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Another side 15 part1

 時間は少し前後する……。

 これは、レンがリンスィールに油そばを食べさせる前日の出来事である。


 夜。『黄金のメンマ亭』近くの空き地に、幻想的に光る『魔法のラーメン』が浮かんでいた。

 その周囲には、たくさんの恋人たちがたむろしている。

 まだ夜は寒いから、彼らはそこかしこで互いの身体を密着させ、瞳を覗き合って情熱的な愛の言葉を(ささや)く……今、ここは町で噂のデートスポットなのだった。


 そんな中に、レンとマリアはいた。

 レンは壁に背を預け、マリアは頬をわずかに染めて、レンの隣にそっと寄り添う。

 マリアの首にはレンがプレゼントした、赤いストールが巻かれてる。

 その姿は(はた)から見れば、『日が浅くて初々(ういうい)しい恋人同士』に見えるだろう。

 と、レンが言う。


「マリア、つきあってくれてありがとな。リンスィールさんの話だと、たぶんあと数日もしたら消えちまうって話だからよ……せっかく自分で作ったもんだし、最後にもう一度くらい見ておこうと思ってさ」


「アイッシェ。レキドラ、アルマ。レンさん!」


 この場に通訳はいないから、互いの言葉は通じない。

 それぞれが好き勝手に、自分の気持ちを口にするだけである。

 しばらくしてから、レンがまた口を開いた。


「実は、俺……子供の頃に、この世界に来たことがあるんだ。多分、みんなにも会ったことがある」


 マリアが不思議そうに、レンの顔を見上げる。

 レンは光るラーメンから目を離さずに、懐かし気に話を続けた。


「お袋が病気で入院して、しばらく経ってからかな……全然、眠れなくなったんだ。不眠症ってやつだよ。親父は屋台を出してたから、夜は一人ぼっちで家にいた。そしたらある晩、親父までいなくなるんじゃないかって、急にすごい不安に襲われてな。子供だった俺は、親父を探しに夜の街に飛び出した……」


 話してる内容は、何ひとつマリアには伝わっていなかった。

 しかしレンは、(せき)を切ったように喋り続ける。


「親父が回る道は覚えてた。だけど、追いかけても追いかけても親父の姿は見つからない……ルートを外れて角を曲がり、必死で探し回った。ふと気がついたら俺は、見知らぬ路地にいたよ。周りの景色は、まるっきり日本じゃないみたいだった。路地の向こうに明るい光が見える。そっちへ行こうととしたら、目の前をトカゲみたいな大きな人間が通って行った。俺はびっくりして、固まっちまった!」


 身振り手振りを入れて喋るレンを、マリアはじっと見つめている。


「その後も牛みたいな人間や、背丈は子供くらいなのに白髪の老人やら、色んな奴らが通って行った。中には普通の人もいたんだろうけど、とにかく目にする全てが異常に見えて、ものすげえ怖かった……で、頭抱えて(うずくま)って震えて泣いてたら、誰かがポンポンと背中を優しく叩くんだよ。おそるおそる顔を上げたら……女の子がいた」


 レンは懐かし気に、遠い目をして言う。


「その子は聞いたこともない言葉で喋りながら、涙目の俺をギュっと抱きしめてくれてよ。それから、路地の向こうに駆けてった。しばらくしてから熱々のラーメン持ってきて、割りばしをパチンと割って、麺を持ち上げて、ふぅー……ふぅー、こうやって息を吹きかけてな。ニッコリ笑って、俺の口元に差し出すんだよ」


「クル、トリガ。イドラマ、レオ……デル、ラメン?」 


 首を傾げて聞き返すマリアに、レンは嬉しそうな声で言った。


「ああ、そう。ラーメンだ! ふわりと上がる湯気に、嗅ぎ覚えのある匂い。口に入れると、それはいつも食ってた親父のラーメンの味だった。俺が麺を(すす)ると、その子も麺を啜る。具も、二人で半分こしてな。スープも一緒に飲み干した。食べ終わって腹が一杯になった俺は、強烈な眠気に襲われた。ウトウトしてる俺は、誰かに抱き上げられた……で。気づくと俺は、屋台を引く親父に背負われてた」


 レンは、それきり黙り込む。

 それから彼は、マリアの前に立って壁にドンと手をついた。


「ル、ルクチェ!? デビファルコ、デラ・エンジェント……? レ、レンさん……!」


 突然の積極的な行動に、マリアの頬が赤く染まる。

 レンは、彼女の顔をジッと見ながら言う。


「この世界に来るまで、あれは全部『夢』だと思ってた。けどよ……! なあ、マリア! あれ、『あんた』だったんだろ!?」

後半も数日中に投稿します。

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― 新着の感想 ―
[一言] あれ?なんでマリア?アグラリエルじゃなくて? ……と思ったら通訳のリンスィールさんがいないのか
[良い点] いやいい雰囲気やけど伝わってないやん!
[一言] 女王様、戦う前から負けていましたか…
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