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其々の戦い

戦いは始まっていた!


「其々絡まっていてはステイン殿の『ブラスター・レイ』の餌食になる!」

「うん!別れようか!」

「了承しますが、離れ過ぎにも注意ですわ!」


影を引きつけるように其々離れる。

ケルピーは荒野を駆け抜け、ハクは森に入り、フェニは空を昇りその場を後にする。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


『ケルピー』


荒野を駆け抜けると河のほとりに出た。

ケルピーはその場所で止まると、後ろを振り返る。

やはり影の化け物が集まってきている。

軽く鼻を鳴らしてケルピーが宣言する。


「この場で良かろう。かかって来るが良い!」


宣言されると共に一斉に襲い来る化け物達。

近接と遠距離に別れて攻撃してくる!


「愚か者共が!」


ケルピーは怒りを込めて地を蹴り上げる!

素早く接近してきた化け物の懐に入り、後ろ脚で蹴り出す!


バゴッ!!


化け物は吹き飛ぶと、遠距離攻撃してきた味方の攻撃に巻き込まれる!


バシュンッ!!!


消える化け物。

ステインからの情報にあった通りで拍子抜けするケルピー。


「ステイン殿から聞いていたが、相手の攻撃は吸収出来ても、自身の攻撃は吸収出来ぬか。知らねば苦戦したかも知れぬが、知っていれば対策は容易いわ!」


次々と降り掛かる光線をかわしながら、近づく化け物を次々と蹴り飛ばして行く。

ケルピーは馬型の幻獣である。


瞬間的な脚力と、蹴り上げる力はかなり強力である。

溢れるような数がいる化け物も次々とケルピーの餌食になって行く。


「能力は恐るべきものだが、知性が無い化け物など敵では無いわ!!」


ケルピーは魔力を溜め始めた。

近づく化け物は蹴り飛ばして同士討ちさせればいいが、遠距離攻撃の敵はどうしても光線を如何にかする必要が出て来るからだ。


ケルピーは冷静に分析していた。

ステインから聞いた話では本来のブラスター・レイと影の光線は厳密には違うらしい。

ステインが使うブラスター・レイは気功の補助の元、魔力を収束、発射する貫通力を高めた魔法らしいのだが、影が使う光線は厳密には魔力では無いのでは無いか?とステインは言っていた。


実際に対峙した今ならケルピーにも分かる。

目の前の化け物が放っているものは『生命力』なのだ。

化け物は魔獣なども吸収する事は確認済みだ。

ならば、吸収した『生命力』で吸収した攻撃や魔法の真似事を行えるのだろう。


学習しているとすれば聞こえは良いが、結果出来上がったのが知性のない化け物の兵力である。

恐らく、ステインが戦った化け物より、ケルピーが相手にしている化け物は弱いだろう。

ステインが戦った個体は喋っていたらしい。

目の前にいる化け物は喋りもしない。


「・・・・調停者として、怒りを覚える。しかし、それ以上に哀れな命よ!浄化してくれる!!」


ケルピーは溜めた魔力を使うと、光線に合わせ風の流れを作る!


バウッ!!ーーーーーーーーードゴッ!!!


風の流れで光線を曲げ、遠方からの攻撃をやり返す!


