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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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ヴァナロの『ラメン』、どう作る?

 タタミに(ひざ)をついたカザンが真っ直ぐに頭を下げる。


「よもや、あそこまで酷いものだったとは……! 申し訳ありませんでした、みなさま方っ!」


 それを見て、レンが笑った。


「大丈夫だよ、カザン。むしろ、あれくらい酷い方がやる気が出るってもんだぜ」


 ジュリアンヌが眉間にしわを寄せ、腕組みをして言う。


「それにしても、あのイッシンって料理人……ちょっとあんまりじゃなくって? 豚がないなら、チャーシュは他の物で作れば良いのですわ。鴨とか羊とか、使えるお肉は他にも色々ありますわよ」


 私は同意した。


「まったくだね。カザン君、彼は一体どういった男なんだ?」


「イッシンは、カザンが生まれる前からこの屋敷に仕えていて、二十年以上も料理を作り続けています。カザンの誕生日にはご馳走で祝ってくれますし、母上の命日にはお好きだった栗ご飯を墓前に供えてくれます。彼ならば、もっと美味しいラメンが作れるはずなのですが……?」


「だとしても、彼からはラメンに対する情熱が感じられないよ。ラメン作りには創意工夫が必要だ。担当するのは、別の料理人に変えた方がいいんじゃないか? オーリ、君もそう思うだろう」


 だがしかし、オーリは首を振る。


「いいや。俺っちは、そうは思わねえな」


「なんだと……? 意外だな、オーリ。タイショのラメンを復活させるため、ブラド君と一緒に二十年以上も頑張り続けてきた、君らしくもないセリフだ」


「違うぜ、リンスィール。逆だよ。俺っちやブラドは、()()()()()()()()()()()()()()()()、二十年も頑張れたんだ」


「なに。タイショのラメンを食べたからこそ、だと?」


 私が思わず聞き返すと、オーリは力強くうなずいた。


「そうだ。自分が進むべき場所が見える。そこに(いた)る道はわからなくっても、ゴールには世界一美味い食いもんがある……それがわかってたから、俺もブラドも必死になれたのさ。だけどよ、イッシンの奴はどうだ!? 食ったこともない料理を『ウマいから作れ』と命令されて、オマケにショーユや豚肉、いくつかの材料は手に入らないときた!」


「……ふむ、なるほど。一理あるな」


 どうせ、口下手なテンザンのことだ。

 ラメンや『ミソラメン』がどのような料理か聞かれても、「とにかく美味かった!」とか「味わったことのない美味であった!」とか言うだけで、二言目には「また食べたい。早く作れ」としか言わなかったに違いない……。

 そんな状況でせっつかれても、やる気を失うだけなのは想像に(かた)くない。


 オーリは、あご(ひげ)をしごきながら続けた。


「チャーシュだってそうだろ。豚肉を食ったことあれば、何で代用すればいいかも思いつく。けどよ。生まれてから一度も豚を食ったことない人間には、何を使えば豚の代わりになるのかすらわからねえんじゃねえか?」


 レンとジュリアンヌ、そして私も頷く。


「ああ。俺の国には、『百聞(ひゃくぶん)一見(いっけん)()かず』ってことわざがある。文字だけで情報を伝えるのは、想像以上に難しいんだ。それに料理ってのは、とにかく経験がものをいう世界だからな。微妙な塩加減や調味料のわずかな違いとか、レシピじゃ書ききれない情報もたくさんあるぜ」


「あたくし、豚を食べたことない人がいるだなんて、想像もしてませんでしたわ! 生まれた時からあたくしの身近には、豚もラメンも当然のようにありましたもの。でも、確かに……言われてみれば。豚肉に近い味のお肉だなんて、パッと思いつきませんですわね」


「レンにエルフの里でラメンを作ってもらった時も、現地の料理人には大いに反発されたよ。知らない料理を自分の主君がベタ褒めするのは、やはり料理人の立場からすると、良い気分ではないのだろうな」


 数々の言葉を聞いて、カザンはグッと息を()む。


「は、はい。みなさま方のおっしゃる通りです……っ。カザンは、イッシンの気持ちをまったく考えていませんでした……。彼の力量ならば、与えられた情報だけで十分に『ヴァナロのラメン』を作れると、そう短絡的に考えてしまいました……」


