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【コミカライズ5月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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199/200

もうひとつの鍋の〆

 呼ばれてブラド・マリア組のテーブルへと言ってみると、オーリが呆れた顔で私に言いつけた。


「見ろよ、こいつら。まだ鍋の中身が残ってるってのに、もういらねえってんだ!」


 見れば、鍋の中身は三分の一ほど残っている。

 ブラドが困った顔で言う。


「だって、お腹いっぱいですよ。食べられません」


 マリアが私たち二人を見て、顔をしかめる。


「っていうか、やだー! 二人とも、顔真っ赤じゃないの」


 ふむ。確かに今日は少々、飲みすぎかもしれない……。

 ちょっぴり足元もフラフラするな。

 私は、ついさっき仕入れたばかりの知識を、したり顔で披露する。


「まあ、まあ。鍋物の水分というのは、酒を飲みながら前提な部分があるからね!」


 私がアルコールと吸収の説明を終えると、ブラドは顎に手をやった。


「そういえば……僕もマリアも、あまりお酒は飲んでませんね。明日も、お店がありますから」


「そうそう。納期さえ守れば自由に仕事できるお義父ちゃんや、本を書いてのんびり暮らしてるリンスィールさんたちとは違うのよ」


 そう言うと彼らは、そろって立ち上がる。


「じゃあ、そういうことで。僕たちは寝ますね」


「ホント二人とも、あんまり飲みすぎないでよー?」


 兄妹は私たちに「おやすみなさい」と言うと、レンにも挨拶をして店の奥へと引っ込んで行った。

 残された鍋を横目に、オーリは苦笑しながら言う。


「ったく、マリアのやつ、生意気言うようになりがって……。だけど、もったいねえなぁ。俺っちたちで、食っちまおうぜ」


 もったいない。その意見には、私も同意である。

 ダルゲやミヒャエルみたいにがっつくわけでもないが、レンの言った通り、残すより食べたほうがいいだろう。


「し、しかし……見たところ、具もメンも目ぼしい物はほとんど食べられていて、スープしか残ってないようだぞ」


 中を覗いて私が言うと、オーリは部屋の隅のテーブルを指さした。


「材料なら、人数が増えてもいいようにって、レンが多めに用意してくれたろ。あっちのテーブルにまだ残ってるからよ。断っていくつか持ってくりゃいい」


 指示されたテーブルに行ってみると、まだまだたくさん食材が残っている。

 もう一回ぐらい、鍋を作れる量がありそうだ。


「レン! 材料をもらってもいいかね?」


「おう、いいぜ。余った分は、こっちの世界に置いてくつもりだ。好きに食ってくれよ!」


 レンの返事を聞いて、いくつか物色し始める。

 とは言え、さすがに最初から鍋を作り直すのは、いくらなんでも食べすぎだろう。

 そうだな。豚バラ肉と、野菜と……メンは、どうしよう。

 袋を開けたら、スープが余ってしまうな。


 なんて風に選んでいると、サラとカザンがやってきた。

 サラは、テーブルから白くて平べったい何かを手に取る。

 あんなものは、鍋に入っていなかったはずだが。


「あの、サラ殿。それは、どんな品ですか?」


「パックご飯よ。雑炊やるの」


「ゾースイ??」


 はて……『パックゴハン』?

 『ゾースイ』とは、なんのことだろう?

 二人は一体、何をするつもりなのだ。


 隣にいたカザンは、卵とヤクミを手に持った。

 興味に駆られて、テーブルに戻る彼らについていく。


「見学させていただいても、よろしいですか?」


 椅子に座ったサラは、面白そうな声で答える。


「へえ? 別に、見ててもいいけど……そんな大層なもんじゃないわよ。カザンちゃん、ここ持って、こっち引っ張ってくれる?」


 サラの指示で、カザンがパッケージを開ける。

 中には真っ白い飯が、ぎっしりと詰まっていた。


「鍋の〆にはラーメンもいいけど、やっぱり日本人ならお米でしょ!」


「カザンも同感でございます、お姉様」


 な、なるほど!

 読めたぞ。『パックゴハン』のゴハンはご飯。

 つまりゾースイとは、スープに飯を入れる行為を指すのか!

 これは、『イエケイラメン』や『エビミソラメン』の時のテンムスで、私がやったラメン・リゾットと同じ発想である。


 クツクツと音を上げる鍋に白飯を入れながら、サラは解説を始めた。


「弱火で熱した鍋の汁に、冷やご飯を入れる。この時、混ぜすぎると粘りが出て、おじやっぽくなっちゃうから気を付けて。まあ、その辺は好き好きだけど……。私は、あんまり混ぜない方が好きかなぁ」


 彼女は左手で器用に卵を割り、鍋に落とすと、大(さじ)で潰して表面に広げる。


「卵を割り入れたら刻んだネギを散らして、蓋をする……今回は、魔力の結界で代用するわね」


 言いながら鍋の周囲を指でなぞって、魔力で蓋をした。

 半透明な壁の向こうでは、白い湯気が渦巻いている。

 ものの数十秒だろうか……?

 サラが結界を解くと、フワリと良い匂いが立ち上る。

 鍋の中には赤橙(あかだいだい)のご飯に、トロリと絡んだ半熟の卵の姿があった。


「はい、完成。そしたらみんなで取り皿にとって、ガツガツ食べちゃうわけよ。ね、簡単でしょ?」


「ほ、本当に驚くほど簡単ですな……。ありがとうございます、サラ殿! さっそく、私も作ってみます」


 私は大急ぎでパックご飯と卵、ヤクミ、ついでに大匙を持って、オーリのいるテーブルへと戻った。


「よう、リンスィール。随分と遅かったな。鍋の汁がすっかり冷めちまったぞ!」


「オーリ。鍋の残りはゾースイにしよう」


「ゾ、ゾースイ? なんだそりゃ?」


 目を丸くしているオーリの前で、コンロの精霊石に再び火の魔法をかける。


「まあ、見ていろ。今、私が作ってやる。こうやって……」


 あっという間にできあがったゾースイを食べて、オーリも私も大満足だ。


「おおっ! こりゃうめえっ。辛くて濃いミソ味のスープを、柔らかな飯粒が吸い込んでやがるぜ」


「うむっ! 米のほのかな甘さに、全体に絡んだまろやかな卵。ヤクミのシャキシャキとした爽やかさがたまらぬな」


 オーリがニヤリと笑い、親指でクイクイとエールの入った大樽(おおだる)を指し示す。


「マリアは『あんまり飲みすぎるな』っつってたけどよぉ。もう一杯、いっちまうか?」


「ふふふ。そうだね。こんなに美味い飯と酒を前にして、我慢するバカもおるまいよ!」


 私たちは、上機嫌でジョッキにエールを()みに行った。

 そうして、さらに調子に乗って、二人で杯を重ねた結果……。

 次の日の朝。店のテーブルで酔い潰れていた私たちは、カンカンに怒ったマリアにそろって叩き起こされたのだった。

鍋の〆の雑炊には、餅を入れるのも有りですね。

ご飯が絡んでモチモチにとろけたおもちは、なんとも言えない旨味があります……。

あああ、炭水化物爆弾っ!

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― 新着の感想 ―
汁物にはやっぱ雑炊よな。 知る者ぞしる。
〆雑炊ネギたっぷり追加で そいとモツ鍋に〆の中華麺がうまいよなぁ。 餅はうまいけど鍋の後始末がめんどいんのよな。
ものすごく行儀が悪いのは承知の上だけど、麺がまだあるのに飯を入れて麺とご飯が絡んだやつも実は好き……。
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