表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50/67

掴む手と振り下ろされる手

シトリンが吹き飛ばされるちょっと前、ケルピー達は疲れている身体を動かし、急いでマリン達の元へと向かっていた。


遠くに感じるシトリンの気配を頼りにしていた。

マリンは幼く気配が弱く、ステインは今はマリンよりも弱々しかった。


だからだろう。


吹き飛ばされたシトリンの気配を察知し、シトリンの元へと高速で向かう。


そして、合流し、事情を聴きながらマリンの元へと向かって、何とか最悪の場面に割り込む事が出来たのだ。


シトリンの気配を頼りにしていなかったら間に合わなかっただろう。


マリンが話を伸ばしていなかったら?


夫婦が盾になっていなかったら?


色々な者達が強く心と体を動かし続けた結果、ステイン一家が勢揃い出来たのだ。


「貴様・・・その気配は影の男か!?」

「全く・・・好き勝手してくれたみたいだね?」

「可愛い妹に何してくれているのかしら?」


ケルピー、ハク、フェニはハッキリと分かる程怒っていた。

若干気圧されながら男が口を開く。


「あ、貴方達では『影獣王』を倒せるはずがない筈!!どうして!?」

「簡単だ。」

「そうそう。いつの僕達を参考にしてるのさ?」

「妾達がやられっぱなしでいるとでも?」

「!!?」


驚愕する男。

しかし、冷静になって考えればシトリンも予想を超えた成長をしていた。

ならば、それよりも上位の存在である調停者達がそのままな訳が無い。


ちらっとステインに視線を送る。


「成る程・・・『器』の影響ですか。厄介な・・・!!!」

「確かにステイン殿のお陰であろうな。」

「そうだね。ステイン兄ちゃんに会わなかったら僕等は此処に居ないだろうし。」

「どの様な理由であれ、貴方は逃がしません!」


一気に動き始めるケルピー達。


「ケルピー!ハク!フェニ!気をつけて!」

「ワフ!マリン、ご夫婦と下がるのです。」


シトリンはマリンと夫婦を連れてステインのいる位置まで下がる。

夫婦は気が抜けたのかまた気絶してしまった。


ゴンッ!ドゴンッ!!シャンッ!!!


マリンが眼を向けると、目で追えないスピードで戦っているケルピー達がいる様だった。

シトリンは傷付いた身体を引きづる様にマリンの前に座っていた。


「可笑しいのです・・・」

「シトちゃん?何が可笑しいの?」


ドドドドッ!!!


マリンがシトリンに尋ねると同時に男がケルピー達に吹き飛ばされていた。


「はあ、はあ・・・」

「ふう、ふう・・・」

「は、はあ・・・」


「ぐ、ぐう・・・」


目の前には動きを止めたケルピー達と男がいた。


押しているのはケルピー達だ。

男は3対1の状況に苦戦していた。


「確かに、私が捕らえた時よりは強くなっているみたいですね・・・」

「はああ・・・貴様の狙いは、終ぞ分からず仕舞いだが、終わりにしよう!」

「一気に決めるよ!!」

「ええ!」


ケルピー達が一気に魔力と気を高める。

それを見たシトリンとマリン。


ハッと気づいた様にシトリンが眼を見開き、叫ぶ。


「ダ、ダメなのです!お兄様!お姉様!!」

「シトちゃん!?」


しかし、シトリンの叫びと同時にケルピー達が攻撃を放ってしまった!


チュドオオオオオオオオオオンンン!!!!!!


森を吹き飛ばす一撃!


巻き起こる爆風にマリンとシトリンは眼を開く事が出来なくなっていた。


ゴオオオオオオオオオオッーーーーー


ケルピー達が巻き起こした爆発も収まり始めた頃、マリン達はやっと目が開けられる様になる。


ゆっくりと眼を開き、ケルピー達を見る。


「はあ・・・・はあ・・・・・・」

「っはあ!!き、キッツ・・・・」

「ふううう・・・・・はああ・・」


ケルピー達は3人肩で息をする様に疲れ果てていた。


マリンが心配そうに3人に駆け寄ろうとする。


「皆んなーーー!!うえっ!?」


グッと首元の服を引っ張られて変な声が出てしまったマリン。

恨みがましそうに見やると、シトリンが服を咥えてマリンを止めていた。


服を話すとシトリンはケルピー達に向かって叫ぶ。


「お兄様、お姉様!奴はまだやられてません!!」

「「「!!!???」」」


ケルピー達が驚愕し、男が吹き飛んだであろう位置を確認する。


煙が晴れていくと、男が倒れていた。


シトリンは続けて言う。


「私の『気功戦姫』も当たったのですが、男は生きていたのです!何かある筈なのです!!」


叫ぶシトリンの声に反応する様に男の体に黒い霧が集まる。

シトリンと戦った時よりも大量の霧に包まれていく男。


男に吸収される様に霧が吸い込まれていくと、男はガバッと身体を起こす。


ケルピー達が驚愕する中、男はゆっくりと立ち上がると笑いながらケルピー達を見渡す。


「ふふふ、そこのフェンリルはやはり普通じゃありませんね。私の復活を危惧していたとは。お見事お見事!!」

「ば、馬鹿な!?」

「直撃だった筈だよね?」

「ええ、ダメージはあった筈!何故、無傷で!?」


激しい爆発の中、撃ち抜かれたはずの男は服にも身体にも傷が無く、ダメージも感じさせなかった。


皆んなが気味悪がっていると、マリンがビクンッと反応する。


「ああ・・・ま、まさか、黒い霧は・・・!?」

「ほう!女神は気付きましたか?」


クスクスと笑う男は大袈裟に身振りを加えながらケルピー達に向かって言う。


「そう!!黒い霧は他の者の生命力です!調停者達が倒した化け物の生命力は霧となり、私の糧にできるのです!勿論、私が望めば倒されていなくても霧にして吸収できますがね?」