 エルフの里を出てから、200年余り。

 私は世界の各地で、『天才』と呼ばれる者たちを何人か見てきた。

 例えば、友人の『大錬金術師タルタル・ヴォーデン』もその一人だし、カザンもおそらくそうである。

 この若さで剣の腕は鍛えた騎士より遥かに強く、よく頭も回り、外交官としての仕事も立派にこなしている……。


 天才。なんでも(そつ)なくこなし、時には世界を変えるほどの力を持つ彼らには、だがある共通した『弱点』があるのを私は知ってる。

 それは、『普通の人の心がよくわからない』ということである。

 そしてもうひとつ。失敗の経験がほとんどないだけに『打たれ弱い』ことだ。


 カザンはショックを受けて、ひどく落ち込んでしょんぼりしている。

 何も言わずに肩を震わせ、うつむいたその頭を、レンが身を乗り出して大きな手でワシャワシャなでた。


「気にすんな、カザン! お前、料理は素人だろ。細かいことに気づかなくっても仕方ねえさ」


「そうだぜ。だからこうして、俺っちたち専門家が遥々(はるばる)ヴァナロまで来たわけだしな。小難しく考えずに、ガキは大人を頼りゃいいんだ」


「うむ。大船に乗ったつもりで、私たちに任せておきたまえよ。ヴァナロのラメン作りに誠心誠意、全力を持って取り組まさせていただこう」


「オーッホッホッホォ! このスーパー天才美少女貴族料理人のジュリアンヌ・シャル・ド・ペンソルディアがお手伝いしてさしあげますわ! なぁーんにも心配いらなくってよ?」


 カザンは目の下を真っ赤にして、我々を見てニッコリと笑った。


「お、おじ様、みなさま方! カザンは……カザンは、本当に果報者(かほうもの)ですっ!」


 その可愛らしい顔に、私たちはなんだか照れてしまう。

 どうやら彼には、『人たらし』の才能もあるようだ。

 ふと、サラがこの場にいたら、鼻血でも吹き出してたろうな……と、そんなことを思った。


 しばらくしてから、ジュリアンヌが得意げに言った。


「こほん。ま、それはともかくとして……あたくしにかかれば、問題はあっという間に解決ですわ!」


 オーリが興味津々で問う。


「へえ、なんか名案でもあんのかい? 『無敵のチャーシュ亭』の店主さんよ」


「簡単なことですわよ。ねえ、カザン。ヴァナロの人たちが食べないのは猪だけで、豚は食べられるのでしょう?」


「はい、そうですね。豚と猪は見た目が大きく違いますから、ヴァナロの民も父上たちに遠慮はしないで食べるでしょう」


「だったら、ファーレンハイトから豚を運んでくればよろしいんじゃなくって? サラさんに頼めば、あっという間に行き来できますもの。ついでにこれを機に、ヴァナロでも養豚(ようとん)を始めればよろしいのですわ! ねーっ、エリザベスー?」


 ジュリアンヌはニコニコ顔で、足もとのエリーに笑いかける。

 主人に同意を求められ、小豚は嬉しそうにブヒブヒ鳴いた。

 むぅ。なにやら、残酷な光景だ!


 すぐさま私は、手を振って言う。


「いやいや。それはダメだよ、ジュリアンヌ嬢。『ゴトーチラメン』の主義に反する」


「ゴ、ゴトーチ……ラメン……? なんですの、それは?」


 私はジュリアンヌに、ゴトーチラメンとは『その土地の名物的なラメン』であること、その土地の住民が馴染みやすく日常的に作りやすいよう『できるだけ土地に根差した素材を使う』ことなど、『ゴトーチラメンの極意』を教える。

 話を聞いたジュリアンヌは、キラキラした目になった。


「土地ごとに違った味のラメンだなんて……すごいですわ、ゴトーチラメン!」


 レンが言う。


「なあ。まだ時間もあるし、とりあえず外に出てみないか? ヴァナロのリアルを知らなきゃご当地ラーメンは作れないし、腹減らさないと夕食も満足に食えないだろ」


 と、サラが引き戸を開けて顔を出す。


「ねえ、みんな。ちょっと山までお芋堀りに行かない? 自然薯(じねんじょ)掘り!」

東郷平八郎「なあなあ!イギリス海軍でめっちゃ美味いビーフシチューって料理食ったんだけど、日本でも作ってくれん?」

部下「へえ。やってみましょう!で、どんな料理ですか?」

東郷平八郎「んー、なんかね。肉とじゃがいもとタマネギ入ってた……じゃ、よろしく!」

部下(はぁ!?そんな情報で作れっかよ!?)


数日後


部下「……な、なんとかできた!」

東郷平八郎「なんか、思ってたんと全然違うけど……これはこれで美味いからよし!」

部下「肉とじゃがいも入ってるから、肉じゃがと名付けましょう」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ブタさんを連れてきたら外来種だもんな。止めて良かったよw海外のホジラだっけ?豚と猪のハーフとかめっちゃでかくなるみたいだし
[一言] 『タイショのラメンを食ったからこそ20年も頑張れたんだ』 この言葉、グッと来ますね。この小説の全てに於いて通じるような気がします。 魔改造と言うか、ある四川料理を日本人の味覚に合うようにケ…
[良い点] 作ったことないのを作れと言われても・・・←普通 こうやったら・・これでもいいな・・できた←日本人 ですねw 厳しい自然環境で培われたんでしょうねえw [気になる点] 自然薯? もしや・・…
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