最後の光
ズウウン・・・ズウウン!!!
巨人の進む足音が地に響く。
シュオンッ!!!
その目の前に飛び出すフェニ。そしてその背に乗ったケルピーとステイン。
「フェニ!!光線は俺が逸らす!それ以外の攻撃に注意しろ!」
「わかりましてよ!!」
「ケルピーはフェニのフォローだ!風の魔法でフェニの加速を!!」
「任されよう!フェニよ。訓練でもやったが、息を合わせるぞ!!」
「ケルピー兄とならバッチリですわ!」
風に乗るフェニのスピードはとんでもなく、鬼が腕を振り回して捕まえようとするが捉えきれなかった!
ガパアアッと口を広げ、光線を放ってくるが、悉くステインが空へと逸らしていく!
キュインッ!!キュキュインッ!!!
金属が擦り合うような音を響かせ、火花を大量に散らしながら巨人の周りを旋回し続ける。
しかし、連戦の疲れもあるフェニとケルピー、また、完全ではないステインの魔力と気では限界が近かった。
「もう少し堪えろ!!ハクとシトリン達が魔国に着くまでだ!!!」
「おう!最後の頑張りだ!!!」
「ええ!これ以上、無様な姿は見せなくてよ!」
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!」
ステイン達が力を振り絞る中、巨人が吠える!!
ズウウン・・・ズウウン・・・ズウウン!!!!
ステイン達の相手をしながら一歩一歩進む。確実に魔国に近づいていた。
「そろそろか?フェニ!ケルピー!巨人を一度攻撃する!!!」
今までフェニの上に捕まっていたステインが立ち上がる。
ケルピーとフェニはステインが攻撃する間、光線を警戒する。
「ぬうううううん!!!」
ステインが唸ると、残っている魔力を集め、気を重ね合わせる。
バッと手を地に向けると力を解放した!
「『気功術 仙水』!『アース・バインド』!!複合魔法『グランド・バース』!!!」
気で目的地までの道を虚空に作り、土系の魔法を滑らせ、目的地で気と魔力を爆発させるステインの持つ地形破壊の技である。
ゴゴゴゴゴゴゴッ!!!
これにより、鬼の巨人の足元を削り、足を滑らせる。
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!?」
ズズズウウウウウウウンッ!!!!
倒れ込む巨人。
しかし、上を向いている顔をステイン達がいる方へ向けると光線を吐き出す!
「当たらなくてよ!?」
「ステイン殿!この後は!?」
「はあ・・・はあ・・・あ、ああ!この後は・・・」
グッタリと疲れ果てているステインだったが、この後の行動をケルピーとフェニに話すと、更に鬼の巨人と相対し続ける。
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『魔国 首都』
ワアアアアアアアああーーーー!!
民衆が逃げ惑っていた。
巨大な鬼の巨人は魔国からでもハッキリと見えていた。
魔王はあの後、魔国に戻り、今まさに避難しようとする民衆に合流。
戦況を話し、皆んなで魔国に留まっていた。
「落ち着くのだ!民よ!!希望は潰えておらぬ!!見よ!?あの光を!!」
魔王が城壁に登り声を張り上げる!
民衆は魔王の声に反応し、城壁の隙間から巨人を見る。
パッパッ!!!
と、遠目で確認しづらいが光が瞬いていた。
「わかるか!!我等が魔族を守る為に戦ってくれている者がいる!そして、其の物は皆も知っている!!聞け!!!『英雄殺しの英雄』だ!!!!我等を守る為に『英雄』が戦っている!魔族として・・・いや、人間として!無様な姿を晒すでない!!我と共に信じて待つのだ!!!」
魔力に乗せた拡声された大声が響き渡っていく。
『英雄』が来ているーーーー
それが魔族の希望となった。
全ての民衆がそれで鎮まった訳ではないが暴動は抑え切った。
これ以上は兵に任せ、城壁の見晴らしがいい場所で魔王は巨人をずっと見ていた。
そこへ魔王の右腕であるデニス側により、魔王に話しかける。
「彼、ステイン殿が戦っているのですかね・・・?」
「だろうな。神の使いの方達も凄まじかったが、あの巨人は別格だろう。今までいた影の化け物があの巨人に吸い込まれていっていたのは見たであろう?全ての集大成の化け物だ。あんな物ステイン以外にどうこう出来る奴を我は知らぬ。」
「勝てますかね・・・」
「奴で勝てねばどの道勝てる者が居るはずがないだろうが!逃げても同じだ。」
「そうですね・・・」
「大丈夫だ。ステインが負ける姿など我は想像さえしきれぬよ!」
戦いから眼を逸らさずに腕を組みジッと巨人の周りにある光を見る。
魔王から焦りは一切見えず、デニスはその魔王を見て覚悟を決めた。
「流石魔王!いい事言うね?」
「「!!??」」
スタンッと城壁の上に巨大な白い虎が降り立つ。ハクである。
途轍もないスピードで駆け抜けて今魔国に到着した。
控えていた兵が警戒するが魔王が兵を静止させる。
「貴方様は神の使いの!!如何なさいましたか!?」
魔王が膝をつく。
それを見たデニスはハッとして膝をつき、尋ねる。
「も、もしや、ケルピー殿と同様の!?」
「うん。調停者だよ!まあ、あんまり役に立ってないかもだけど・・・」
「い、いえ!先の化け物は貴方様がたが倒してくれたのです!魔王である私は手も足も出せませんでした!」
