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4:噛み合わない会話

 びくりと目覚めると、見慣れた調度が視界に入った。レイアはひどい悪夢を見ていたのだと考えたが、それはすぐに覆された。


「ルシア様」


 聞いたことのない少女の声がする。レイアは勢いよく身を起こして、寝台に寄り添う者を見た。見慣れた魔王の宮殿(オーズ)の塔内。ノルンの気配はなく、知らない少女が控えている。誰かに似ている気がしたが、思い出せない。


「ノルンはどこに? あなたは誰なのですか?」


「わたしをお忘れですか? ルシア様」


「……私はあなたを知りません」


 知っていたのかもしれないが、今はわからない。少女は澄んだ碧眼でじっとレイアを見つめる。


「ーーわたしはクルドと申します。本日からルシア様のお世話をすることになりました。至らぬことがあるかもしれませんが、何なりとお申し付けください」


 自分より少し年下にみえる少女が平伏す。レイアの胸に、じわりとノルンがいない理由が蘇る。悪夢であれば良かったが、あの凄惨な出来事は現実なのだ。


 魔界(ガルズ)の王。


 予想と違わぬ非道な行い。何のためらいもなくノルンを切り捨てた。恐れと絶望で血の気が引く。何も失うものなどないと考えていた自分が、傲慢だったのだろう。


 ノルンと過ごした日々があまりに平穏で、自分の立場を見誤っていたのだ。

 囚われの身であること。

 自分は魔王に隷属することしか許されない。

 浅はかに逃亡を試み、天界を目指したせいでノルンを失ってしまった。自分のせいだと、レイアは唇を噛む。

 すぐに視界が滲み始め、手で顔を覆って声を殺した。


「ルシア様、どこかお苦しいのですか」


 ひたすら声を殺して泣いていると、クルドが何度も「ルシア様」と労わるように声をかける。レイアは涙に濡れた顔のまま、クルドを見た。


「私はレイアです。あなたは、いったい私を誰と間違えているのですか?」


 気を失う間際、あの恐ろしい黒衣の男ーー魔王もその名を語っていたのではないか。

 ルシア、と。

 レイアは涙を拭って、クルドに強い視線を向けた。


「私はレイア。レイア=ニブルヘム、人界の民です。ルシアとはいったい誰なのです?」


 クルドが明らかに戸惑った顔をする。レイアはこみ上げた疑問を全てぶつけた。


「それに、あなたは魔族ではなさそうです。あなたも私と同じ人界の者ではないの?」


 クルドが何かを悟ったのか、こくりと息をのむのがわかった。すぐに彼女のあどけない瞳にみるみる涙が溢れだす。


「クルド?」


 突然泣き出した彼女を見て、レイアは慌てる。何か途轍もなくひどいことを言ってしまったのだろうか。狼狽えるレイアの気配が伝わったのか、クルドがすぐに涙を拭って顔を上げた。

 何かを吹っ切ったように、明るい笑顔をレイアに向ける。


「ルシア様はお優しいから、そのように母の想いを受け止めて下さったのですね」


「え?」


 レイアには何を言われているのか分からない。言葉もなくクルドを見つめていると、彼女は考えこむように顎に細い指をあてて何かを思案し始めた。


「私はルシア様のお気持ちは嬉しいです。でも、これは相当にやっかいなことになってしまいました」


「あの、クルド、とにかく私はルシアという者ではないのです」


 レイアが話を元に戻すと、クルドはきっぱりと答えた。


「いいえ。あなたはルシア様です。レイアは私の母でした」


「え?」


 たしかにクルドが誰かに似ていると感じたが、それでも突然打ち明けられた事実は、レイアにとって作り話でしかない。


「突然、何を言い出すのです? あなたが私の娘?」


「違います。あなたはルシア様。そして、わたしはレイアの娘です。ーールシア様。とにかくいまあなたがご存知のことを、私にお話しくださいませんか?」


「私の知っていることを?」


「はい。これまでの経緯や、ノルンのことを」


「ーーわかりました」


 まるで悪い夢をみているような気持ちになっていたが、このままでは一向に話が進まない。レイアはクルドの問いに荅えることにした。 

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― 新着の感想 ―
[良い点] ノルンがぁー、ノルンさんがー……という展開からの、今話はすごくドキッとしました。読んでいる自分自身がヒロインの心の動揺とリンクしているような感じがして、ここでヒロインへの感情移入がバッチリ…
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