Another side 24 part2
「お前……。本っ当に苦労したんだなぁ」
同情的なレンの言葉に、コノミはおちゃらけた口調で返す。
「まあニャ~! 現実とネットで二回も大火事にあったなんて、きっとボクくらいだニャ。でも、こっちの世界で最初に出会ったのが、アーシャで助かったニャア。カタコトだけど日本語できたから、ボクと話できたからニャ! ね? アーシャ!」
ずっと黙って聞いていたアーシャが、静かな声で言った。
「……うちは不器用な女にゃけど。愛情の示し方はタイショや義父ちゃん、リンスィールやナンシーたちから教わったにゃ」
そう言うと彼女は、おもむろにコノミを抱きしめた。
「え。ちょ……? ちょっと、やめてよアーシャ! 何してるの!」
「安心しろにゃ、コノミ。お前はもう、うちの子にゃ。お前をイジメるヤツらからは、うちがしっかり守ってやるにゃ」
「……っ! そ、そんなコトっ! 今さら言われなくたって、この二年でちゃーんとわかってるよぉ! ……ア、アーシャってば、毎日ボクの世話焼いてばかりで、ずーっと面倒みてくれたじゃん?」
照れ臭そうに言うが、手を振りほどこうとはしない。
アーシャは優しく笑う。
「ちゃんと言葉にして、態度で示すのが大切にゃ。今、どんな気分にゃ?」
「え? ど、どど、どんなって……? ま、悪くない気分だけどニャ」
しばらく、二人は無言で抱き合う。
コノミが顔を赤くする。
「ねえ。こんなの、やっぱり恥ずかしいよう! レンさん見てるのに」
「俺はしばらく向こうに行ってる。大切な人が側にいるうちに、素直になれよ。……俺が言わんでも、とっくにお前はわかってるだろ?」
レンはそう言うと、クルリと背を向けて屋台を後にした。
「……う、うん。そだね。レンさんの言う通りだ。じゃ、アーシャ。もうちょっとだけ、このままでいさせて」
コノミがギュッと力を込めると、アーシャは彼女の背中を優しく撫で始めた。
「よしよし、よしよし……。好きなだけ甘えろにゃ。コノミは偉いにゃ。可愛いにゃ」
「……うん。ありがと、アーシャ。暖かくて、すごく気持ちいい。身体だけじゃなくて、心が、すっごく暖かい」
静かな夜の路地裏でぬくもりに包まれ、コノミは小さな声で呟く。
「ボクも言葉にするね。大好きだよ、アーシャ……。ずっと一緒にいようね。こっちの世界での…………ボクの、お母さん」
数分後。
屋台に戻ったレンは、冷蔵庫の扉を開けながら問いかけた。
「おい、コノミ。コーラは好きか?」
「えっ? うん。好きだニャ」
「よっし。それじゃ、みんなで飲もうぜ!」
言いながらレンは、500mlコーラのペットボトルを三本取り出す。
プシュっと開けて二人に手渡すと、コノミとレンは「カンパーイ!」と言って、ペットボトルをぶつけてコーラを飲んだ。
コノミは半分ほど勢いよく飲んで、だらしなくゲップをしながら言う。
「んぐ、んぐ……ぷっはぁーー! げふぅっ。キンッキンに冷えてやがる! ……アレ? どしたの、アーシャ。飲まないの?」
「おい、アーシャ。変なもんじゃねえぞ。美味いから、グッといけ、グッと!」
アーシャは真っ黒な液体が入ったペットボトルを、眉をひそめて見ていたが、二人に促されて口をつけると、一気にグイっと傾けた。
彼女の喉が上下した、次の瞬間。
「ぶっへえらぁああーーーッッ!?」
アーシャは鼻からコーラを噴き出した。
「ぐっ。ギャハハハハッ!」
「ぷっ。アッハハハハハ!」
レンとコノミが爆笑する。
「う、うう~! は、鼻の奥が痛いにゃ……。コラ、お前らっ! 人が苦しんでるのに、なに笑ってるにゃ!? ゲホ、ゴホ……ぶへええーっ!!」
「い、いや。悪い……! プクク……クグ。あ、ダメだこりゃ。ブッフゥー!」
「い、今、鼻からコーラが……ブビャーって! ブビャーって! 綺麗に二本、噴き出して! 地面に当たって! アッヒャッヒャー!」
「バ、バカ、やめろ、コノミ……そんなこと言うと、ずっと笑いが止まらねえ! ウッハハー!」
「アキャハハハ、ケラケラケケラケラッ!」
「ククククク、クハハハハ、ゲラゲラァ!」
「お、お前ら~っ! ひ、ひどい奴らにゃっ! 最悪にゃあ!」
アーシャは地団太を踏んで悔しがるが、レンとコノミの笑いが止まることはなかった……。
そこから、さらに数分後。
ようやく笑いが収まった二人に、ふてくされた表情のアーシャが言う。
「うち、今夜はかなりカッコよかったと思うにゃ! ……なんで、笑い者にされるのにゃ?」
「すまねえ。悪いのは、全面的に俺らだよ。ほら、コノミ。お前も頭を下げろ」
「ごめんニャ、アーシャ……。つい、我慢しきれず笑っちゃったニャ」
アーシャは二人を交互に睨みつける。
「うちを罠にハメて二人で笑って、さぞ気持ち良かったにゃ?」
「いやいや、誤解だよ! 罠じゃないって。俺らは単に、美味いから飲ませたかっただけだってば」
「そうそう。でも、コーラを知らない人が一気飲みすると、あんな風にむせるんだねえ」
「ふん! ウンコ色のスープだったり、黒くて爆発する液体だったり、お前らが口に入れろと進めてくるのは、いつだって変なのばっかりにゃ……」
アーシャはすっかり拗ねてしまい、頬を膨らませてそっぽを見ている。
レンとコノミはヒソヒソ声で話をした。
「おい。カレーのこと、まだ言ってるよ。意外と根に持つタイプなんだな」
「ねえ。このまま一緒に家に帰るの、気まず過ぎるよぉ! レンさん、どうにかして欲しいニャ……」
「しょうがねえ。とっておきを出すか」
どこで区切るか迷ってしまいました。
Another24は次回で終わります。




