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Another side 24 part1

 レンが屋台を引いて夜の街を歩いていると、前方から人影が二つやってきた。

 うち片方が、大きく手をふる。


「おーい、レンさーん!」


「コノミじゃねえか。元気にやってるか?」


「元気だったニャ。こんばんはニャ」


「おう、こんばんは。アーシャも、こんばんは」


「こんばんはにゃ。コノミがラメン食べたいっていうから、食いに来たにゃ」


 レンは屋台を止めると、席を二つ用意する。


「ベジポタは売り切れだ。限定ラーメンは余ってるから、それでいいか?」


「うん。熱々なら何ラーでもかまわないニャ」


「うちも。任せるにゃ」


「よっしゃ。今すぐ作ってやるから、待っていろ」


 レンはスープと白菜と豚バラ肉を鍋で煮込み、麺を茹で上げ完成させると、丼を二人の前に置いた。

 コノミは一口食べると、目を丸くして声を上げる。


「うっわぁ! すき焼き味のラーメンだぁ!」


 その一言に、レンは苦笑する。


「いやいや、すき焼きって、お前……。確かに甘めの牛出汁(ぎゅうだし)醤油で、日本人に一番馴染みのある料理はそれだけどもよ。でも、入ってるのは豚バラ肉だぞ?」


「あはは。ボクさ、両親が死んで、親戚に引き取られたって言ったじゃない? その家ではすき焼きの時、牛肉は食べさせてもらえなかったんだよ」


「……えっ」


「その家の本当の子は、ちゃんと牛肉食べてたけど。ボクが食べていいのは、白菜とシラタキと安い豚バラだけだったの。だから牛肉味のスープに入った豚バラ肉が、私の中でのすき焼きなんだー。……うーん? 両親が生きてた頃は、普通のすき焼きも食べてたはずなんだけどなー? もう、全然味覚えてないニャー! ニャっははー」


「………」


 笑い交じりのコノミの言葉に、レンはしばらく絶句した後、目頭を押さえて呻いた。


「くぅっ!」


「アレ? どしたニャ、レンさん?」


「……コ、コノミ。俺がいつか、お前に極上の牛肉を食べさせてやる! 約束する!」


「え、うん……? ありがと」


 コノミは不思議そうな顔をして、またラーメンをすすり始めた。

 二人がラーメンを平らげると、レンは丼を回収し、カウンターに水の入ったグラスを置く。


「腹一杯になったか?」


「うん。美味しかったニャ。レンさん、ごちそうさまー!」


「美味かったにゃ。ごちそうさまにゃ」


 コノミは背中を丸めて、水をゴクゴク飲みながら言う。


「ねえ、レンさん。ボクのこと、ネットで調べずにいてくれてるでしょ?」


「まあな。俺の店でトラブル起こしたわけじゃねえし、昔の事件を特定する趣味はねえ」


「あはは、好きだニャー。レンさんのそういうトコ! じゃあ、ボクの口から全部話すニャ。いい機会だから、アーシャにも聞いて欲しいニャ。ボクの昔の話……」


 そう言うとコノミは、ポツリ、ポツリと自分の生い立ちを語り始めた……。




 親戚んちの階段下のクローゼットが、ボクの部屋ニャ!

 そこに引っ張り込んだ延長コードと、天井からぶら下げたLEDライト。

 画面の割れたお下がりのSIMなしスマホに、教科書やノート文房具の入ったカバン、中学の制服。

 着替えが少しに、月500円のお小遣いの入った財布……それが、ボクの持ち物全部だったニャ。


 ほんと、ハリーポッターかってのね! まあ、ハリーみたいに家事はやらされなかったけどニャー。

 いっつもお腹を空かせてたけど、ご飯の時が一番キツかったニャ。

 その家の食卓には美味しそうなステーキとかサラダとか、唐揚げとかお刺身とか並ぶんだけど、ボクの前だけあからさまにランク落とした料理が並ぶニャ。

 ツナ缶とかコロッケとか目玉焼きとか、ひどい時にはフリカケだけとか……もちろん、お代わり禁止ニャ。

 平日は給食があったから、まだマシだけどさぁ、栄養ぜんぜん足りてニャかったよ!


