作業してます。その上からひょっこりこんにちわ!
王都から自分が住処にしている森の中に帰り着いて早丸一日がたった。
戻って来てから早速、魔水晶の改良を始め休まず作業を続けている。ステインは1度作業に没頭するとのめり込むタイプだった。
そもそも、魔水晶とは以前、魔法の修業中に様々な属性魔法を分かりやすく判別し、幼馴染のマインに魔法を教えるために作ったもので、当初は魔力の流れを読み取り、様々な色に変化するという仕様だった。
一般的に属性は人により得意不得意があると思われているが、実際には火も水も土、風など魔力の使い方に差が出るだけで根本は変わらないというのは修業中に見つけ、書式として発表してある。
しかし、人にとってイメージに差があり、現在の教育方針では全属性を扱うのは難しくなかなか実用には及ばないらしい。
マインは火と風の扱いが得意だったな〜と当時を思い出しながら、魔導ネットワークを構築して行く。本来の目的で魔水晶が広まらないと気付いてからは、研究に没頭し、ある時、魔力の登録は使えるのでは?というひらめきから、どうすれば魔水晶が世に出回るかを考えた結果。大陸中に張り巡らされている魔導ネットワークに繋げて犯罪者を割り出そうと思い至った。
魔水晶の製作には特殊な材料はいらないが、深くネットワークを刻み込める錬金術の技術がいる。回路を結び不正や妨害を受けないようにしたつもりだが、人間とは悪知恵が働くものだ。定期的に報告書を作成し、改善が必要な場合は錬金術師協会に知らせ、所属錬金術師が改良を加えている。
(協会に任せていてもいいんだけど、流石に目の前で不正が起きれば職人魂が沸き立つよな〜)
犯罪者の不正に負けてなるものか、という気がするのだ。
細かく回路を錬金術で刻みながら今回刻みたい効果を頭に思い浮かべる。普通の錬金術師は、既存の回路をいじって求める効果を得るのに対し、ステインは1から回路を作る。複雑な線が刻まれて行くが、それを線と捉えてはならないとステインは考えている。
線に見えるが、これは文字なのだ。と、ある時急に気づいた。そこから研究して理解した結果、他の人よりも複雑で効果の高い回路を刻めるようになった。一般的に錬金術師は錬金術、魔術師は魔術、戦士は気孔といった教育を受ける。しかし、ステインは特殊な環境で育った時期があり、全てを満遍なく扱えるのだ。
(器用貧乏にならない様に頑張ったよな〜)
人より高水準でいろいろな事が出来ると気づいた時には周りに人が集まっていた。自分の力を利用しようだとか、研究結果を盗もうだとか、飼い殺ししようだとか。ウンザリするくらい人にたかられ、ステインは今の生活に至った。
(よし、一息つきますか。)
いろいろな過去の情景が浮かび集中力が低下して来た所で作業を中断し、住処の小屋から外に出る。外は薄っすらと日が落ちて来て夕闇が広がり始めていた。
ふと、世界樹を見上げ、その巨木の果てに想いを馳せる。
(世界樹の頂上は神の住む世界に繋がっている。初代国王の言葉だったな。)
過去の文献に載っている有名な一節である。ステインがここに住む目的でもある。
(やりたい事、目的、目標。出来る事はなんでも手を出してきた。その最後・・・)
ステインは神の世界に行き、神に会ってみたかった。なぜ自分だったのか?なぜ自分がこの様な目にあっているのか問いただしてみたかった。
(人外だの化け物だの、魔王に英雄、勇者。剣聖に武聖、しまいには賢者だとさ。)
力を持ったことに後悔は無い。そのために出来る事を自力で頑張って来た。師はおらず、自分の力だけで至った事は誇りでもある。しかし、その為に、自分の周りには打算的な人物が多すぎた。
(バっさんや、マインまでそうとは思って無いけどな〜)
頭を振り、今日は変な事を考えすぎだと考えを霧散させる。久しぶりに知り合いに会ったからかな?と思案してしまう。
(え〜と、前回王都に行ったのは・・・鳥をマインに預けた時だから、半年前か?で、通信切って連絡もしなければ怒られるか。)
溜息と共に、心配してくれている人がいる事に申し訳なくなる。きっと、自分を知る人達は世界樹に近づく事を心配しているのだろう。神の世界に迷い込めば人間など、どうなるかわからないのだ。
(単純に興味本位でもあるし、今の俺が世界樹を登りきれないとも思わないのだけれども。)
ステインの目的はやはり世界樹の頂上だ。見た事の無い神の世界を見てみたいと思い、この領域に足を踏み入れたのは間違いない。ただ、何故か世界樹に挑もうとすると不思議と気持ちが冷めてしまう。自分でも理由が理解できずに、困惑してしまう。
(まあ、気長に挑戦するしか無いよな。)
ガシガシと頭をかき、小屋に戻ろうと世界樹に背を向けて歩き出そうとした時だった。
《人の子よ・・・我が声が届くか?》
「!!!?」
頭上からの声にその場を跳びのき、気孔と魔力を纏い、振り返る!
《警戒するな・・・というのも無理な話か。下界に姿を顕現する事は今は難しいが、声は届いた様だな。》
「・・・一体何者だ・・・と聞くのも馬鹿馬鹿しいのかな?」
《いや、其方の力は現世の中で一番我らに近ずいている。なればこそ、我の姿がなくとも声が届くのだろうし、警戒も出来るというもの。見事である。》
「・・・ふう。敵意はないのだろう?」
《うむ、勿論だ。でなければ話しかけたりせぬ。》
「だろうな・・・」
正直、声が聞こえるまで気配も何も気づいていなかったのだから、攻撃されていれば無事ではなかっただろう。何より、声の主は声は聴こえるし、気配も今は感じているが、存在感がない。
「愚問の様な気もするが、何者だ?」
《ふふふ、我の気配を感じていながら平然としておる。やはり我の目に狂いはなかった!》
「・・・・・」
気配は本当に楽しそうに波打つ。
《ああ、すまぬ!我が誰か?だったな。うすうす気づいている様だが、はじめましてだ。我は世界の四神が一柱、大地と恵みを司る神にして、現世の管理をしている最高神、本来なら名前は無いのだが、人の世ではこう言われている・・・》
世界樹の女神 エルアリア ・・・・と
《取り敢えず、ステインよ・・・・こんにちはじゃ♪》
この世界の最高神にして女神は思わず気の抜ける挨拶をしてきたのであった。
神様回、次回も続きます。




