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魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~  作者: 長月京子
第九章:魔王となった理由

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43:邪悪(ガルドル)の真実

「おまえも知らぬような大昔の話だ。ーー神の鉄槌により人界(ヨルズ)は滅び、天界(トロイ)も大部分を失った。神は二度と繰り返さぬように、男にまず破滅(ラグナロク)を授けた。男は神の一撃を手に入れ、それにより世界はさらに対等ではなくなった。そして神は次に創生(アウズンブラ)の力を授けたが、男が独りで破滅(ラグナロク)創生(アウズンブラ)を携え発揮することは荷が重い。男は創生(アウズンブラ)を愛する女に継承した。女は与えられた創生(アウズンブラ)により、世界に肥沃な大地を蘇らせる」


「それが、ーー天界(トロイ)破滅(ラグナロク)創生(アウズンブラ)を手に入れた経緯ですか?」


 元から手にしていたのではなく、神によって天界(トロイ)に与えられた時期があった。


「あなたの話す神とは、眩い火(ヴァルハラ)のことでしょうか?」 


 相変わらずルシアの問いには答えず、古き者(ブーリン)は淡々と続ける。


天界(トロイ)人界(ヨルズ)は分かたれ、昔のように干渉しあうこともなく再び平穏な時が過ぎた」


 古き者(ブーリン)はルシアを見つめた。


「しかし、ここで再び問題が起きる。男の愛した女の姉が、人界(ヨルズ)に生きる者に心を移した。人を愛したのだ。それを契機に再び世界は繋がってしまう」


 ルシアはレイアの記憶を辿る。人界(ヨルズ)の王トールへの焼けつくような想い。古き者(ブーリン)の語る昔話が、再び同じような経緯をたどる。本当に自分達には関係のない話なのだろうか。


「ーーでも、争いにならなければ問題にならないのでは……?」


人界(ヨルズ)には天界(トロイ)破滅(ラグナロク)のように、圧倒的な力による序列がない。ずっと争いを繰り広げているような有様だった。そこに天界(トロイ)の女神が降臨した。双神の姉には創生(アウズンブラ)のような圧倒的な力はなかったが、人々にとっては古に失った天界(トロイ)の神だ。人界(ヨルズ)天界(トロイ)が繋がり、再び終わりのない争いを繰り返しそうになったが、破滅(ラグナロク)を与えられた男は神の意図に従い、人界(ヨルズ)にその力を行使する」


「そんなーー」


「焦土と化した大地は、女の創生(アウズンブラ)で肥沃な大地を取り戻すーーはずだった。しかし、実際は最悪の事態を招いた」


「最悪の?」


破滅(ラグナロク)により、双神であった女の姉も愛した者に準じて命を落としたのだ。……たとえ天界(トロイ)の神でも、失われたものは戻らない」


「それは……」


 破滅(ラグナロク)により失われたレイア。双神の片割れ。やはり同じような成り行きだと思ったが、ルシアは口にすることをためらう。古き者(ブーリン)にからかわれているのではないかと思ったのだ。


 意味ありげに語られる昔話。本当にあったことなのかどうかもわからない。


「それから、何が起きたと思う?」


「え?」


 古き者(ブーリン)のからかうような笑みが消えていた。ルシアには自分の経緯が辿れない。レイアを失った悲嘆があったのかもしれない。けれど、まるで目隠しをされているかのように何も見えない。哀しみを取り除かれてしまったかのように、片鱗すらも思い出せないのだ。


「私には、わかりません」


 古き者(ブーリン)は労わるように目を眇める。ルシアは視線を伏せた。答えられないことに後ろめたさが伴う。古き者(ブーリン)の声が続けた。


創生(アウズンブラ)の女神の悲嘆が、邪悪(ガルドル)を生んだ」


「--っ!」


 ルシアは弾かれたように顔をあげる。胸の内で耐え難い憶測が生まれた。咄嗟に古き者(ブーリン)を見ると、彼はじっとルシアを見つめていた。


創生(アウズンブラ)は神が与えた特別な力だ。女神の悲嘆は人界(ヨルズ)の絶望と繋がり、途轍もない邪悪(ガルドル)を生んだ。破滅(ラグナロク)を与えられた男はなんとか邪悪(ガルドル)を封じたが、結局うまくいかなかった。天界(トロイ)は滅びてしまった。ーーこの地底(ガルズ)が、その成れの果てだ」


「あ……」


 身が竦み、鼓動が激しくなる。ルシアは立っていることもできなくなり、崩れ落ちるようにへたり込んでしまう。まるで視界から色を奪われたように心が塞ぎ、一気に奈落に沈む。


「ただの昔話だ」


 古き者(ブーリン)は深刻さのない声で締めくくるが、ルシアの胸に広がった波紋は、すぐに津波のように大きなうねりとなって心を飲み込む。


「では、ディオン様の飼う、邪悪(ガルドル)は……」


 失われた想い出。今は片鱗も蘇らない哀しみ。

 創生(アウズンブラ)の女神の悲嘆。


 彼はルシアの絶望ごと全てを受け止めたのではないのか。だから、どうしても思い出せないのだ。

 欠けてしまった心は、邪悪(ガルドル)となってディオンの内にある。

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