 深夜に親戚が寝静まった頃、ペコペコのお腹を抱えてこっそり抜け出して、コンビニで買い食いするのが月に何度か楽しみだったニャ。

 買うのは、コンビニチキン、プリン、カップ麺。それか、アイスクリームだニャ!

 駐車場で野良ネコの背中を撫でながら、ゆっくりゆっくり味わったニャ……。


 そんな、ある日ニャ。

 何気なーく応募したネットの懸賞で、ゲーミングノーパソが当たっちゃったニャ!

 親戚のいない時間に受け取りして、動画配信を始めたら、人気もそれなりに出ちゃってニャー♪

 せまっ苦しいクローゼットの内側に、発泡スチロール貼っつけて防音して、バレニャいように声を抑えてゲーム実況やって。

 押し入れに住んでるネコ型YouTuber……なんてね。夏なんかもう、汗だくニャ!


 それでも、あの頃は楽しかったニャ……金回りも良かったしニャー。

 毎晩、コンビニで豪遊ニャ!

 ネコにも、チュール買ってあげちゃったりして。

 でもある日、炎上しちゃったニャ。

 そう。文字通り、火がボウボウ……。


 配信で『お前、山田だろ?』ってコメント見た時は、心臓がギュウって縮んだよう……えっ? そうそう、山田。

 ボクの本名ね! 山田木乃実(このみ)。アハハ、ダサい苗字でしょ?

 ボクもね、あんまり好きくない。


 で、話を戻すけどニャ。

 ボクの両親が死んだのは、火事のせいニャ。団地が燃える大火事ニャ!

 ある夜、起きると部屋いっぱいの煙と、オレンジ色に燃え盛る炎だったニャ。

 お父さんがお風呂に残った水でシーツを濡らして、それをお母さんがボクに被せてくれて、煙に巻かれながら逃がしてくれたニャ。

 ボクは助かったけど、お父さんもお母さんも死んじゃったニャ。というか、周りみんな死んじゃったニャ。生き残ったのボクだけニャ。


 その火を出したのがうちだって、小学校でイジメられたニャ。

 でも、ボクは、違うと思うニャ。

 上の階の人がいっつもベランダでタバコ吸ってて、その灰がうちに落ちてくるって、お母さんが怒ってたニャ!


 うん。きっと、それが原因なの。

 でも、当時はパニックになっちゃって、反論なんかできなかったからさーあ!

 警察も消防も、火元はうちのベランダだって発表してたし、上の階の人も周りに住んでる人もほとんど死んじゃってて、私もちっちゃくて泣いてばかりで、誰にもこのコト言ってなかったからねえ。

 それでもすぐに親戚に引き取られて転校したから、もう終わったと思ってたんだけどニャ。


 過去が、殺しにやってくるってね。

 ネットで大火事の火元だって晒されて、もうみんなからバチクソ叩かれまくりニャア!

 せっかく人気者だったのに、配信するたびに荒らしコメの連続で、そのうち住所まで晒されて、親戚の家でますます肩身が狭くなっちゃって……で、引きこもり。

 学校行かなくても、誰もニャんにも言わないし、味方もドコにもいねーしニャ。

 ボクなんか、いても居なくても同じ……ううん。むしろ、早く消えちゃえって空気出してたニャ。

 配信で稼いだお金はけっこう残ってたけど、外を歩けるのは深夜だけ。

 そんな生活を、一か月くらいかニャ?


 あの夜もコンビニでカップラーメン買って、まあ親戚連中も寝静まってるし、家でゆっくり食べようかニャ……ニャーんて考えて。

 前から人が来たから、顔見られたくなくて遠回りしようと角を曲がって。

 そしたら、この世界に来ていたニャ。


ぜんこくの やまださんには もうしわけないが

ぼくがねこの じっきょうしゃの やまだだ!


山田の術 ↑↑+A


※作中のダサいはコノミの感覚です。作者の僕は、山田の者は一周回って可愛い苗字だと思ってます。

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― 新着の感想 ―
こがねむし入力が楽すぎてそれ以外でやったことないなあ
ブウウウウウンンン、ブウウウウウンンンンポーーーッ(なんか飛んでいく) おいなんだよこのラメン!やたら水っぽくてしょっぺぇじゃねぇか! オマケに器に、屋台まで歪んでやがるじゃねぇか……
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