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恐怖と強さと


「やったね!シトちゃん!!凄い凄い!」

「ワウ!ハクお兄様との訓練のおかげなのです!」


喜ぶマリンとシトリン。

マリンはステインを掴んだままシトリンの上ではしゃいでいた。


グラッ・・・


しかし、シトリンの動きにマリンの小さな手は限界を迎えており、シトリンの上からずり落ちてしまう。


どすっ


「あう!!痛い・・・」

「ま、マリン!?」


慌ててシトリンがマリンに擦り寄る。


木陰にステインと一緒に降ろすと、シトリンも『気功戦姫』による疲労で身体が痛み始める。


「わふううううーーー」

「うううー、手がー痺れるーーー」


ステインを挟む様にして2人共寝転ぶ。


「わふうう。お兄様やお姉様が言っていた通り、この技を使うと身体が言う事効かないのです・・・」

「シトちゃん、ゆっくり休んでね?」


技に身体がついて来ていないシトリンを慈しむ様に撫でるマリン。

すると、街の方角から声が聞こえてくる。


「ーーーーーーンーー!マリーーーーーー!!マリンちゃんーーーーー!!」

「何処にいるのーーーーーー!?」


「!!宿屋のおじちゃんとおばちゃんだ!!」

「ワフッ!!わざわざ来てくれたのですか!?」


聞こえてきた声は宿屋の夫婦だった。

街に残っていた最後の夫婦。


意識を失う前にマリン達が外に出たのを辛うじて見ていた2人が心配して来てくれていた。


「ここだよーーー!!」

「ワウウウウーー!!」


ガサガサと音がすると夫婦が草むらから出てくる。

マリンは夫婦に向かって手を振り、シトリンは尻尾を振って合図する。


駆け寄ってきた2奥さんに抱きかかえられるマリン。


「良かった〜〜〜〜!無事だったのね!!」

「あの黒い奴は!?」


安心した様に声を出す奥さんと、辺りを見渡す旦那さん。

マリンは奥さんに抱かれながらニッコリ笑う。


「大丈夫!シトちゃんがやっつけてくれたよ!!」

「ワフ!!大丈夫なのです!」


「おお!そうなのか!?凄いな・・・」

「さすがステイン君の御家族ね〜〜〜!」


驚く夫婦に対し、ステインの家族として褒められた事が嬉しかったマリンとシトリン。


和やかな空気が流れていた時だった・・・・


「本当に見事な技だった・・・」


不意に、声が響いた。


シトリンは驚愕し、マリンは信じられない様に声の方を見る。


「正直、あのハイ・フェンリルがここまで成長するとは思わなかったよ。」


ゴウウウウウッ!!!!


黒い霧が集まってくる。


「な、なんで!!?私は確かに・・・!!」

「そんな・・・私も何も感じなかったのに!?」


ゴオオオオオオオオオオッ!!!!!!


「うわ!なんだ!?これは!」

「あなた!逃げましょう!!」


バシュンッーーーーー!!!!


夫婦がマリン達を抱えて逃げようとした時、集まって来ていた黒い霧が晴れた。


先程まで戦っていたシトリンは震える脚を奮い立たせ、マリンとステイン。そして夫婦の前に立つ。


力が入らない身体でそれでも眼は死んでいなかった。


「大分消耗した様だな?だが、俺は死んでないぞ?」


霧の中から、角の生えた男がシトリンと戦う前の綺麗な姿を見せていた。


「く、なら、また倒すだけです!マリン達はお父様を連れて逃げるのです!!」


言うや否や残った力を振り絞る様に男に突撃するシトリン。


「シトちゃん!!?」


叫ぶマリン。

だが、一瞬だった。


ゴンッ!!!


「ワフッ!!?」


ドゴオオオオオオンッ!!!


向かって行ったシトリンが跳ね返され、マリン達の後方へと吹き飛ばされて行った。


「さて、魔族のご夫婦?その子供を渡してもらえますか?ああ、勿論そこで寝ているステインも、ですけど?」


男の圧力に圧されながらも夫婦はマリンを離そうとはしなかった。

ステインとマリンを庇う様に身体を盾にする。


「ほう。私の威圧に耐え、なおその子供を庇いますか?無駄死にしますよ?」

「そ、そんな事を!!」

「え、ええ!ステイン君の御家族を見捨てる理由になるもんですか!」

「おじちゃん・・おばちゃん・・・」


必死の形相で男を睨む夫婦。

夫婦は戦闘向きの魔族ではない。

言うなれば、人と変わらない。


目の前の男が一突きすれば命を落とすだろう。

それでも、夫婦はステインとマリンを見捨てなかった。


「お、俺たちはな!!む、昔、ステイン君に助けてもらったんだ!!そ、その恩を返さずして生きてられるか!!」

「そうよ!!あ、あの時も、ステイン君、は!じ、自分に関係、なかった!けど!助けてくれたんだから!!」


マリンは眼に一杯の涙を溜めて夫婦を見る。


ステインが繋いだ縁が今、目の前の恐怖から守ってくれている。


「死の恐怖を味わいながら、それだけ言えますか。大したものだ。しかし・・・」


ゴウッ!!!


