レンの作る『ラメン』とは?
オーリがガハハと豪快に笑い、レンの背中をバシンと叩いた。
「ま、ラメン勝負となりゃあ、レンが負けるこたねえもんな!」
即座に私も同意する。
「うむ、そうだね。なにしろジュリアンヌ嬢の言う『本物のラメン』とは、『タイショのラメン』に他ならないからな」
この世界のラメンはみな、タイショのラメンを目指して作られた。
そしてレンは、『タイショのラメンそのもの』を作ることができる。
つまりタイショのラメンを作って食べさせれば、誰もがレンの勝ちを認めざるを得ないのだ!
しかし、レンは首を振る。
「いや。今回の勝負、親父のラーメンは作らねえぜ」
「えっ……? なぜだね」
「それじゃあ、勝っても意味ないからだよ。ジュリアンヌは、『鶏ガラ醤油スープの伝統的な中華そば』にこだわってんだろ? だから、スープなしの油そばを否定する……たぶん、味噌も豚骨も塩もカレーも、どんなに美味くっても、中華そば以外の全てのラーメンを否定するだろう」
サラが首を傾げつつ言う。
「ええ、そうね。だからこそ、お父さんのラーメンを作って勝てばいいんじゃない?」
「いいや、親父のラーメンで勝っても無駄だ。それじゃ結局、あいつは中華そば以外のラーメンを否定したままだ。俺の油そばを捨てた事だって、『あれはやっぱりスープ無しだから捨ててもよかった』って、反省なんかしねえんじゃねえかな?」
サラは大きく頷いた。
「うん、確かに。あの娘の性格ならありそうね!」
レンは静かに、そして真剣な声で言う。
「俺はあいつに、中華そば以外のラーメンの魅力を教えてやりたい……その美味さをな。そうしてこそ、あいつは油そばを捨てた事を後悔する! だから、親父のラーメン以外のラーメンで勝たなきゃダメなんだ」
「ふむ? なるほど。単に勝つだけならば簡単にできるが、それは本当の勝利ではない。真の勝利とは『ジュリアンヌ嬢にチューカソバ以外のラメンを認めさせる事』だと、君はそう言うんだね?」
「ああ、そうだよ」
オーリがしかめっ面で言う。
「けどよぉ、レン。お前さん、さっき自分で言ってたが、その頭コチコチの高慢娘がチューカソバ以外のラメンに負けたって、それで素直に納得するとは思えないぜ?」
「そうだ。そこで俺は……親父のラーメンを作ることに決めた」
「「「……ンんんっ!?」」」
三人そろって、変な声が出た。
我々の目が点になる。
ややあって、サラが戸惑いながら言う。
「え? え、ええっ?? ちょ、ちょっと待って、レン。さっきと言ってること、矛盾してない!?」
レンは、唇をニヤリと持ち上げる。
「親父のラーメンだけど、親父のラーメンじゃねえ。それは、かつて親父が屋台で出そうとしてた新メニュー……そこに俺なりの改良を加えた一品を出す!」
私とオーリは、ハッと思い出して叫んだ。
「し、新メニューっ! タイショの命日に片づけを手伝った後、チラリと言っていたアレかね!?」
「や、やっとか……! やっと、どんなラメンかわかるのか!? 俺っちにも食わせてくれるよな!?」
「ああ。勝負に関係なく、みんなにも食べさせるよ。ラーメン勝負か……楽しみだなぁ。あいつ、なかなかポテンシャルは高そうだしな」
ポロリと漏らした彼の一言に、サラが不思議そうに尋ねる。
「そんなの、どうしてわかるのよ? あなた、彼女のラーメンは食べてないじゃない」
どんなラーメンかわかってもネタバレなしでお願いします。
次は週末に投稿予定です。