「そう?まあいいや。ステイン兄ちゃんからの伝言だよ!」
「ステインから!?」
「ステイン殿・・・?」
魔王達が落ち着くのを待ってハクはゆっくりと言う。
「えっとねー、民は城壁から出すなって!それから、多分この城壁の上に皆んな来るから許可してって言ってたかな?」
「おお!ステイン・・・」
「かしこまりました。兵よ!ここの守りはいい!民衆を一歩たりとも外に出すな!」
ハクの言葉に頷き、デニスが兵に指示を出す。
バタバタと兵が城壁から降りていくと、続けてスタンッと降り立つ姿があった。
「ふうう〜〜〜!ついたのですよ!」
「ああ〜!えっとえっと、デニス?さん!」
「あわわわわ!ま、魔王様!?」
「そ、それに宰相様〜〜!?」
シトリンが到着した。
魔王とデニスの姿を見て魔族の夫婦が慌てて頭を下げる。
マリンとシトリンを知っているデニスが魔王にマリン達の事を説明をする。
ズズズウウウウウウウンッーーーーー
そして遠くで音が鳴り響く。
皆んなそれからは話をする事なく鬼の姿を見ていた。
しばらく鳴り響く轟音。
少しづつ鬼の巨人が移動しているがステインが妨害しているのだろう。
ちょっとずつズレながら向かって来ていた。
夕陽が完全に沈みかけて来た頃、轟音が鳴り止むと言葉を無くしていた皆んなの処へとフェニが降り立つ。
「お疲れ様。フェニ!後はゆっくりしていてくれ。」
「うむ。フェニよ。素晴らしい働きであった。」
「兄達のサポートがあればこそですわ。」
ステイン達が城壁に降り立つ。
「よう!元気だったか?魔王!」
「ステイン・・・お主は・・・」
久しぶりに会うステイン。
危機的状況にも関わらず普段と変わりない様子、魔王が知っているステインそのものだった。
色々言いたい事はあるのだが、それを押し留め、今はステインに一言だけ言う。
「頼むぞ友よ。終わらせてくれ!」
「おう!任せろ!」
そしてゆっくりと家族の元へと顔を向ける。
「ステイン!お願いね・・・」
「わかってる。マリンは良い子にしてろよ〜」
マリンの頭を撫でる。
「お父様!私はお手伝いしますか?」
「いいよ。シトリンもゆっくり休んでろ。」
擦り寄ってきたシトリンを撫でる。
「お兄ちゃん、早く終わらせてご飯お願い〜〜!」
「ああ、もう夜になるしな!」
冗談混じりのハクに頷く。
「兄上。帰ったら稽古をお願いできますか?」
「フェニならすぐ強くなりそうだな!」
真面目なフェニの羽根をポンポンと叩く。
「ステイン殿、いつも済まない。」
「気にするな!早く皆んなで帰ろう!」
申し訳なさそうなケルピーと頷きあう。
魔族の夫婦は祈るようにステインを見ている。
デニスは魔王の側でステインに向かって頷いた。
皆んなが見ている中、ステインは城壁の先に立つ。
ズウン・・・・ズウウン・・・・
地響きが魔国に響く。
既に鬼の巨人の攻撃範囲に魔国は入っていた。
キイイイイイイイイイイイインッーーーーー
今日一番の黒光りした光が巨人の口に集まり始めた。
「すううう・・・はあああ・・・」
ステインは焦る事なく深呼吸すると、意識を集中して眼を閉じる。
己の中に残っている少しの気と魔力。
そして、『聖気』。
ゴウッ!!!!!!
闇夜が広がり始める中、白い光が溢れてくる。
カッと眼を見開いたステイン。
そして、叫ぶ。
「俺の家族と友達を傷付ける奴は!!!!」
グッと腕を前に押し出す。
ステインは考えていた。
鬼の巨人が出す光は『ブラスター・レイ』なのでは?と。
自分の技が随分勝手に使われているなと。
だから、真っ向から撃ち抜くことに決めていた。
故にトドメの技は決まっている。
「テメエは2度と立ち上がれないように!ぶっっ飛ばす!!!!!」
鬼の巨人の黒い光を消すように白い光が高まる。
そして、光線が鬼から放たれた!
「ガアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」
魔国ごと飲み込みそうな光線が迫ってくる。
しかし、マリン達は冷静にその光景を見ていた。
何故なら、ステインが負けると思っていないからだ。
ステインがぶっ飛ばすと言ったからだ。
ステインの本気の宣言の前に無事でいたものをマリン達は知らないからだ。
そして、ステインはそのマリン達の気持ちに応える。
「最後だ!『気功術 金剛』!!『マジック・ブースト』!!!そして、『聖気 重倍化』!!!」
今までよりも強い光が放たれる!!!
「聖なる秘術!!!名付けて『セイント・ブラスター・レイ』だああああああーーーー!!!!」
キュンッーーーーーーーーーーーーーーーーーーシュゴッ!!!!!
一瞬で霧散する黒い光線・・・・
「ガアアア!!!???」
それは鬼の巨体を飲み込み、夕闇を明るく照らしながら敵を包み込んでいた・・・
「ゴ・・・アア・・・ア・・・」
キイイイイイイイン・・・・・・
白い光の余波が治る頃には鬼は完全に消滅していた。
たった1人の人間が放った光。
その光が夕闇を明るくする。
その希望を乗せた聖なる光が溢れている静かな光景が、
長かった戦いの最後の光景だった・・・
という事で、魔国の戦いは終わりです!
次回はエピローグ挟んで、現状の能力を紹介した後、新章に行こうかと思っています。
よろしければお付き合いお願いいたします!




