プロローグ 『ラメン』との出会い2
車の中に吊り下げられた、強くて白い光を発するランプによって、周囲の闇は一掃される。
不思議だ。あれは一体、どのような技術によって造られているのだろう……魔力は感じないから、きっと精霊の類ではないだろうが……おおっと、いかん!
つい、食以外の部分に興味がいってしまった!
白装束男は辺りを見回して、苦笑いした。
それから、不思議な言語で喋り始めた。
「ヤァ、コンヤワァ、マタオオイナァ!」
そういうと、男は車からいくつも四角い椅子を取り出して、辺りに並べ始める。
しかし、ようやく噂の男が来たというのに、みな固まったままだった。
まあ、無理もなかろう……男のあまりにも不可思議ないでたちに、誰もが圧倒されているのだ。
だが、遠巻きにしている者たちの中から、やがて常連らしきものが歩を進める。
彼は得意気な顔で周りを見回すと、指を一本立てて宣言した。
「タイショ、ラメンイッチョ!」
おおっ!? あ、あれこそは、噂に聞きしラメン召喚の呪文ではないかっ!
白装束の男は、そいつにニカっと笑いかける。
常連男は白装束が並べた椅子に腰かけると、車の一角、テーブル状になっている場所にすました顔で手を伸ばし、備え付けてある筒に入った木の棒を手に取った。
ううむ……クソ、な、なんだ、あの棒っ切れは? ……わけがわからんっ! あんなもの、噂には一切出てこなかったぞ!
他の多くの者と同じように、私も怖気づいて動けなかった。
だが、ここで後れを取るなど、食通の名折れっ! 美味い物のためなら、ファイアドラゴンの巣の中にさえ飛び込むのが食道楽の心意気ではないのかっ!?
私は意を決し、怖気づく男たちの中から進み出て、同じように指を立てて口にする。
「こほん……タ、タイッショ……ラメン……イ、イッチョ!」
興奮で頬を染めた私の顔を見て、白装束に禿頭の男はニカっと笑い、置いてある椅子を指し示す。私はそこに腰かけると、先ほどの男と同じように、車に備え付けてある棒っ切れを手に取った。
しかし……この棒は、一体なんなのだろうか?
まったくわけがわからぬ!
見ると、どうやら木を削りだして作ったものらしい。ニスも塗っていないのに、ささくれさえ見られぬ精巧な作りは、熟練の木工職人の手によるものとわかる。棒は先端に進むにつれて切れ込みが入っていて、もう一方はくっついたままだった。
戸惑う私の前で、白装束の男は調理を始める。
まず、鍋に大量の湯を沸かし、そこに紐のような黄色の物体を投げ入れた。
ついで、深皿に濃い茶色の汁を入れて、そこに別の鍋から汲みだした黄金色のスープを注ぐ。
鍋の中では黄色の紐が、グラグラと煮えている……男は平たい網を取り出すと、それで紐を掬い上げて、空中で二度、三度と振った。
ザッ、ザァ!
地面に大量の湯が落ちる。
男はそうやって空中で振った紐を、先ほど作り上げた茶色と黄金色の混合スープに落とし込む。
そして、その上にいくつかの具材を並べ、それを常連男と私の前に差し出した。
「ホイ、オアツイウチニドウゾォ!」
男の言葉は聞き覚えのないもので、まったく意味はわからなかったが、とにかく食えと言ってるらしい。
私は興味に駆られ、その男の差し出す深皿を受け取った。
とは言え……フォークもスプーンもなしで、どう食べれば良いのだ……?
スープは湯気が立っているし、まさか手掴みではあるまいな?