」
「よく似合ってるじゃないか! ……それにしてもレン、いきなりプレゼントだなんて、一体どういう風の吹き回しかね?」
私の言葉に、レンは幸せそうな顔で答える。
「へへっ。今夜はクリスマス……俺らの世界では、大切な人や親しい人にプレゼントを贈る日なんだよ」
ふむ? なるほど、なるほど……『クリスマス』ね。
今夜はレンたちの世界では、そんなイベントがある日なのか……。
大切な人、親しい人にプレゼントを……ふむふむ。
……。
…………。
………………。
「ひ、ひどーいッ! ひどすぎるじゃないか、レーーーン!」
私がそう叫ぶと、レンの目が点になった。
「……は? ひどいって……何がだよ?」
なんの事だかわからないといった表情である。
我慢できなくなった私は、レンに詰め寄りながら叫ぶ。
「た、大切な人、親しい人にプレゼントを贈る日だって……? それじゃ、どうして君は、私に何もくれないんだね……? つ、つまり私は……君にとって、大切でも親しくもないのかい!?」
レンが、しまったという顔をする。
「あっ!? い、いや……リンスィールさん。そういうわけじゃ……?」
私の目から、涙がポロポロと零れ落ちる。
「君と私は最初のうちこそ、不幸な行き違いもあったりした! だが、その後はラメンを通じて、真の友情を育めたと思っていたのに……う、ううっ。わ、私は君のことが、こんなにも大好きなのに……なのに君は、私を無視するんだ! おお、砂漠を渡る青い鳥を見つめるバジリスクの瞳はかくも慈愛に満ちているっ!(エルフの言い回しで『愛は一方通行』』の意」
レンはオロオロしながら私を慰める。
「ま、まいったなぁ……? そういうわけじゃねえんだよ、泣き止んでくれよ、リンスィールさん……」
しかし、私は悔し涙を止めることができない。
……ずるい! マリアが羨ましい!
つまりは嫉妬心である。私とて、まさか374歳も年下で、それも我が子のようにすら思っていた娘に、こんな情けない感情を抱くとは思わなかった。
だけど、誰よりもラメンを愛してると自負する私が、誰よりも美味いラメンを作ってくれるレンに蔑ろにされたというショックは、それだけ大きかったのだ!
9月に発売した漂流英雄もよろしくね!




