続く戦い
『ケルピー・ハク・フェニ』
焦土とかした荒野に唖然とする魔王。
自身の魔力にある程度の自信を持っていたが、ケルピー達の規格外の力に言葉が出てこない。
「ふうう。上手くいったな。」
「はい。妾達の勝利ですわ!」
ケルピー達の話し声で我を取り戻す魔王。
慌ててケルピー達の前で膝をつく。
「あ、ありがとうございます!皆様のお陰で化け物から国を守れました!」
「ふむ。魔王よ。それは違うだろう?」
魔王が礼を言うと、ケルピーが否定する。
「まだ本命がいるであろう?魔王も影の男に会ってはおらんか?」
「!!」
ケルピーの言葉に息を呑むと、魔王は頭を下げケルピー達に申し出る。
「はい!影の男は私の前にも現れました!狙いは私のようでしたが、影の化け物を産み出すと姿を見せなくなったのです。」
「ほう・・・何か狙いがあるのか?」
「魔王を狙ってきてたんだね〜」
「・・・気になる点はありますが、魔王さんはお1人で来ているのですか?」
影の男はケルピー達の前にも現れたが、巨人を出すと姿をくらませた。
魔王が狙いと言う割には未だに姿を見ない。
別の狙いがあるのでは?とケルピー達は考えた。
「私は、敵の狙いが私であることから自国の民を逃がす為に囮になりに来たのです。情けない話ですが、私達では化け物達を撃退する事は敵いませんでした。私が単騎で出れば敵の目を引きつける事が出来ると思ったのですが・・・」
「追い詰められた末の行動か・・・私達が来て何とかなったと言うところか?」
「それならば早く民を迎えに行きなさいな。妾達がいる以上、下手にバラバラになられるより、魔国内に固まってくれていた方が安全ですよ?」
「そうそう!魔王は早く仲間の所に行きなよ!」
「は、はい!ありがとうございます!」
ガバッと改めて頭を下げると魔王は急いで民達を引き止めに向かった。
ケルピー達は魔王を見送ると、気配が無くなってから膝をついた。
「はあはあ・・・誤魔化せたか?」
「ふうふう・・・な、何とかね?」
「は・・はい。大丈夫かと・・・」
3人とも寝転がる様に身体を休めると、息を乱していた。
魔王がいる前では調停者としてのプライドか疲れ果てた姿を見せなかったのだ。
「さ、流石に、まだ『気功爪装』はつ、疲れるや!ステイン兄ちゃんは、ホント、良くあんな・・・」
「全くだ・・・私も、ま、魔力を持っていかれすぎた・・・」
「あ、あの巨人も、楽ではなかった・・・と言う事ですかね・・・?」
直接的なダメージこそ今回はほとんどないものの、ケルピー達は其々が今まで使った事がない力の使い方をしていた。
ケルピーとフェニは魔力同士を合わせて、本来1人で出せる限界を超えた魔法を生み出した。これは、ステイン、ハク、シトリンというメンバーが単体戦闘向きである事を考えて作った戦法であった。
とてつもない魔力と集中力を持って実現された魔法である。
ハクの使った気功操作も本来のハクならばやらない戦法である。
本来ならそんな戦法が無くてもハクは単体で十分な戦闘力を持っている。
そして、やはり気功の精密な操作には集中力と気の量が必要であった。
見た目には楽勝であったが、ケルピー達の消耗はとてつもなかった。
「く・・・これはまだまだ鍛えないといかんな・・・」
「ですわね・・・とにかく今はゆっくり休んでられません。」
「うう・・・動きたくない〜〜〜」
「辛いだろうが、魔王の話を聞いたであろう?敵は本来なら魔王を狙っていたらしいが・・・」
「ええ、狙いの魔王が無事にいたことから狙いが別にあった・・・と言うよりは、狙いが別にできたのでしょうね・・・」
「うん?もしかして・・・?」
ケルピーとフェニは魔王の話を聞いてある可能性に行き着いていた。
そしてハクも今のケルピーとフェニの言い方から気づいたのだ。
敵が魔王から狙いを変える対象がいる事を・・・
「まさか、ステイン兄ちゃん!?」
「ああ、マリン様というのも考えられるが、今の弱ったステイン殿を『魔人の器』として捕らえようとしている・・・」
「ええ、可能性ですが、ここでジッとはしていられませんわ!ステイン兄上と妹達の下へ行かなくては!」
「わわわ!ぐう!痛いけど、我慢する!」
其々の身体をひきづる様にマリン達の気配を探りながらケルピー達はステインの下へと向かい始めた・・・
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『マリンとシトリン』
ドゴオオオオオオンッ!!!!
