いざ、遥かなる東方に
道があるだけで、なぜ怖い?
答えは次回ッ!
異世界ラーメン屋台、ネット小説大賞で期間中受賞いただきました!
そんな三人を遠巻きに、オーリが言う。
「よう! おめえたち、話は決まったか? なら、そろそろ出発しようぜ!」
その言葉にジュリアンヌは、先ほどまで自分たちが上っていた塀を指さし、言った。
「ええ、それもそうですわね。ダルゲ、鞄をもってきなさい」
ダルゲは塀の裏から、隠してあった自分たちの荷物と思しき物を抱えてくる。
立派なトランクと、年代物のボロボロのトランクと、大きな布で包んだ荷物だ……。
ジュリアンヌは、その中から立派なトランクを掴み取ると、従者二人にヒラヒラと手を振った。
「じゃ、ミヒャエル、ダルゲ。あとはよろしく頼みますわね。あたくし、ヴァナロに行ってきますわ」
二人の目がキョトンとする。
ややあって、ミヒャエルが言った。
「え。ジュリ様、あとはよろしくって、どういう意味でヤンスか?」
「どういうって、そのままの意味ですわよ。二人はこの街に残ってちょうだい」
「ええーっ!? そ、そんなのないでヤンスよ、ジュリ様っ!」
「そやで、お嬢ッ! わいらかて、海外旅行する気満々でこうして用意してきたんや!」
ジュリアンヌは思案顔で、人差し指を顎に当てて言う。
「だって、よくよく考えてみたら、レンの言う通りなんですもの……。『お父様、ジュリアンヌは東方のヴァナロにラメン作りに行ってきますわ』なんて手紙ひとつ残してあたくしが消えたら、きっとすっごく心配なさりますわよ! だから、あなたたちにはお父様にちゃんと説明をさしあげてほしいんですの」
ダルゲは引きつった顔をした。
「お、お嬢……。それ、わいらが旦那様にめっちゃ怒られるやつやん?」
だけどジュリアンヌは、平然とした顔で言い返す。
「あら、いいじゃありませんの。お父様に怒られるくらい。なんですの、ダルゲ。あなた、あたくしの頼みが聞けないんですの?」
「せ、せやけど、お嬢……っ! そんな殺生な……!」
彼女はブツブツと文句を言うダルゲから、今度はミヒャエルへと視線を移す。
「それに、副料理長は普通のラメンは作れても、鴨ラメンは作れませんわ。ミヒャエル。あなた、あたくしがどんな材料を使ったか、量も種類もちゃんと覚えてますわよね?」
「仕入れをしたのは、あっしでヤンスからなぁ。そりゃあ、もちろん覚えてるでヤンスけど……」
「ミヒャエル、あなた、あたくしがどうやって鴨ラメンを作っていたか、副料理長に教えてさしあげなさい」
「えーっ!? か、鴨ラメンはお休みでいいでヤンショ!? どうせ、儲けになってないでヤンスよっ! あんなの、やるだけ損でヤンス!」
「あら、いけませんわ。いくら庶民の皆様といえど、あたくしのお店にラメンを食べに来たお客様を、ガッカリさせるわけにはいきませんもの。これは命令ですわよ。いいですわね?」
ジュリアンヌはペットのエリーを抱き上げると、トランクを持ってレンの隣にちゃっかり立った。
「ダルゲ、ミヒャエル。二人とも、お土産は期待してていいですわよ。安心してお留守番してなさいですわ! オーッホッホッホ! オォーホッホッホッホッホォー!」
従者二人は口をあんぐり開けて固まっていたが、ジュリアンヌが高笑いを始めると、互いに顔を見合わせて諦めの表情でため息を吐いた。
「はぁ……ジュリ様。自分だけヴァナロ観光するつもりでヤンスか。ズルいでヤンス!」
「外国のウマイ飯を、たらふく食べよ思てたのに……置いてきぼりはあんまりやぁ!」
こ、これは酷い……!
まさか、交渉だけさせて留守番させるとはな。
まるでフォレストウルフに獲物を狩らせて骨だけ与えるようではないか!?(エルフの言い回しで『飴と鞭』の鞭だけ、あるいは『釣った魚に餌を与えない』に近い意)
ま、ダルゲとミヒャエルは哀れだし、ジュリアンヌのおもりがいなくなることに、若干の不安はある……。
だがしかし、ここでまた揉めて、これ以上ヴァナロ行きが遅れるのだけは勘弁願いたい!
みんなも同じ気持ちだったらしく、レンは腕組みをして目をつぶり、サラは苦笑いして、カザンは困り顔で首を傾げ、オーリは咳払いしつつも視線をそらしてる。
要するに全員が呆れていたが、誰もが一刻も早くヴァナロに行きたがっていたのだ。
それでも一応、サラが小声でジュリンヌに聞く。
「ねえ。あの二人、本当に置いてっちゃっていいわけ? あなたの家来なんでしょ?」
「かまいませんわ。今回だけは、どうしても絶対に……ダルゲとミヒャエルに甘えずに、レンと向き合わなければなりませんの」
「……ふうん。それじゃ、みんな! 出発するわよ。こっちに集まって!」
サラは手をパンパンと叩き、チョークで地面に魔法陣を描いた。
その中心に全員が集まる。
すると、すぐに魔力が集まりだして、周囲の景色がグニャリと歪んだ。
ミヒャエルとダルゲが、心配そうな声で叫ぶ。
「イトー・レン! そして、皆々様方! どうかどうか、ジュリ様をお頼みするでヤンスよーっ!」
「お嬢ーっ! 腹出して寝たらあかんで、風邪ひくからな! レンはんの言うこと、よっく聞いてやー!」
その声が、あっという間に遠のいていき……。
ふと気づくと、私たちは木造の小屋の裏手、藪の中に立っていた。
私は、すぐ隣にいるサラに聞く。
「もう、ヴァナロについたのかね?」
「ええ、そうよ。ここは、街道沿いにある茶屋の裏手ね。剣の一族の都『ブシン』はすぐそこだわ」
出発は夜だったが、時差があるので周囲は明るい。
「ふむ……? よく見ると、我々の大陸とは植物の形が違うな」
しかし、サラのワープ魔法は本当に不思議だ。
呪文もなしに簡素な魔法陣ひとつで、こんな簡単に空間を転移できるとはな!
藪をかきわけて表の道に出ると、目の前に大きな街の入り口があった。
「おおっ、ここが我が友、テンザンの故郷か……!」
建物の多くは二階建てで木製である。
石造りの建造物もいくつか見えるが、明かり取りの窓が一つあるだけで扉も重そうだし、居住用ではなさそうだ。おそらく、貯蔵庫の類だろう。
私たちの常識ではファーレンハイトをはじめ、『大きな町』は魔王軍の侵攻にそなえて、壁で囲まれて入り口には門番が立っているものである。
しかし、ここには壁はなく門番もおらず、みなが自由に出入りしていた。
なるほど。この地には、魔王軍の脅威が及ばないのだな……なんとも羨ましい!
それから、私は何気なく後ろを見て……ゾッとした。
なぜならそこには、『真っ直ぐな道』がどこまでも続いていたからだ。
道があるだけで、なぜ怖い?
答えは次回だ!
更新ペース落ちててごめんなさい。
ちょっと一眠り……と思ったら、日付変わってた(汗




