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魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~  作者: 長月京子
第六章:重なり焦がれる心

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30:重なる面影

「ディオン様」


「お前の気配はわかりやすい」


「え?」


「私に会いたくてたまらないと、浮き足立っている」


 ルシアはカッと顔が熱くなる。彼が何を根拠に言い当てているのか分からないので、意地をはった。


「ディオン様がすぐに帰ってしまわれるのではないかと思って、気が急いていただけです。昨日もお伝えしましたが、私はあなたにお聞きしたいことがあるのです」


 ディオンは小さく笑う。


「いいだろう。そういうことにしておく」


 彼がルシアにも椅子に掛けるようにと手招きする。ルシアが近づくと腕を掴まれた。強い力に引き寄せられて、勢いで彼に身を寄せるように長椅子に腰掛けていた。


「おまえが望むなら、私はそばにいる」


「では、これからはずっとこちらにいて下さいますか?」


 ディオンの訪れを待つような物思いはしたくない。ルシアが意地を張らずに伝えると、ディオンは驚いたように眉を動かす。すぐに困ったような微笑みが浮かんだ。


「そのまっすぐな物言い。全てを忘れていても変わらないな」


「え?」


「残念だが、私はこちらに身を置くことはできない。それなりに安定してきたが、それでも最果て(ユグドラシル)はまだ未熟だ。放っておくことはできない」


 ルシアは目隠しを外されたような気持ちで、ディオンの美しい顔を仰いだ。改めて彼の立場を考える。これまでは信じないことを言い訳にして最果て(ユグドラシル)についてを深く考えたことがなかった。


「本当にこの地底(ガルズ)で、人々が生活をしているのですね」


「ああ、最果て(ユグドラシル)の環境は人界(ヨルズ)に等しい。彼らは逞しく生きている。きっと美しい世界になる」


 ルシアは胸が温かくなるのを感じた。


(ーー私はこの世の平和を望む。人界(ヨルズ)の自由な世を)


 記憶に刻まれた言葉が、ディオンと重なる。もう疑いようもない。


「私は覚えています」


 ディオンの赤い左眼がルシアを見た。


「ずっと人界(ヨルズ)の王であったトール陛下の言葉だと思っていましたが、あれはディオン様の言葉だったのですね」


「私の言葉?」


人界(ヨルズ)の平和と自由な世を望むと、そう言っている面影がずっと胸に刻まれていました。何も思い出せませんが、それだけは忘れていません。私はその人にとても焦がれていました」


 ルシアはディオンに腕を伸ばした。彼の胸に頰を寄せる。伝わってきたぬくもりに安堵した。


「蛇となったノルンの言葉に惑わされ、あなたを信じなかったことをお許しください」


「ルシア」


「今は誰よりもディオン様のことを信じています」


 少し身を離して、もう一度ディオンの顔を見た。ルシアはそっと指先で彼の右眼を隠す金細工をなぞった。


「ディオン様に何があったのか教えてください。なぜ墜天したのか、なぜ邪悪(ガルドル)を身に飼うことになったのか」


 ディオンはルシアの背中に手を回して身体を引き寄せる。強く胸に抱かれて、彼がどんな顔をしているのか見えなくなる。


「簡単には説明できない」


「それでも知りたいのです。教えてください」


 ディオンの鼓動が伝わってくる。ひとときの沈黙があった。


「――もう過ぎたことだ。今さらおまえが知る必要もない」


「そんなことは――」


「ルシア。おまえにはこれからのことを見ていて欲しい」


「これから?」


「そうだ」


 身体を抱く力を緩めて、ディオンの端正な顔がルシアを覗き込む。眼が合うと再び強い力に引き寄せられた。昨夜のように唇が重なる。ディオンの想いを受け入れることに意識が焼かれ、ルシアはそれ以上彼を問い質す言葉を見失った。


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