大きな破壊音が辺りを包む。
マリンとシトリンは街の近くで戦いを続けていた。
「うう!つ、強いのです!」
「シトちゃん!私とステインを下ろして!」
「その様な隙をやるものか!!」
元影の男、今は角の生えた人外がシトリンとマリンを目掛けて攻撃を続けている。
走り回り、攻撃を躱し続けているが、シトリンはこの男から距離を取れないでいた。
一旦、正気をなくした男が段々と冷静になり、シトリンの逃げ道を防いでいたのだ。
故に、シトリンはマリンと寝ているステインを抱えたまま戦わざるを得なかった。
「どうした!その程度か!?」
「ううっ!!!」
シトリンは必死になってマリンとステインを守っている。
しかし、このままではステイン達を降ろす事も叶わない。
追い詰められていき、最後には攻撃が直撃してしまう事をシトリンは直感した。
そして、覚悟を決める。
マリンにかかる負担が増える為に一撃に全てを賭ける決断をする。
「うううう!マリン!ちょっと我慢するのですよ!?」
「!?うん!いいよ!」
シトリンの決意を込めた言葉にマリンが力強く頷く。
そして、マリンがステインの身体とシトリンの背中を握りしめる。
そのマリンの行動と共にシトリンが気を集め始める。
ケルピー達同様にハクとの訓練で鍛えた戦法がシトリンにもあった。
「出し惜しみはしないのですよ!『気功戦姫』!!」
シトリンが叫ぶと、ハク同様に気が形を作る。
今まで誰も触れなかったが、シトリンはマザー・フェンリルになり、それまでの能力よりも強力な存在になっている。しかし、同様に、ハイ・フェンリルの時の攻撃手段だった角を失っていた。
今、その角をシトリンは気の力で形作った。
「いくのですよ!」
「ふん、角が生えたくらいで!!」
シトリンが地を蹴ると男は迎え撃つ形を取った。
しかし、シトリンのこの戦法は角を作るだけではなかった。
「ハク兄様と作った技は此処からなのです!」
「!!?」
シトリンの4本ある足から気が漏れ出す。
「強き意志を持って一刀の元に切り捨てる!『戦姫』!!」
姫が羽織るマントの様にシトリンの足から気の噴出する気が、まるで翼の様に広がる。
ドゴンッ!!!
イメージはステインの肉体強化した絶技。火竜の山で見た『無音』。
シトリンはあの時の光景が忘れられずにいた。
ステインの頼もしい背中。
ステインの圧倒的な力。
そして、何も出来なかった自分自身。
シトリンは守護獣だ。
本来ならステインを守護する存在になったのだ。
それが、今は足手まといでしかない。
シトリンは強くなりたかった。
そして、ステインの戦いに憧れと尊敬を込めて自分の出来る技として作り上げた。
それが、『気功戦姫』だった。
「!!!!??」
シトリンの急激な加速に反応が遅れた男が慌てて防御に移ろうとするが遅かった!
「でえええいっ!!!」
ズッパアアアン!!!!!
交錯する男とシトリン。
「ゴハッ!!?」
男はその瞬間、血を吹き出し、地に倒れる。
マリンは必死にステインを掴み、シトリンにしがみついていた。
そんなマリンを気遣う余裕もなく、ただただ敵を貫いた興奮がシトリンを包む。
初めて、ステインの家族になって初めて役に立てた気がした。
誇り高い狼の娘シトリンは誇らしく、そして、寝ているステインを起こす様に、
「ワオオオオオオオオオオオオオオンンッーーーーー!!!」
魔国に響き渡る様に声を上げたのだった・・・




