混ぜて美味しい『アブラソバ』!
レンが置いたガラスのボトルには、わずかに色づいた液体が入っている。
顔を近づけると、ツンとした酸っぱい匂い……おそらく、酢だろう。
ドンブリの方には、クリーム色のナッツのような小さな塊が山盛りになっていた。
私は一粒つまんで口に入れ、言う。
「ふむ。これはエルフの里で作ってくれた、『カキアゲ』の欠片だね?」
レンは頷く。
「そう。天ぷらの衣、揚げ玉だな」
「ほほう、これが『アゲダマ』か!」
以前、レンがエルフの里を訪問した際、『カキアゲ』というフライ料理を作ってくれた。
その時に私が「揚げ物がラメンに合うのだろうか?」と疑問を呈すると、レンが一例として挙げたのが『スラーメン』である。
魚介系の出汁スープに、胡椒と『アゲダマ』をたっぷり入れて食べるのだそうだ。
カキアゲは非常に美味しい揚げ物であったが、具も入ってないその欠片だけというのは、はたしてどのような効果を生むのだろうか?
「では、さっそく試してみよう」
備え付けのスプーンで、山盛り一杯のアゲダマをアブラソバにかけてみた。
アゲダマ自体にはなんの味もついてないが、小麦粉が植物性の油でカラリと揚がって香ばしく、サクサクの歯ごたえがモチモチのメンと対照的で、食べるのが楽しい。
このクリスピーさ、クセになるな……。
素朴で単純だが、なかなか優れた食材であるようだ。
次に、アブラソバに酢を掛けると……おおっ!?
油っぽいコテコテの食べ口が、酸味で洗い流されて一気にさっぱりしたぞ!
なるほど。コッテリ感が欲しい時はアゲダマを、サッパリ感が欲しい時は酢をチョイスすればよいわけか……対象的な二つのアジヘンで、両方の食べ飽きに対応できるようにしてあるのだな。
再び食欲を取り戻した私は、ドンブリに顔を近づけてズッハズッハとメンを啜る。
途中、合間合間にチャーシュを齧り、メンマを食べて、白ゴマの香ばしさを堪能する。
しばらくするとアゲダマは、アブラソバのタレを吸ってしっとりと変化し、歯応えはホロリと舌先で潰せるほどの柔らかさになった。
濡れて膨らんだアゲダマは、メンにぺっとり張り付いて、なんとも面白くて味わい深い!
先ほどまでのクリスピーさは失われたものの、油で揚げられた小麦粉のコクが、中太のメンによく絡まる。
掛けたばかりはややきつかった酢の酸味も、食べてるうちに混ざったのか、生のニンニクや生姜と馴染んで全体的にまろやかに……タレや具材がそれぞれ強く主張していた最初の頃とは違い、今は非常にこなれた味になっている。
混ざれば混ざるほど口当たりは滑らかになって、味もどんどんウマくなる……油そばは、そんな不思議な魅力をもったラメンだった。
けっこうな量のメンがあったはずだが、ふと気づけば残りはもう僅かである。
ラメンは最後に、『スープをゴクゴク飲み干す満足感』で〆るものだ。
けど熱いスープがなくったって、アブラソバはメンの量が多いため、満腹感はラメンに引けを取っていない。
私はドンブリを持ち上げ口をつけると、残ったアブラソバを一気に口へと掻き入れた。
まろやかな酢をまとった中太のメンが、濃いタレが染み込んだフニャフニャのアゲダマが、爽やかな辛味のヤクミが、独特の歯ごたえのメンマや、肉々しい味わいのチャーシュが、ドッと雪崩れこんでくる!
それらをモクモク、ザクザクと噛みしめて……うむ。
途中のアジヘンのおかげで、最後まで美味しく食べられたな。
ふぃー、大・満・足っ!
本日はあとひとつ投稿予定です。