「哀れな命よ!終わりにしよう!!」


ケルピーは危なげなく、化け物の群れを消し続けていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーー


『ハク』


ハクは森の中に陣取り、戦っていた。

木々を蹴り、高速で移動を続けながら化け物を普通に蹴り飛ばしたり、引き裂いたりしていた。


「あ〜〜〜〜、これはケルピー兄ちゃんやフェニ姉ちゃんに申し訳ないかもな〜〜〜。」


ハクは敵を引き裂きながら呟く。

ハクもやはり火竜の山での出来事は聞いていた。

化け物の話もだ。


ステインが言っていた事だが、ここまで当たるとは思っていなかった。

ステインはあの時『ブラスター・レイ』という魔法の光線を使って戦ったらしい。

先程から飛んでくる光線だ。

しかし、あの時何故その魔法を使ったのかと言えば、物理に強いと感じたかららしい。

確かに普通に攻撃した感じは効果がないとまではいかないが、効果は今一のように感じる。


だが、普通に吹き飛ぶし、手応えはある所を考えるとステインは失敗した。と言っていた。

なぜなら、化け物はただ殴っただけの攻撃はコピーしてはいなかったからだ。

ステインは火竜の山以降も化け物の考察をしていた。

結論として一つの仮説を立てていたのだ。


ステイン曰く、

「考察するしか出来ないけど、今度出てきたら強化無しの状態で殴り飛ばしてみたいな!」

と言っていた。


今回、ステインはいないが話を聞いていたハクはステインの代わりに強化無しで攻撃してみた。

そうすると、噛みついたり、引き裂いたりした牙や爪を模した変形こそすれ、大した変化もなく次々と化け物を倒して行けてしまったのだ。


「後でステイン兄ちゃんに教えておこう。放出系を使わなければ楽勝だって!」


気功と魔法は真似される恐れが高いが、単純な肉体での物理攻撃ならただの人形と変わらない。

ステインが覚えさせてしまった光線さえ避けれれば問題は無い。


「これは、ケルピー兄ちゃんとフェニ姉ちゃんの手伝いに回ったほうがいいかな?」


ハクはケルピーとフェニと違って物理が得意だ。

二人は魔法の方が得意だから手伝ったほうがいいかな?と考えていたが、頭を振ってやめる。


「大丈夫か。あの二人がこれくらいの敵にやられるなんて考えてるほうが後で怒られるよね!!」


次々と敵を切り裂きながらハクは遊ぶように敵を撃退し続けていた。



---------------------------------------------------


『フェニ』


フェニは大空を飛びながら追ってくる影を撃退していた。


「これは面倒ですわね。この調子ですと妾が最後になりそうですわ。」


溜息を付きながらホバリングする。

フェニは炎を主軸として戦うので影の化け物のような敵は相性が悪かった。


既にステインの『ブラスター・レイ』に対して対策は出来ているものの物理的な攻撃手段は実は乏しいのだ。


「一応、手はありますが、この程度の者に使うのは躊躇ってしまいますわね。」


心底嫌そうに言うフェニを目掛けて鳥形の化け物が襲い掛かっている。

しかし、フェニは危なげなく空中で回避すると足で蹴落としていく。


「妾の脚力では今一ですわよね?分かってはいるのですけれども納得は出来ませんわ。」


フェニは不服そうに化け物に言う。

しかし、化け物は攻撃を仕掛けてくるだけで話はしないため虚しさが募る。


「全く!女性を無視するだなんて失礼ですわよ!?」


飛び掛かる光線を飛びながら回避し続けるフェニ。

ケルピーやハク同様、ステインからある程度の化け物に対する知識は共有していた。


更に対策についてもその時にステインと話し合っていたため、対処は直ぐにでも出来るのだが、フェニは自身のプライドの高さ故にその方法を使うのを躊躇ってしまっていた。


「ステイン兄上もケルピー兄もプライドに対しては恐ろしく無頓着ですからね。」


フェニは思う。

ステインはその能力の高さからの傲慢さは有るものの、プライド的なものは見えない。

ケルピーも調停者に対する誇りはあってもそれを盾に偉ぶることもなく、ステイン達に自然体で接している。

ハクは性格的にちょっと楽観視するところが有る為、プライドは持っていない部類のタイプである。

シトリンはまだ子供故に素直さが目立つが、あれで上級を超えた存在で調停者に一番近い存在だ。

マリンは見たまんま子供である為、今は自覚に乏しくてもしょうがないのだが神である以上それなりのプライドは持っているはずである。


ならば、自分くらいはプライドを持っていようと思う。

自分たちが本当に家族であるならば、家族となるのであれば、足りない部分や必要だと思う事をフォローしあえる関係でありたいとフェニは思っている。


だが、プライドも大事だが、大事にしすぎるが故に家族の敵に後れを取るなどもっと許せなかった。

だから、フェニは自身の奥の手を一つ切るのだ。


「本来、あなた方程度に使うものではありませんが、手っ取り早く済ませるためには仕方ありません。」


大きく翼を広げると、フェニは化け物が全て見えるように陣取る。


「妾のプライドよりも家族の方が大事ですわ!!」


フィイイイイイイイイイイ・・・・・


フェニの翼の羽毛一つ一つが発光し始める。


「これは魔力ではありませんよ?妾の持つスキルに過ぎません!」


ドシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュッ!!!!!!


化け物を追尾するように羽が飛んでいく!!


ドシュッ!ドシュドシュ!!!


次々突き刺さっては化け物を打ち抜いていく羽。

フェニの奥の手の一つで、自身の羽に自身の生命力と意志を詰め込みミサイルのように放つ技である。

ステインと今後、化け物と対峙したときの手段として有効であろうと判断した技である。

何故ならフェニックスであるフェニの生命力とは理論上無限である。

炎の中から蘇る不死鳥とまで言われるフェニックスの生命力は他の種族の追随を許さず、また、真似しようものなら真似したものは消費する生命力に耐え切れず技を使うまでもなく朽ち果てるであろう。

誇り高きフェニックスの技、打ち抜きつくしたフェニは静かにその名を言う。


極楽翼陽陣(ごくらくよくようじん)


フェニは優雅に誇り高くその場を飛び去るのであった・・・・




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