「「「!!!???」


ケルピー達が驚愕する。


マリンが叫ぶ。


「そんな!化け物の生命力は生き物の生命力でしょ!?命を利用するなんて!!」

「ハハハハハッ!!!私の糧になると言うことは魔人の役に立つと言うこと。誇りに思うと良いのです!!」

「下衆めが!!!」


マリンの叫びに浄化の調停者であるケルピーが1番に動いた。


勢いよく男に迫り、襲いかかる!!


ドゴンッ!!!


「グハッ!?」


「ケルピー!?」


カウンターでケルピーを殴り飛ばす男。


続いてハクが男の背後に回っていた!


「よくも兄ちゃんに!!」


こちらも勢いよく爪を振り下ろす!


ガキンッ!!


しかし、男は爪を腕で防いだ!


「え!?」

「この程度ですか?」


グルンッと身体を動かすと、男は回し蹴りでハクの胴体を捕らえた!


ゴンッ!!


「グウッ!!!?」


鈍器で叩かれた様な音がすると、ハクは吹き飛ばされる。


「喰らいなさい!!」


フェニは自慢の魔力で火の渦を作り男を包み込む!


ゴオオオオオオオオオオッと火柱を立てると、男が身動きが取れなくなる。


その隙にシトリンがハクを、フェニがケルピーを回収して、マリンとステインの前に集結する。


「ゴホッ!!あ、あの男、強くなった・・・」

「ウウ・・・あんなに反応良くなかったよね?」


ケルピーとハクが男と交錯した感想を述べる。

フェニは2人の様子を見て、マリンに提案する。


「マリン様。ここは一度下がりましょう。」

「う、うん!皆んな大丈夫?」


一時撤退を決め、魔族の夫婦やステインを抱えて下がろうとした。


だが・・・


バアアアンッ!!!


その瞬間、火柱が振り払われ、男が現れる。


「そんな!!?妾の炎が!?」

「クククッ!!終わりですかね?」


ブンッ!!!


男が腕を振るうと火が完全に消える。


そして男はケルピー達に向かって手の平を向ける。


「確か、『器』の技でしたか?『ブラスター・レイ』!!!!」


キュイン!!シュドオオオオオンッ!!!


「「「「「!!!!!?????」」」」」


迫る光線に、其々、魔族の夫婦やステイン、マリンを抱えながら、ケルピー、ハク、フェニ、シトリンが防御する!!


しかし、咄嗟のことにガードしきれずにまとめて爆発に包まれる!!


「わああああ!!!!」

「くうううううっ!!?」

「わあああああっ!!」

「きゃああああっ!!」

「わふうううっ!!?」


ドゴオオオオオオンッーーーーー


「クハハハハッ!!!」


高らかに笑う男。


マリン達は何とか生きてはいる。


しかし、既にケルピー達は巨人との戦いの疲労と、男の攻撃のダメージで動けず。


シトリンは先程の疲労と男の攻撃のダメージで動けず。


マリンは何とか気を失っていないものの戦闘力は元から皆無。


絶望的状況の中で男は得意げに語る。


「ハハハハハッ!!貴方達が『影獣王』を倒した時のエネルギーと、調停者の身体に埋め込んでいた『影核えいかく』の情報、そして、火竜の山での『器』との戦闘記録!!今の私は全ての情報を詰め込まれた存在です!!止められるはずがないでしょう!?」



そう。今、男は化け物が得た経験と戦闘情報を影で集めた生命力と共に吸収していた。

更に巨人を調停者と戦わせたのも、もしもの場合に保険としていた。巨人が調停者を倒せばそれで良いし、倒せなくても戦闘情報を集められる。

更に以前、ケルピー達を操っていた時に得た調停者の能力値。

火竜の山でのステインとの戦闘と魔国での戦闘で得た技の数々を今、男の体に集めていた。


相当数の生命力での肉体の強度、そして、技の運用が可能になっていた。

化け物は今のこの瞬間の様に自身が戦う時のための保険であったのだ。


動けないケルピー達の前を通り過ぎて男はステインの前に立つ。


「グ、ス、ステイン殿・・・」

「ううっ!ステイン、兄ちゃん!!」

「か、回復が・・・魔力が足りませ、ん!!」

「お、お父様に、近づくな!」


ケルピー達の声を無視して男はステインの服を掴み、身体を持ち上げると顔を覗き込む。


「クククッ!!!火竜の山では偉そうに家族をーとか言っていましたが、ここまで来ても目覚めませんか?いい気味です。そして、頂きますよ。この身体!!」


男がステインを掲げ、遠ざかろうとする。


その男の足をマリンが掴んだ。


「ス、ステインを離して!!」


ちらっとマリンを見た男は腕を振り上げる。


「マ、マリン様!!?」

「逃げて!」

「やめなさい!!」

「マリンーー!!」


ケルピー達の叫びの中、マリンに男の腕が振り下ろされた・・・



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