プロローグ 『ラメン』との出会い
超不定期連載です。
その『奇妙な男』がやってくるようになったのは1年前からだと言う。
城下町ファーレンハイトの町はずれに、不思議な車を引いて男が現れては、夜な夜な見たことも聞いたこともないような不思議な料理を民にふるまうのだと……その名は『ラメン』!
金はとらず、ただ一方的に料理を提供するだけなんだとか。しかも、それが今まで食ったこともないような味わいで、すこぶるウマイのだという。
そんな噂を聞きつけて、この私、エルフのリンスィールもファーレンハイトを訪れた。
恥ずかしながら、私は『食通』を気取っている。エルフなどという者の多くは、森の恵みを口にして生きているため、味には無頓着と思われている。
しかし、それは誤解というもので、我らエルフは毒物を見分ける術に長けてるため、味覚自体はそれなりに鋭い種族であるし、森で狩った動物も口にする機会が多いので、肉の味にも肥えている。
そんな中でも、他種族の多い国に100年も滞在し、稼ぎの多くを『食道楽』に費やしてきた私は、舌も料理の知識もエルフの中でも随一を自負していた。
エルフは小食と言われているが、私はウマい物ならいくらでも腹に入る。そこらのヒューマンよりもよっぽど量を食べる自信があるし、大食いと言われるドワーフやオーガとさえ張り合ったことがある。
つまりは、私はエルフ界1の『食いしん坊』なのである!
さて、そろそろ時刻は夜の二時過ぎ……辺りは三日月の頼りない光だけで、周囲には闇がわだかまる。しかし、闇の中はギラギラとした欲望に満ちていて、今か今かとその時を待ちわびている……。
ふむ? 早くも噂を聞きつけて、同じ食通どもが集まってきたようだな……。
しかし……噂の男は本当に来るのだろうか?
話によれば、来るのは毎晩ではなく、来ない日もあるのだと言う。真偽不明の噂のいくつか統合した結果、どうやら彼は、六日来て一日休む七日刻みのスケジュールで現れるようだった。
そこまで考えて、私はニヤリと笑う。
なるほど。時間神クロノアが定めた周期は十一日刻みだから、もしかしたら彼は、独特の宗教を信仰してるのかもしれない。
田舎には、変わった郷土料理も多く存在している。どこか、聞いたこともないような辺境のド田舎の出身なのだろう。それが珍しい味だから、都会っ子である食通たちの間で話題になったということか……!
私は、己の冷静な分析をほくそえむ。
それにしても、遅い……もしかして、今日は来ない日なのだろうか……?
だが果たして、その時はやってきた。
チャラリ~チャラ♪ チャラリチャララ~♪
闇の中から、奇妙な音色が響いてくる。次いで、ガラガラという音と共に、金属製の笛を口にしたハゲ頭の男が姿を現す。
頭には捩じった紐を巻いている。なんと、服装は白一色だった。あそこまで飾り気のない服を着るとは、まるで聖職者である!
彼が引っ張る車は驚くほど大きくて木製で、みすぼらしくて塗装もされていない。真っ赤な布が片方に下がっていて、そこになにか文字らしきものが描いてあった。
文字の意味はわからないが、図形を正確に書き記すと以下である。
「味自慢 ラーメン」
さらには、車の後部に位置する真っ赤な紙製のランプにも図形が描いてある。
意味は解らないが、やはり正確に書き記すと以下である。
「ラーメン 太陽」