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魔王と囚われた王妃 ~断末魔の声が、わたしの心を狂わせる~  作者: 長月京子
第五章:古き者の影

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22:蛇の意味

「え?」


「最期はどうであれ、人界(ヨルズ)でのノルンとの想い出が失われるわけではありませんので……。だから私も時折花を手向けに来ています」


「……そう、ですか」


 明かされるたびに心が揺れる。何が本当で嘘なのか。

 ルシアはノルンの墓標を仰いだ。ここに来た意味を見失いそうになっている。


「なぜ、それほど心を通わせた者に、彼はあれほど無慈悲な行いが出来たのでしょうか。少しの迷いもなく……」


「蛇を身に飼うということは、魔に心を明け渡す事に等しい。昔父様にそう聞いた事があります。天界(トロイ)の者が遣わす蛇は美しい力ではありません。その昔、魔界の王が邪悪(ガルドル)を放ち、世界に厄災をもたらした事に等しい行いだと、元になる働きが同じなのだと、そう言っていました」


「蛇が邪悪(ガルドル)と同じ?」


「はい。それでも、ノルンには何か理由があったのではないかと信じています。でも、一度明け渡した心は戻れません。いずれは生きながら大蛇の姿となったでしょう。だからディオン様は決断されたのだと思います」


「でも、何の迷いもなく、あんなに呆気なく……」


「ルシア様のお気持ちは、痛い程わかります」


 やはりクルドもディオンの無慈悲さを感じていたのかもしれない。


「本当にノルンを助けることは出来なかったのでしょうか」


「ーーディオン様は……」


 クルドが何かを言い淀んでいる。沈黙が満ちたが、ルシアは促すこともなくじっとクルドを見つめた。


「ディオン様はなぜ身に邪悪(ガルドル)を飼っているのでしょうか」


「え?」


天界(トロイ)の神だったとしても、邪悪(ガルドル)を飼うなんて」


「クルド」


「本当は私もアルヴィもとても不安なんです。ディオン様の右眼を見てから、少しずつディオン様が何か悪いものに変わってしまうのではないかって」


 クルドがルシアの腕を掴んで、不安を吐き出すように続ける。


「蛇を飼うノルンを助けることはできなかった。これは本当です。私も頭ではわかっています。それでも、ノルンを手にかけた事には、少なからず邪悪(ガルドル)の影響があったのではないかって。そう思うと不安でたまらないんです。もしディオン様までノルンのような末路を辿ってしまったらーー」


 いつも毅然としていた少女が嘆くように打ち明けた胸の内。ルシアははっと心が動くのを感じた。ずっと自分の事ばかりを考えていた。こんなに非力な少女と共にあったのに、思いやりや労わりを欠いていた。なんて浅はかだったのか。


「クルド」


 ルシアはそっと彼女の細い肩に腕を回して抱きしめた。

 何が本当で何が嘘なのか。その迷いがルシアに目隠しをしていた。


 迷いが、本当に大切なことを見えなくする。

 どんな理由があろうとも、傍に在る者に寄り添う心を忘れてしまっては意味がない。


「ディオン様は、大丈夫なんでしょうか」


 クルドの細い肩が震えている。

 ルシアの内で不安定に揺れる心は変わらない。虚実についての答えは得られない。それでもルシアは一つの筋道を描く。疑って心を失うくらいなら、騙されても自分らしくあった方が良い。肩を震わせる少女を慰めることもできない自分など、必要ない。


「大丈夫。ディオン様には何か考えがあるのでしょう。クルドやアルヴィが信じるのなら、私も信じます」


「ルシア様……」


「だから、大丈夫です」


 ディオンを信じることはまだできない。けれどクルドを信じることに迷いはなかった。ディオンを想って不安だと訴える美しい少女と、泣きながらディオンを案じる無垢な少年。


 クルドとアルヴィ。この姉弟を信じることならルシアにもできる。何のわだかまりもなく、受け入れられる。


「クルド。これからは私も一緒に悩んで考えます」


「ーー……っ」


 ずっと堪えていた感情を爆発させるように、クルドが声をあげて泣いた。

 ルシアは戸惑うこともなく、彼女を抱きしめていた。

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