集結する『ラメン』
さて、今夜も恒例のラメン会食がやってきた。
が……場所はいつもの路地裏ではなく、なんと営業終了後の『無敵のチャーシュ亭』である!
もう一度、言う。『黄金のメンマ亭』ではない。『無敵のチャーシュ亭』だ。
メンバーは少し変わって、いつもの私たちと、タルタルとセリ。
そしてもちろん、家主であるジュリアンヌ三人組だった。
通されたのは、特別室の食堂である。
高い天井と金箔で彩られた美しい壁紙を、豪華なシャンデリアが煌々と照らしている。
だけど夜が遅くてオーケストラもなく、ただっぴろい部屋の席に座る者も十人足らずなので、なにかこう場違い感というか、物寂しさというか……空虚で閑散とした雰囲気が漂っていた。
なぜ、こんな事になってしまったのかというと、タルタルが「次のラメンは錬金術を駆使したラメンを食べさせる」と宣言したのは、すでにご存じの通りである。
それに便乗して、オーリとブラドも「完成したインスタント・ラメンの試食会をやりたい!」と言い出したのだ。
以上のことをレンに伝えると、彼は困った様子で頭を掻きながら、「えっ! そうなのかよ……。実はな、ジュリアンヌも新しいラーメンを考えたから、俺らに食わせたいらしいんだよ。俺、もうオーケーしちまったよ」と言ったのだ。
かくして我らはこの日、完成した三つのラメンを求めて、深夜に『無敵のチャーシュ亭』へと集結したのである!
まずはオーリが前に出てきて、インスタント・ラメンの説明を始める。
手には木箱を持っていた。
「えー。ついに俺っちとブラドの努力が実を結び、インスタント・ラメンが完成した! こいつぁ、お湯を注ぐだけでラメンができちまうって代物だ! 本当にめでてぇことだぜ。ついては、集まってくれた皆にも食ってもらい、味の感想を聞きたいと思う」
マリアが我々の席を周り、同じような木箱を並べていく。
オーリの説明は続く。
「まずは木箱を開けると、紙っきれが一枚入っている。そいつは、作り方の説明書きだな。今は俺っちが口で説明するから、横にどけといてくれ。そうすると油紙に包まれたメンとワリバシ、液体の入った小瓶が出てくる」
私とレンも、席に配られた木箱を開ける。
説明書き(イラストが描かれているが、残念なことにあまり上手ではない)、油紙に包まれたメン、ワリバシ、小瓶。
マリアが人数分のドンブリを、席に並べた。
オーリが実演しながら説明を続ける。
「油紙を破くと、メンが出てくる。そいつをドンブリに入れてくれ。とはいっても、今日はラメンを三つも食べる日だ。メンは半分に割って、二人でひとつがちょうどいいだろう。……ま、三杯くらい余裕で食えるってやつは、ひとつ食ってもいいけどな」
その言葉に、向こうの席のダルゲが嬉々として丸まる一個をドンブリに入れてる。
私とレンは半分こして、割れたメンをドンブリに入れた。
卓上に生卵があったので、それも割り入れる。
レンは、卵はいいと拒否した。
次にブラドが、沸騰したお湯を鍋に入れて運んで来る。
彼をオタマでお湯を、我々のドンブリへと注いだ。
「お湯を入れたら、蓋をして三分ほど待つ! つっても、旅先やらなにやらで、時計がない場合もあるだろ。そういう場合は、心臓の鼓動を参考にしてくれ。大体、二百二十回。脈が流れたら、メンが柔らかくなる。最後は小瓶だな。蜜蝋にナイフかワリバシで穴をあけて、スープを注いで、よく混ぜたら完成だ!」
時計を見ながら、三分後。
フタ代わりの木箱を持ち上げると、フワリと白い湯気が舞う。
パチンとワリバシを割り、瓶の口にブツリと突き刺して、言われた通りにスープを注ぐと……おおおっ!
ショーユの匂いがぷぅんと広がる。
かき混ぜると赤銅色の液体が煙のように広がって、表面には黄金の油が小さな真珠のようにキラキラと散らばった。
うう、もう待ちきれんぞ!
私は、勢いよくメンを啜り込む。
平打ちの細メンはほどよく柔らかく、やや油っこいものの、喉越しは軽い。
スープの香りもよく立っていて、しょっぱさ、コクともに十分な合格点である。
半熟卵との相性も、やはり抜群!
これが、お湯を沸かす時間を含めても、わずか十分足らずで作れるとは……。
ジュリアンヌたちが声を上げる。
「お、驚きましたわ……。本当にラメンができてるじゃありませんの!?」
「スープは鶏ガラショーユ味でヤンスな。ちょいと濃い目の味付けでヤンス」
「お嬢、お嬢。メンに卵の黄身を絡めて食べると、むっちゃウマイで!」
「えっ。ムグムグ……あら、本当ですわ。なかなかイケますわね」
「インスタント・ラメンでヤンスか。なにやら、デカいシノギの匂いがするでヤンス……」
「あんなにカチカチやったメンが、どないしたらこないフニャフニャになるんやろなぁ!」
彼らはワイワイ言い合いながら、目をキラキラさせて食べている。
ラメン作りの複雑さを知っている彼女たちにとって、ものの数分でラメンが完成するなど、奇跡以外の何物でもないのだろう。
その気持ち、よ~くわかるぞ。
すごいよな、インスタント・ラメン!
レンもメンを啜り、スープを飲んで言った。
「麺もスープも十分に美味い! 完成度はかなり高いな」
シンプルだが、これ以上ない誉め言葉である。
と、レンが真剣な表情で、私に尋ねた。
「リンスィールさん。これ、保存はどれくらい効く?」
「そうだな。カチカチに乾いてるし、湿気よけの油紙に包んである。防虫効果のある木箱にも入れてあるし、百日は余裕で持つだろうね」
「約三か月か。へえ、意外と持つな……保存食としても優秀だ」
「この木箱は、実にいいアイデアだよ! 持ち歩きの衝撃からメンを守ってくれるし、ワリバシも中に入ってる。壊せば、薪の代わりにもなる」
「液体スープは若干、味が濃い目だな」
「説明書きによると、わざと濃い目に作ってあるらしい。具材を煮てシメにラメンを入れて食べる、『鍋ラメン』の作り方も乗ってるな」
「おお、アレンジレシピまで掲載してるのか! 完璧じゃねーか」
食堂のあちこちから聞こえるのは、どれも称賛の声ばかりである。
オーリとブラドは嬉しそうに顔を見合わせると、お辞儀をして自分たちの席へと戻った。
次にやってきたのは、タルタルとセリの師弟コンビである。
タルタルは咳払いをひとつして、我々の注目を集めると、壁の一方を指さした。
「えー、皆の者。よく見るように。あれがわしの発明した、『エーテル循環臨界減衰式ラメン保存装置』じゃ」
なんてッ!?
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マンガのレンとリンスィールとオーリとブラドとマリアも応援してね!




