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誰も知らない戦い。

時はまた巻き戻り、ステインが眠りについてからの話になる。


「うう・・・?」


ステインはパチリと目を覚ました。

ゆっくりと上体を起こして周りを確認すると、見た事がない荒廃した高原にいた。


「あれ?何処だ此処?」


予想だにしない状況でも慌てる事なく周囲を見渡すステイン。

立ち上がり、軽く強張った身体をほぐす。


「よく分からないけど俺、何してたっけ?」


ふと、自分が今何をしていたのか考える。


(確か、自分の中の『聖気』を見つけるために仮死状態になる寸前まで有り余っている『気』と『魔力』を外に出したんだよな?)


今の自分の体の調子を確認すると、確かに『気』と『魔力』は微弱にしか感じない。

恐らく狙い通りの結果になったはずである。

しかし、だとしたら此処は何処だ?

皆んなは?


状況が不明確である。

考えていても分からない以上、此処が何処かを確認するしかないか?

ということで、ステインはゆっくりと周辺を探索して見ることにした。


「マリン!シトリン!ケルピー!フェニ!ハク!」


皆んなの名前を呼んでみるが返事はない。

何処までも続く荒野。

果ての見えない景色に益々この場所の奇妙さが感じられる。


周りに音もなく、ステインが地を踏み締める音しか聞こえない。


ザッザッと土を踏みながら進んでみるステイン。


「・・・・俺、失敗して死んでないよな?」


流石に不思議な現象に自分がヘマを起こして死んだ可能性を考える。

格好付けた上で死んでたとしたら恥ずかしいな!と考えるステイン。


試しに頬を摘んでみるが痛かった。


「夢じゃなさそうだ・・・」


小さな可能性まで細かく思いつく限りの行動を起こしてみる。

気を練り上げてみたり、魔法を使ってみたり、大声を上げたり、空高くジャンプしてみたり。


わかった事と言えば、力は放出したせいで落ちているが、それ以外は変わりない。と言う事だった。



それからどれくらい歩いただろうか?

体感的には一日経っていたが、荒野の果ては見えそうにもなかった。


そして、この場所が通常の空間ではないことも分かった。

日が暮れないのである。


ステインでさえ聞いたことも見たこともない現象だった。

普通の者ならばもっと取り乱すのだろうが、ステインは違った。


「凄い!凄いぞ!!全然疲れない代わりに、全く回復もしない!!しかも不思議空間!!」


若干興奮していた。


「おお~~~・・・・・て、遊んでる場合でもないか。」


そして急に真面目になるステイン。

すると、意識を集中し始める。


「・・・・・・・・・・ふううううう・・・」


精神統一すると、ゆっくりと目を閉じる。


この空間に対する考察として一番有力なのが自身の精神の中だという事だとステインは考えた。

自身の精神だとするならば、集中すればこの空間の中にある流れを感じられるのではないか?

そう考えたステインは目的だった『聖気』がこの空間の何処かにあるのではと思い意識を集中していた。


「・・・・・!?」


ガバッ!!


顔を勢いよく上げるステイン。

一方向を見据えると、残っている自身の力を集中し始める。


「『気功』、『エンチャント・フィジカル』!!」


グッと腰を落とし、拳を構える。

今のステインは殆ど能力を使えない。

よって、単純な攻撃しか出来なかった。


「うりゃあ!!」


眼前に向けて拳を振りぬく。


バキイイイイイン!!!!


すると、ガラスの割れるような音とともに空間が割れた。

荒野だったはずの風景が一気に何もない空間に変わる。


ステインが見つけた地点は自身の精神の殻だった。

無意識のうちに誰しもが張っている精神の膜みたいなものだ。


そこを突くことで、自身の精神だと意識し、影響を与えられるようにした。


「この奥から感じる・・・」


自身の精神の奥底に今まで感じたことのない力を感じる。


ゆっくりと歩を進めるステイン。

何もない空間は距離感も音もなく、ただただ歩を進めていった。






体感的にもズレ始めているかもしれないが、ステインの感覚では三日程歩いただろうか?


