大錬金術師タルタル・ヴォーデン
「うう。チキショウ、マリアめ……。頭が痛えってのに、遠慮なくガンガン怒鳴りやがって……」
「ふう。ようやく二日酔いが収まってきたよ!」
二人でとことん痛飲した、翌日の昼である。
私とオーリは『黄金のメンマ亭』の隅っこのテーブルで、ポーションを飲みながら頭をかかえていた。
と、ヘロヘロの私が報せ鳥で呼び出した大錬金術師のタルタルと、その助手のセリがやってきて言う。
「どうじゃ? 調子は。まあ、わしのポーションを飲んだんじゃ。二日酔いなど、すぐ治るわい」
「リンスィール様、オーリ様。先生と私は、そろそろ帰りますね」
タルタルの作った薬はすごい。
胃のムカつきも頭の痛みも、みるみるなくなっていく。
私は二人にお礼を告げる。
「ああ。急に呼び出して悪かったね。助かったよ、ありがとう!」
だけど、オーリがむくりと身を起こし、帰ろうとする二人を呼び止めた。
「おい、タルタル、セリも。今よ、ポーションのお礼にうめえもん作ってやかっら。食ってけや、な! ちょっくら話したいこともあるしよ。ガハハ!」
オーリは店の奥に引っ込むと、レンが置いて行った食材の余りを持ってきた。
「昨日、俺っちがレンたちと食った、『鍋ラメン』ってんだ」
鍋ラメンを作るのか!
私は、すかさず声を上げる。
「オ、オーリ! 『ツナカン』を開けるのは、私にやらせてくれ。昨晩見てから、ずっと開けてみたかったんだ!」
「お、おお。開けていいよ。ほら、やってみろ」
ツナカンを受け取り、銀のリングに指を入れて……メリメリメリ、パッカン!
……き、気持ちいい。それにしても、本当に不思議だ。
こんなものを、どうやって作ったのだろう。
中にはタプタプに液体の油が詰まっている。溶接する時に、引火したりしないのだろか?
そう言えば『カンビール』とかいう金色のエールも、似たような作りだったと思う。
さて、オーリがお手軽簡単に鍋を作り、タルタルがそれを食べる。
私たちはようやく復活した胃に、ブラドに用意してもらった、温かなラメンのスープを流し込んだ。
と、ここで驚きの報告があった。
なんと、オーリが「インスタント・ラメン完成はもうすぐだ」と言ったのだ。
「な、なに!? それは本当かね……喜ばしい!」
オーリが店の奥から、ドンブリと試作品のインスタント・ラメンを持ってくる
店が比較的すいてる時間帯だったので、ブラドも小休止を兼ねてテーブルまでやってきた。
「これが、俺っちがブラドやタルタルと作った、インスタント・ラメンだ」
試作品のインスタント・ラメンは、やはり鳥の巣のようにこんがらがり、カチカチに乾いている。しかし最初にレンに食べさせてもらったものより、若干色が濃いような……?
オーリがドンブリにインスタント・ラメンを入れると、ブラドが鍋で上から湯を注いだ。
フタ代わりのトレイをかぶせて、数分後。開けてみると、スープが茶色に色づいている。
「リンスィール。食ってみろ」
「ああ」
返事をしてワリバシを割り、メンを持ち上げて啜ってみると……?
「むっ! 苦い。それに、匂いも良くないな」
ブラドが頷いた。
「はい。僕と父さんと先生が辿り着いた、インスタント・ラメンの製法はこうです。熟成させた細めのメンを、蒸し上げます。その後、スープの素となる液体の調味料をよく絡める。それを熱した油で揚げることで、カリカリに乾いてお湯に入れると味が溶け出し、柔らかくなるラメンが完成するのです」
オーリが続ける。
「けどよ。どうやっても、その苦みと焦げ臭さが出てきちまう! レンの世界のショーユと俺たちの世界のショーユは、そもそも原材料が違うからな。タルタルが言うには、ココヤシの成分が油で揚げられて、その苦みが出ちまうんじゃないかって話だよ」
「な、なるほど……。しかし、先ほど『インスタント・ラメンの完成はもうすぐだ』と言っていたな。では、どのようにして、今の問題点を解決するのだ?」
オーリとブラドは目を合わせ、それから自信満々に言った。
「別添えスープだよ」
「別添えスープ?」
「はい! メンを揚げることで、スープの成分が変質する。ならば、スープは揚げずに『別添え』にすればいんんです!」
「お、おおーっ! そう言えば、昨夜のインスタント・ラメンは、メン自体に味はついておらず、スープは銀色の小袋に入っていたな。そこから着想を得たわけか」
オーリが、いたずらっぽく笑った。
「へへへ……リンスィール。こいつぁまさに、転がり出たカルマン猫の目玉ってやつだろ?」
「ワハハ! こいつめ、オーリ。お前、エルフ流の言い回しなどして!」
「アハハ。でも、これでようやくお店でインスタント・ラメンが売り出せますよ」
「ふん。ようやく、自力でそこへ辿り着きおったか……」
タルタルの漏らした言葉に、私たちの動きが、ピタリと止まった。
ややあって、オーリが言う。
「お、おい。タルタル……そりゃ、どういう意味だ!? まるで、その方法はとっくに知ってたみてえな言い方じゃねえか」
タルタルが、さも当然といった顔で頷く。
「その程度のアイデア、最初の失敗から思いついておる」
ブラドが愕然とした顔で尋ねた。
「じゃ、じゃあ、なんで教えてくれないんですか、タルタル先生!」
「お前ら二人が、『お湯をかけただけで完成するラメン』にこだわっておったからじゃろ! 完成の条件を変えてよいなら、『どこでも持ち運べてすぐ完成する美味いラメンの形』など、話を聞いてすぐに十は思いついたわ」
セリが鍋にメンを入れて煮込みながら、まるで生徒に言い聞かせるような落ち着いた声で言う。
「皆様方、先生を甘く見てはいけませんよ。人類の歴史を変える何かを成し遂げた者だけが、先生のように『大』を冠してその名を呼ばれるのです……あらゆる素材を掛け合わせ、全く別の何かを作り出すのが錬金術。保存や変化はお手のものですよ」
タルタルは懐からキセルを取り出し、魔法で火をつけて深く煙を吸い込む。
それをフーと吐き出し 、言った。
「ふむ、よい機会じゃ。この大錬金術師タルタル=ヴォーデンが、お主らに錬金術の神髄を見せてやろうぞ」
タルタルは、私をジロリと見やる。
「おい、リンスィール。どうせ今夜辺り、またレンに会いに行くんじゃろ? きゃつに、伝えておけ。次のラメンは、三日後。わしが錬金術を駆使したラメンをごちそうしよう……とな」
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