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【2巻11月1日発売】異世界ラーメン屋台、エルフの食通は『ラメン』が食べたい  作者: 森月真冬


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another side 15 part2

 間近に迫る、レンの顔……。

 マリアはキョドキョドと辺りを見回す。

 ふと気づけば、辺りは情熱的なキスを交わす恋人でいっぱいである!

 それを見て、マリアの顔はいよいよ真っ赤に染まってしまう。


 少しの逡巡(しゅんじゅん)を見せた後、マリアはギュッと目をつぶって、レンの方へと身体を預けた。


「……ア、アイッシェ。レンさん」


 しかし、せっかくマリアが覚悟を決めたというのに、レンはパッと身体を離してしまう。


「おおっと、悪い。つい興奮しちまった! 怖がらせるつもりはなかったんだ」


 マリアは前につんのめって()()()を踏んで、すんでの所で体勢を立て直す。

 そして、恨めし気にレンを睨んだ。


「む、むぅー! レンさん!?」


「だから、悪かったって。もう謝ったろ? 怒らないでくれよ、マリア」


「カルセオ、ドルマっ! レンさん、レンさんッ!」


「い、いてっ? いてて……ちょ、叩くなってば。そんなに怖かったのか!?」


 ポコポコ殴られながら、レンは苦笑する。

 だが今、マリアが怒っているのは『レンが抱き留めてくれなかったから』で、決して彼が怖かったからではないのだが……。

 はたから見れば恋人同士がじゃれ合ってるとしか見えないが、なんだか噛み合わない二人だった。


「悪かったよ。ただ、あの女の子は俺にとって、すっごく特別な存在でさ」


 と、レンはまたもや遠い目をして、回想モードに入ってしまう。

 マリアはため息をひとつ吐くと、また壁に背を預けてレンの顔を見上げた。


「はぁ……。アイシェ、クーマ。ミルジェ、レンさん」


 先をどうぞ、と。手で指し示す。


「俺、あの夜からしっかり眠れるようになったんだ。不眠症がピタリと治っちまった! それどころか、寝るのが楽しくなった。寝れば、あの子に会える気がしてよ……毎晩、ワクワクしながら布団に入ったっけ。今思えば、あれが俺の初恋だったなぁ」


「アー、ハツコイ?」


 初恋。

 その発音をたどたどしく真似るマリアに、レンは爆笑する。


「あっははは! そう、初恋だ。初恋!」


「プリオ・ドール? ハツコイ……ハツコイ! レンさん、ハツコイ!」


 レンが笑ったことが嬉しくて、マリアは嬉し気に何度もハツコイと連呼する。


「ふふふ。言葉が通じてたら、こんなこと照れ臭くてとても打ち明けられねえや! 『あんたが初恋の人かもしれない』なんてな……あっはっはぁ!」


 ひとしきり爆笑した後で、レンは言う。


「それにな。あの子は、親父のラーメンも護ってくれたんだよ」


「ラメン? タイショさん・ラメン?」


「そうだ。あの朝、俺を背負いながら親父は言った。『レン。お前、道端で眠りこけてたんだぞ。父さんを探しに来たのか?』。俺が『うん』って頷くと、『そうか。寂しい思いさせてすまないな』ってよ……あんなに情けない親父の声を聞いたのは、初めてだったぜ。それからしばらく、親父は夜も家にいた。また俺が抜けださないか、心配だったんだろう。けれど毎晩ちゃんと眠れてるのがわかると、また屋台を出しに行った」


 レンは寂し気な顔でフッと息を吐いてから、話を続けた。


「お袋の入院で大変な時期だったし、治療の借金もあったから店を構えるって選択肢はなかったはずだ……きっとあのままだったら、親父は屋台を諦めて昼の仕事に鞍替(くらが)えしてたろうな。もしラーメン屋をやめてたら、親父は事故で死ななかったかもしれない。でも、ラーメン屋って生き方を捨てた親父は、絶対に幸せではなかったよ」


 そこまで言うと、レンはグーっと伸びをする。


「本当にありがとな、マリア……さて。言いたいことは全部言えた。そろそろ帰ろうぜ! ……けど、うーん? あの子にお礼を言うのが、ずっと夢だった……けどよぉ。言葉が通じてないって、これはお礼言えた事になるのかな?」


 レンは話の後半は寂しげだったり悲しそうだったりで、あまり良い表情をしていなかった。

 今も、複雑そうな顔をしている。

 マリアは少し考えてレンの手を取り、ニッコリ笑って言った。


「セラフィ・ダ・テルミナ。レンさん!」


 レンはハッとした顔をして、それから言う。


「……ああ、そうだ。『セラフィ・ダ・テルミナ』だ! 今ので、ハッキリ思い出したぞ。あの夜、あの子が俺に言ってくれた言葉がそれだよ。この笑顔に、この言葉。うん。やっぱあれは、マリアで間違いねえ!」


 セラフィ・ダ・テルミナ。

 意味は『私がついてる、大丈夫だよ』だ。

 レンの顔にも笑顔が戻る。


「……実は、みんなに出会ってしばらくしてから思い出したんだけどよ。俺な、あの路地で眠る前に声を聞いたんだ。あの声は、リンスィールさんとオーリさんだったな……。そしてあの女の子と、男の子の声……ふふっ。あの時は、なに言ってるのかわからなかったけど」


 レンは得意気に喋る。


「みんなと友達になった、今ならわかるぜ! マリア、こう言ったんだろ? 『この子、ひとりで泣いてたのよ。助けてあげて!』だ。リンスィールさんはきっと、『変わった服を着ているな。どこから来たのだろう?』だな。オーリさんは、『へっ、どこからだってかまやしねえ。俺らで親を探してやろう! 見つからなかったら、俺っちが引き取るぜ』で、ブラドは多分、『わあ、義父(とう)さん! この子、僕らの家族になるんですか?』だろうなぁ」


 あの日あの時あの場所で、レンの想像したようなやり取りは確かにあった。

 会話の中身も、ほとんど合ってる。

 ただ……これはもちろん、レンが知るはずもないのだが。


 その後、オーリが眠るレンを抱き上げて家へと連れ帰ろうとしたら、路地を出る前にレンの姿は彼の腕から消えてしまったのである!

 新しく家族に迎えるはずだった少年がいなくなり、見つかるまで帰りたくないとわんわん泣きじゃくるマリアを(なだ)めるため、リンスィールとオーリとブラドはそれはもう、大変な苦労をした。


 また、それからマリアはずっとメソメソし続けて、しばらくは日々の食事も喉を通らぬほどだった。

 その事件は未だにオーリの子供達が集まると、定番の昔話として酒の(さかな)にされているのである……。

次は……おかしな三人組

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― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、子供だから私お姉ちゃんみたいなところもあったんだろうけど、女王様は大変だ。
[良い点] そーだったのか つまり運命の二人 ということですねw [一言] 次回 おかしな三人組 誰だ? 思い当たるのがいっぱいいてw もしや新キャラ?w
[一言] そんな過去が………甘い話かと思いきやなんだか甘酸っぱいような、しょっぺぇような………あったけぇような。 ええい、次のラーメンドンブリをもてーい!(照れ)
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