充足の『ラメン』
……私が『ジロウケイ』ラメンをどうにか完食したのは、それから五分後の事であった。
時間をかけては不利になると悟ってからは、短期決戦で一気にメンを啜りこんだ。
それが功を奏したのか、食えなくなる一歩手前で、なんとか食べきることができたのだった。
隣を見ると、オーリとブラドも完食したらしい……オーリはまだ多少、胃袋に余裕を残してるようだが、ブラドはギリギリなのか苦しそうな顔をしている。まあ無理もないだろう。
意外な事に、マリアも完食していた……『ヤサイマシマシニンニクアブラ』でないとは言え、彼女のラメンもそれなりの量があったはずなのだが。
彼女もまた、ラメンを残せぬ『ラメン食い』の一人という事だろうか。
しかし、あのしょっぱい大盛りラメンを平らげた今、喉が乾いてしかたないな……と、レンがグラスに水を注ぎ、私たちの前に置いてくれた。
私たちは先を争うようにして、それを飲み干す。キンキンに冷えた水が、乾いた喉に染み渡る……ああ、なんという甘露っ!
満ち足りた私たちの顔を見て、レンが言った。
「で……今回のラーメン、どうだったよ?」
はち切れそうな腹を抱え、それぞれが論評する。
「最初の一口、二口はしょっぱさに驚いたが、食べてるうちに豚の脂や野菜の甘さ、小麦の香ばしさが合わさって、丁度よい感じになる。妙に後を引く、なんとも不思議な味だった。途中から手が止まらなくなって、自分でも驚いたよ!」
「こいつぁ、ドワーフ好みの味つけだ。ニンニクのインパクトとメンの太さがもの凄かった……だがなにより、この量にはたまげたぜ! たった一品でドワーフが腹いっぱいになるなんざ、そうそうねえよ!」
「僕は、全部食べきれるか不安でしたが……いやはや、なんとかなるものですねえ。お腹は苦しいですが、今は戦い終えたような達成感でいっぱいです。また、あのプルプルした脂身たっぷりでとろけるチャーシュには驚きました! ぜひ、自分でも作ってみたい!」
「あたし、上に乗った野菜が甘くてシャキシャキしてて好きだわ。スープに浸ると、ちょうどいい味加減になって食べやすかった。でも、他の三人が頼んだみたいな、『ヤサイマシマシニンニクアブラ』とか言うのだったら、絶対に食べきれなかったと思う……」
レンは、ウンウンと何度もうなずく。
「その、『でっかいラーメンを食ってやった!』って征服感も、二郎系のウリなんだぜ! そっか、そっか……『手が止まらなかった』か……ま、そっちのカラクリは、次の機会に明かすとして。どうだい、みんな。親父のラーメンへの懐かしさ……今、どんな感じだよ?」
そ、そう言えば……? 『ジロウケイ』ラメンは、タイショのラメンとは似ても似つかぬラメンだったというのに、なぜだかタイショのラメンを食べた後のような気分になっていた。
もちろん、タイショのラメンは今でも猛烈に食べたい!
あの味こそが、私のラメンの原点なのだから。
食べたいのではあるが……私の中には、ずっと求めてた何かを「もう十分!」というほど詰め込んだような、そんな充足感が確かにあったのだ。
ブラドがレンの顔を見据えて言う。
「確かに。まるでタイプが違うのに、食べた後に妙な懐かしさを感じます。このラメンには、タイショさんのラメンに通じる何かがあるようだ……レンさん、教えてください! その秘密を!」
面白かったらブクマ評価で応援お願いします。
切実です。




