魔国内での異変
ステイン達が王都を出発した頃まで遡る。
魔国ーーー
魔王が治める地域であり、魔族と呼ばれる種族の大半が住んでいる地域である。
魔力の扱いに長けた種族であり、戦闘では魔法を使い一体多数を得意としている。
その中で、もっとも魔力の高い者が魔国を治める魔王の血筋である。
魔力は血統に左右される事が多く、魔族は血の繋がりを大事にする種族でもあった。
昔、魔族と人族は戦争をしていた時代もある。
過去の魔王を討伐せんとする人族の勇者。
今や子供達の読む絵本の題材としても語り継がれているが、簡単に説明すると、
当時の魔王と勇者はお互いに死力を尽くし戦い、後に和解。手を取り合って今の世の中に対し、共存の道を探したのだ。
それが今の時代まで引き継がれており、王国と魔王の友好関係にも繋がっている。
帝国との争いにもいち早く王国が助けに入り、戦争後の援助なども王国が率先して行ってくれた。
その代わりに、王国での魔獣氾濫の際には魔王自ら出向き、早期殲滅をするなどお互いがお互いを助け合う関係として上手く付き合っていた。
そして、今回、旧帝国関係者と思しき目撃情報や、調査結果を王国同様、魔国でも受けており、王国と連携して他国との交渉を行い、帝国に対する抑止力として動き始めていた。
多数の周辺小国は殆どが魔国の属国として協力してくれることとなり、後は王国側との会談を行い、実際の動きや、政策を練るだけとなった。
後は王国にその旨の書簡を届けようとしていた時である。
魔国とその右腕として知略に長けたデニスが書簡を準備している時に一報が入った。
「し、失礼します!緊急です!」
「入れ。」
「ハッ!!」
駆け込むようにして魔国の将軍が魔王の執務室に入って来た。
「執務中にすみません!緊急でございます!現在、魔国周辺に正体不明の化け物が多数の目撃されております!」
「正体不明の化け物?」
「ふむ、その程度であれば直ぐに貴方の部隊が出ているはずでしょう?」
報告に魔王とデニスは首をひねる。
魔獣の突然変異が現れたのか?という程度に捉えていたのだが、
「そ、それが、我が部隊も大半が迎撃され、逃げ帰って来てしまった次第です・・・」
「なんだと?」
「それにしては貴方は傷もないようですが?」
「はい、そこまでの相手とは思わず、副官に任せてしまったのです。まず、魔王様に報告して、今より私も出陣致します!」
将軍が勢い良く頭を下げ、出て行こうとするタイミングで、魔王の執務室に入ってくる者が居た。
「待て、将軍。儂も出る。」
「ゼンか?お主が出るならば安心だな。」
「だだだ、大将軍様!!」
「貴方が進んで出るとは。」
魔王四天王のゼラル=バン=ウェルヌスであった。通称はゼンである。
ゼンは魔王を見ながら警鐘を伝える。
「魔王様、恐らく今回の敵は想像よりも厄介かと。コヤツの副官に詳しい話を聞いて来たのだが、敵は姿がハッキリせず、光線の様なものを吐き出し、攻撃はほぼ吸収され効果がないようです。」
「なんだその化け物は!?」
「・・・どれ程の勢力なのです?」
ゼンの報告を聞き、将軍に改めて詰め寄るデニス。
魔王も奇妙な軍勢に執務を辞める。
「将軍よ、お主、話も碌に聞かずに来たな?お主は真面目だが慌て過ぎるのがいかん。いいか?今回の妙な敵だが、ほぼ同様の個体が4、50体確認されておる。また、徐々に増えて来ているという情報もある。事は性急に鎮めねば厄介な事となろう。」
「気持ち悪い化け物だな・・・だが、情報が揃っているならば話は早いな。デニス?」
「はっ!!将軍、全軍を集めなさい!ゼン!私達も四天王を集め今の内に素早く撃退しましょう。」
「やめておきなさい。魔族の方々。」
「「「「!!!!????」」」」
魔王達が話を切り上げようとするタイミングで、いつのまにか1つの影が現れる。
「何奴か!?」
「待て、ゼン!!」
「いえ、魔王様はお下がりを。将軍!!」
「はっ!!」
魔王を庇うように前に出るゼンと将軍。デニスは魔王を後ろに下げる。
「ああ、警戒はいりませんよ?私は戦闘力はありませんから。」
「ぬん!!」
影が話す隙をつきゼンが斬りかかる。
ザンッと斬り伏せたと思われたが、影は変わらずその場に居た。
「ああ、私は見た目通り影なので攻撃しても無駄ですよ?」
「コヤツ!?」
「大将軍様!下がりましょう!」
「ああ、お待ち下さい。魔王様に話があって来たのですから!」
「皆、下がれ。影よ我に何の用だ?」
魔王は皆んなを下がらせると、影に相対するように前に出る。
「魔王様。貴方を勧誘しに来ました。」
「勧誘?」
「ええ!我等が主君は魔人の力を求めています。魔人はご存知ですか?」
「魔人とは大昔に先の魔王が相対したという魔人か?」
「そうです。その後魔人は神々との戦いに敗れ、今は力の残響を残すのみ。」
「何故我を?」
「貴方方魔王は魔人の兵だからですよ!!」
影は興奮気味に言う。
「貴方の先祖の魔王は魔人に敗れ魔人の兵と成り下がっていたのです!さらに魔人が神々に敗れた後、魔人の影響だけを残し、類稀なる魔力を内包した魔王を産み続けているのです!!魔王よ!魔人の尖兵として我等と来なさい!」
「くだらん。」
魔王は影の話を切って捨てた。
「過去の魔王がどうあれ、我が貴様に付き合う必要はあるまい。消えろ。」
「まあ、そう言うでしょうね。詳しく話すだけ無駄だとは思っていましたが。」
「貴様の相手をしている時間は無い。デニス、ゼン、将軍よ出陣しろ!」
「ああ、忠告を。あの化け物は攻撃を吸収して己の物にできますよ?受けた力を餌に増殖を繰り返します。」
「やはり化け物は貴様の差し金か?」
「話ごときで魔王が降るなどと思ってはいませんよ?貴方方を潰して魔王の死体を回収するだけで充分ですし。私の影獣は厄介ですよ?」
「良かろう。デニス、戦略を集めろ。我も出る!」
影との話を切り上げ、出て行こうとする魔王に影は言う。
「『魔人の種子』たる魔王よ。抵抗など無意味だと思い知りなさい!」
部屋を出る前に振り返る魔王。
影は既に消えていた。
それから、ステイン達が到着するまでの間、魔国は化け物に攻められ、魔国の首都に領民を避難させ籠城するまでに追い詰められる。
戦闘に疲れ果てる兵達、また、魔王達も限界が近ずいて来ていた。
その時、希望が、人間界を守護し、神の代理人たる調停者が魔国に到着しようとしていた。
だが、同時に影も魔国を攻め落とすために最後の戦力を投入しようとしていたのだった。
新章の触りとして短めになりました。