既にステインの意識は薄れ、周りの空間と同化し始めていた。


ゆっくりゆっくりと歩を進め、目的地に近ずく。


何もない空間が静かにステインの意識を曖昧にしていっていた。


「・・・・・・・・な。」


しかし、ステインは負けなかった。

常人ならば一日で気が狂いそうになる空間において、なお、ステインはステインでいられた。


「ふざけるな!!」


怒号を発するステイン。

この意味の分からない空間に怒っていた。


「俺の中に変な空間を作るな!!!」


自身の精神の中だというのに虚空に向かって怒りをぶつける。


「いい加減出て来いよ!!」


ステインが怒りと共に声を張り上げると、今まで変化のなかった空間が行き成り震え始めた。


パキイイイイイイイン・・・・・


空間がひび割れるとステインの目の前の光景が更に変化する。


黒い。ただただ黒い空間。


その中心に何かが立っていた。


「・・・・・来たか。」


立っていた何かが喋る。


「思っていたより早かった。しかも、自身の殻を破って正気でいるとはな。見事だ。」

「・・・・誰だ?お前・・・」


目の前にいる白い男にステインは尋ねる。

すると可笑しそうに笑う男。顔はよく見えない。


「ハハハ!まあ分らんだろうな。自分は勝手にお前の中に居るだけだったしな。」

「俺の中に?」


男は笑う。


「ハハハハハハ・・・!!警戒するな。お前と自分は同じ個体でもあるのだぞ?」

「・・・取り敢えず顔見せろや!!」


奇妙な男に殴りかかるステイン。


バシイイ!!!


男に受け止められる。


「やめておけ。お前と自分は同等の存在だ。いや、今は自分が上だろうな。」

「ちいいい!!」


手を引くと、今度は男を蹴り上げる!!


バシンッ!!


やはり男は片手で受け止める。

そしてステインは一気に離れると、男に問いただす。


「お前、あれだけ近づいたのに顔が見えないぞ?なんなんだ?」

「自分の顔などないさ。お前は気づかないのか?自分の正体に。」

「お前の正体に気づく?」

「そうだ。自分はお前の中に居た存在だ。何となく気づかないのか?まさかそれ程弱っているのか?はたまた、この空間に入るのに消耗したのか?」

「・・・・・・まさか?」

「冷静になれ。お前がここに来た目的は?」

「『聖気』なのか?」

「うむ。」


白い男は満足げに頷く。

ステインは驚愕に彩られていた。


探し求めていたものが白い男の姿をしていたからだ。

さすがは神の力とでもいえばよいのか。


白い男は満足げにステインに語り掛ける。


「よく自分を見つけられたな。これでお前は『聖気』を意識できるようになるだろう。」

「本当か!?」

「ああ。人間が神の力を認識するには仮死状態の中、自身の殻を破る必要がある。お前は本能でそれを理解したのだろう。見事だ。」

「やった!!じゃあ、早く皆のところに戻らないとな!!思ったより時間を使ったから心配しているだろうし!!」

「待て!!」


話を聞いて満足したステインは意識を現実に戻そうとする。

それを慌てて白い男が止めた。


ステインが驚いて足を止めたとき、空間が引き裂かれる!


パキパキパキッ!!!


「!!?」


慌てて飛びのくステイン。

白い男がステインの側による。


「気を付けるのだ。」

「・・・なんだあれ?」


パキパキパキキ・・・・!!!


空間の割れた隙間から異形の手が見える。


ゾクッ!!


その手を見た瞬間寒気が走った。


「お前は『聖気』にだけ意識を向けていたが、お前の中にはもう一つあるだろう?あれはソレだ。」

「もう一つ?」


パアアアアキンンンンンンン!!!!!!!


異形の手が空間を引き裂くと、黒い怪物が現れた。

オオカミのような顔に赤い鬣。

手は毛深く爪は黒。

肌は赤黒く、瞳も赤だった。


「グルアアアアアアアアアア!!!!」


吠える怪物。

ステインはその姿を見て無意識に呟くのだ。


「魔人の力・・・」


白い男が頷く。

そして言うのだ。


「お前を乗っ取りに来たのだ。負ければ喰われるぞ。」


ケルピー達が魔国に向かっている道中、


ステインの誰も知らない戦いが始まろうとしていた・・・・


苦戦しました。思ったより進みませんでした。


次回もステインです!


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