光
男の腕がマリンに振り下ろされる。
その光景がゆっくりと流れて見える。
ケルピー達が必死に身体を動かそうともがいている。
男は薄ら笑いを浮かべている。
そして、マリンはーーー
「ステインーーーーーー!!」
必死にその名前を叫んでいた・・・・・
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『ステイン』
「!?」
誰かに呼ばれている様な気がしてステインが振り向く。
「ガルルルルルッ!!!」
「チイイッ!!」
その隙を突いて魔人の力が襲いかかる。
ステインはまだ狼の様な怪物と戦っていた。
「オラア!!」
「グルッ!!」
ガキンッ!!!
『聖気』を取り込んだステインと、魔人の力は拮抗していた。
互いに決定打を打ち出せずに戦い続けている。
元々がステインという身体に納められていた力。
言うなれば自分自身と戦っているかの様に攻撃がシンクロする。
ステインが蹴れば、怪物も蹴る。
拳を繰り出せば、拳がぶつかる。
その行動シンクロが、下手に技を繰り出すことを躊躇させる。
お互いに下手な技では相手を倒せない事は勘付いている。
だが、大技を出せば同様に反動として隙ができる。
例えば『ブラスター・レイ』は途轍もない魔力を気で強化した身体を軸に光線として打ち出すが、打ち出した後に光線の威力の反動を受け、一瞬の硬直を起こす。
ノーリスクで撃てる大技など無かった。
故に、今ステインと怪物はお互いの身体一つで戦わざるを得なかった。
これだけシンクロしている相手の技の隙を逃すはずなどないからだ。
「ハアアアッ!!!」
「グルッ!!ガアアアッ!!!」
ガキンッ!!ガンッ!!!ゴウンッ!!!!
拳や蹴りを打ち付け合う。決着は着きそうになかった。
これは、実は行動がシンクロしているだけでは無く、ステインの残っている力の量による所も強かった。
『聖気』を取り込み、怪物と同等くらいまでは持っていける様になったが、力だけを比べたらステインは未だに怪物に及ばなかった。
それをステインは技術力で同等まで持って行っている。
怪物が知性的でなかった事がステインのアドバンテージになってくれていた。
【・・・・ン!】
「!?」
また何か聞こえた気がする。
ステインの動きが一瞬固まる。
怪物はそこを逃さなかった。
「グルッ!!!!」
蹴り上げた脚がステインの腹部に直撃する。
「グフッ!!?」
吹き飛ばされるステイン。
ゴロゴロと転がる身体。
ガンッと手を地につき身体を持ち上げ、着地する。
「ゴホッ!!チッ!油断した・・・」
ステインは怪物を睨みつける。
「グルアアッ!!」
「調子に乗るな!」
ドンッ!ガガガガガガガガガッ!!!!!!!!!!
お互いに一歩も引かずに攻撃を撃ち合う。
随分前から行なっている行為だ。
ステインも意味は無いと思われる行為を繰り返していた。
しかし、理由があった。
『聖気』の活用法を身体に染み込ませているのだ。
エルアリアが言っていた。
『聖気』は自身の気では無く、周りの気を取り込み、自身の力に変える力だと。
しかし、何度試しても周りの気を取り込めていない。
そこでステインは一つ仮説を立てる。
場所の問題では無いか?
此処はステインの精神世界であると同時に、今は魔人の影響下でもある。
しかし、全てステインの中の出来事だ。
周りというカテゴリーでは無く、ステインという本人の中なのだ。
故に、『聖気』の特性を引き出せないのではないのか?という仮説を立てる。
そして、長い時間、休む事なく怪物と戦いながら可能性を見つける。
「おおりゃああああーーーーーー!!」
ドゴンッ!!!!
「グワッ!!?」
怪物に初めてまともに攻撃を加えることに成功する。
「良し!やっと成功した!!」
ステインは『聖気』を別の使い方に回し始めた。
「グルワッ!!!」
「ふんっ!!」
ゴンッ!!バキイイイイイイインーーーーーー!!
襲いかかる怪物の攻撃を受け止め、一撃を加える。
怪物は吹き飛び、ステインはゆっくりと怪物に向かい歩き始める。
ステインは『聖気』の特性を切り替えた。
周りの気を取り込み、増幅する効果を、
自身の力を取り込み、増幅する効果へと昇華させた。
精神世界にいる今ステインの力は回復する事なく、少ない力と『聖気』で戦っていたが、この能力で少ない力を増幅し、限りなく全快のステインと同等のパフォーマンスを引き出すことに成功する。
拮抗していたステインと怪物はもう終わった。
そして、戦いの終わりが近づいている時、ステインの耳にハッキリと聞こえる声が届いた。
【ステインーーーーーー!!】
「!!?」
自身を呼ぶマリンの声だった。
「マリン?」
正に必死という声だった。
そういえば此処で戦闘して時間を気にしていなかった。
恐らくだが、時間の流れが現実と此処では違うだろう。
ステインは体感で既に一月近く戦い続けていた。
しかし、外では数日の筈だ。
だとすれば、今は魔国に到着した位だろうか?