瞬間、風を感じた気がした。

男が威圧の圧を上げて来ている。


ガクガク震えている身体を奮い立たせ、夫婦はそれでもマリンを離さなかった。


「本当の恐怖を味わってみますか?」


不気味に笑う男。


確かに絶望的な恐怖を感じる。

夫婦の顔色も白くなっている。


しかし、マリンは思う。


本当の恐怖とは、死ではない。


恐怖とは、自分が好きな人を守れない事だ。


自分が信じる人を見捨てる事だ。


どれだけ絶望的な状況でも最後に諦める事だ。


強さとは、それらを乗り越えられる心の事だ。


だから、マリンは諦めなかったのだ!


「あ、貴方の狙いは、私?」

「・・・いいえ、女神に用はありませんね。」

「じゃあ、ステイン?」

「そうですね・・・先程も言った気がしますが、本来は魔王を捉えるつもりだったんですよ?」

「じゃ、じゃあ、なんで今、貴方は此処にいるの?魔王さんの処に行かなくていいの?」

「まあ、最後に教えてあげますか。今回は魔王を捉えるついでに、邪魔な魔国を潰すつもりでした。時間を掛けて確実に。ただ、いよいよ最後の詰めを行おうとした時に、調停者が近ずいているのを見つけました。計画の綻びが出たのです。修正しなければならないと思った所、貴女達が離れて行動しているのも同時に見つけました。私は『魔人の下僕』を名乗りましたが、本来、影です。『魔人の影』なんですよ。」

「影?」

「ええ、影です。魔人は今、ギリギリでこの世にしがみついているのですが、私はどうやら魔人に選ばれたらしいのです。この世の中で唯一、魔人の持つ精神の波長に合ったらしく、魔人の意識がああしろ、こうしろ。と、頭の中で囁くのですよ!」

「言うこと聞く・・・だから、下僕なんて言ったんだ・・・?」

「そうですね。」


長々と喋り始めるマリンと男。

魔族の夫婦は突然のマリンの行動に眼を瞬かせながらも、意識を必死で繫ぎ止める。

話してる内容は全く分からないが、夫婦はマリンとステインを残して逃げようとはとうとうしなかった。


「それで、私達が来たから、狙いを変えたの?」

「ええ。ハッキリ言ってこの魔人から貰った本来の姿なら魔王はどうにでも出来る自信があります。しかし、火竜の山で戦った時の『器』の力は想像よりとんでもない。完璧に事を為すなら、眠っている『器』を捉える方が簡単だと思いませんか?」


話は終わりだと言わんばかりに、一歩一歩近ずく男。


魔族の夫婦はもう声も出ないが、マリンを連れたままステインの所まで下がる。


「少し長話が過ぎましたかね?では、そろそろ終わりにしましょうか・・・」


男が手を上げる。


マリン達にはゆっくりとした動作に見えていた。


これで終わりかと思った。


夫婦はマリンとステインを庇う様に前に身体を差し出す。


男はニヤリと笑うと、手に集めた力を解き放つ。


「頂きますよ!『魔人の器』!!」


ゴワッーーーーーー!!


迫る衝撃に眼を閉じる魔族の夫婦。


しかし、マリンは眼を逸らさなかった。


「まだだよ・・・信じてる・・・」


マリンが笑顔のまま呟く。


「私は・・・家族を、信じてる!!!」


ゴオオオッ!!!


ドゴオオオオオオンッーーーーーー!!


マリンが叫ぶのと、衝撃がぶつかるのは同時だった。


「フハハハハハハハハハッ!!!やった!やった!!!『器』は頂きますよ!そして、厄介な浄化の女神も終わりだ!!!」


高らかに勝利を喜ぶ男。


シュゴンッ!!!!!


ザンッ!!!!


「!!!??」


気を緩めた瞬間、男の腕が身体から切り離される。


慌てて攻撃された方向を確認する。


ブワアアアア!!!!


マリン達がいた所から風が巻き起こる。


衝撃で巻き起こっていた砂埃が晴れていく。


「そんな・・・!!!馬鹿な!!?」


男は驚愕する。


煙の奥から現れたのは、此処にはいなかった筈の者達だった。


「わ、私の『影獣王』が!!こんなに早くやられたとでも!?」


「ふん!!なんとか間に合ったか?」

「間一髪だったね〜〜〜!」

「シトリン。良く頑張りました。後は妾達に任せてマリン様と休んでなさい。」

「ワフ・・・よ、良かった、のです・・・」


煙の奥から現れたのはケルピー、ハク、フェニ。そして、フェニの上に乗ったシトリンだった。


「皆んな〜〜〜!」


涙で一杯のマリンは皆んなの姿を見て泣いてしまう。


ポロポロ落ちる涙を隠そうともせずに皆んなを見ている。


マリンが諦めなかった事で間一髪、ケルピー達が間に合った。


繋いだ絆がマリンとステインを生き残らせたのだった・・・

長引いて主人公まで辿り着けませんでした。

思った通り書くのは本当に難しいです。


お読みいただいてありがとうございます!

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