何があった?今はマリンが危ないのか?
自身の精神世界に囚われているステインには状況がわからない。
「グルッアアアアアアアーーーーーー!!」
「うるせえ!!!!」
ドガンッ!!!!
「グワアアアアッーーー」
ゴウウウウウッ!!!!!
怪物を吹き飛ばし、ステインは『聖気』の出力を上げる。
「・・・・ゆっくりとし過ぎたみたいだ・・・」
ステインは怒っていた。自分自身に。
「俺の家族が危ない。」
怪物に向かいながら、ステインは後悔する。
恐らく今、家族が危機的状況にあるのだろう。
その時に自分はまた遅れている。
「終わりにする!!怪物よ!お前との時間は終わりだーーー!!!」
キイイイイイイイイイイイインッーーーーーーー!!!!!!
ステインの身体から『聖気』の白い輝きが溢れ出す。
自身の精神世界と魔人の怪物をもその光で包み込みながら、ステインは精神世界の戦いを一気に終わらせてしまったのだった・・・・・・・・
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『現実世界』
「ステインーーーーーー!!」
マリンの叫びに振り下ろしていた手を止める男。
その瞬間に、男の背後から飛びかかるケルピー。
「ふん!!」
「ぐあっ!!」
しかし、男は冷静に躱すとケルピーを蹴り飛ばしてしまう。
「見事だ調停者!!限界を超えてまだ動けるとわ!!」
ガサガサッ!!!
「!!?」
男がケルピーの相手をした隙をつき、今度は眠っていた魔族の夫婦がマリンとステインを抱え、逃げていた!
「おじちゃん!おばちゃん!!」
「い、今のうちに避難するんだ!!」
「大丈夫!!逃げるくらいなら・・・!」
「貴様等ーーーーーー!!」
男が追おうとすると、炎の壁が目の前に広がる。
「い、行かせませんわ・・!!」
「邪魔だ!!!」
フェニが出した火の壁を振り払う。
しかし、その火の壁の正面に回り込んだハクが飛び出す。
「でええええい!!!」
「チイイイッ!!!!」
「ガラ空きなのです!」
「ガッ!!!」
ハクに注意が行った瞬間に更にシトリンが攻撃する。
「皆んな!!無茶しないで!!」
「貴様等ーーーーーー!!邪魔だーーーーーーーーーーーー!!!!」
ドゴオオオオオオンッーーーーーーーーーーーー!!!!
「グワアアアアッ!!!」
「うわあああああ!!!」
「きゃあああ!!!」
「わふうううう!!!」
ケルピー達が改めて吹き飛ばされる。
しかも、マリン達の方向へと吹き飛ばし、進行を妨げてきた。
「皆んな!!?」
「魔族も眠れ!!!」
ゴウッ!!!!!
「うおっ!!?」
「きゃあっ!?」
吹き飛ばされる夫婦。
マリンとステインは放り出される。
ドサッ!ドドドドサッ!!!!!
皆んな地面に落ちる。
「うう・・・」
ボロボロになった身体を小さな手で支えながらマリンが起き上がる。
目の前にステインの身体があった。
ザッ・・・・・
「!?」
男が目の前にいた。
マリンは咄嗟に庇うようにステインの身体に覆い被さる。
自分の小さな力では意味はない事は分かっているが、行動せずにはいられなかった。
「手間を取らせてくれる!いい加減終わりだ!!!」
男が最後の一撃を加えようとした時だ、
「ステインーーーーーー!!」
改めて叫ぶマリンが、ステインの名前を呼ぶ。
カアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!!!!
「!!!!????」
白い輝きが溢れ出す。
ゴシャアアッ!!!!!
「ブベラッ!!?」
ドゴオオオオオオンッ!!!!
男が吹き飛ばされる。
フワッーーー
「!?」
マリンの身体を優しく抱える力強い手。
マリンは涙で一杯の眼でその姿を見た。
「意味はわからないが、取り敢えず言っとくか・・・」
会いたかった人物、追い詰められたマリン達の最後の切り札にして希望。
「テメエ!!俺の家族に何してやがるんだーーーーーーーーーーーー!!!!」
怒りの方向と共に、絶望的な状況の中、やっと、やっと!!
待ち焦がれていたステインが光と共に戻ってきてくれたのだった・・・・・




