ステインの眠り。
「シトリン!もうちょっとスピード上げるよ!」
「はい!行きます!ハクお兄様!!」
ドドドドドドドッッ!!!!!!!!!
「フェニ!次に移るぞ!!」
「ええ!良くてよケルピー兄!!」
ドドン!!ドン!!ボボボンッ!!!
「うわぁ!皆んな凄いねステイン!?」
「まあ、とんでも無くなってきたな・・・補修が大変だよ。」
フィーン、フィーン!!
皆んなが破壊した後を補修魔法で直していく。
ハッキリ言って補修魔法を覚えてて良かった!
昔の俺、良くやった!
覚えてなかったら魔国までの道のりが更地になってたよ!?
補修魔法は短時間だけ時間を巻き戻せる魔法だ。
昔、俺も失敗で霊峰を破壊しまくった時にヤマタさんの提案で作った魔法である。
時間を操作するので燃費は良くないが、今回は大活躍である。
ウチの家族は全員、心置き無く訓練している。ハッキリ言って、皆んな物凄いスピードで強くなっている。
「私達、調停者は元々1人で暮らしていた。この様に教え合う事がそもそも無かった事だ。故に学べる事が多い。要するに伸び代がデカイと言う事だろう。」
と言うのがケルピー談である。
「シトリンはマザー・フェンリルだっけ?そんな種族は聞いた事ないけど、多分、僕達と同じ幻獣種じゃないかな?ドンドン強くなってるから僕も負けてられないよね!」
と言うのがハクの言い分。
「妾は不死鳥などと呼ばれていますが、今は兄上含め、皆んなを守りたいのです。その為ならまだまだ強くなれる気がしますわ!」
と言うフェニの強い宣言。
「私は皆んなの力になれるくらい強くなるのです!足手まといは嫌なのです!」
と言うのがシトリンらしい。
と言うわけで、それぞれの想いの元に訓練は効果を上げているみたいだけど、それぞれ、俺にも隠している戦法があるらしい。
訓練中、たまにコソコソ隠れて相談している面々を見る事がある。
恐らく、効果は実感しているが、実戦で見せたいのだろう。
ウチの家族は派手好きだからちょっと不安だ!
さて、それからも問題なく進み、魔国までの道のりは半分くらいは進んでいた。
途中、やはり魔獣に襲われる事もなく進んだ。
いや、言い方を間違えた。
皆んなの訓練が凄まじくて魔獣は隠れたり逃げたりしました!
と、言うわけで、そろそろ俺の訓練に移ろうと思う。
皆んなを晩御飯時に集めて話をしておく。
「さて、魔国までの道程も半分を切った。そろそろ俺の訓練に入ろうと思う。」
「そうか。いよいよだな。」
「僕達の訓練も思ったより捗ったから大丈夫だよ!」
「そうですね。妾達も後はゆっくり仕上げる方が良いでしょうし、頃合いかもしれません。」
「お父様!私がお守りします!」
「ステインは私が見てるね!」
家族の顔を見ながら、改めてこれからの事をお願いしておく。
「実際、どれだけ眠るかはわからない。明日の朝、力を解放してそこからは皆んなに任せる形になる。魔国に向かいつつ、俺が目覚めなければ待っていた方がいいかもしれない。ただ、マリンの食事だけはどうにかしないとマズイから魔国に入ったら宿に泊まれるといいが、無理なら魔王に直接会いに行って俺の顔を見せればなんとかしてくれるだろう。国王からの書簡も渡しておく。後は皆んなで話し合って無事に過ごしてくれ。」
「私達に任せて、今度はステイン殿が訓練を進めよ。上手いことやっておく。」
「僕達にお任せだよ!今度は魔人の関係者が来ても油断しない!」
「ええ、今度は焼き尽くしてくれますわ!」
「噛みちぎるのです!」
「私が怪しい事は教える!」
皆んなの頼もしい言葉と共に、次の日を迎える。
まだ朝早くに皆んなと起きて、ケルピーとフェニに俺の周りに結界を張ってもらう。
力を解放した影響を外に出さないように全力の結界を張ってもらう。
準備が整ったところで、俺は精神を集中していく。
限りなく自分の中を空っぽにする為に、『気』と、『魔力』を練り上げる。
ーーーーーーーーーーーーーーー
『ステイン以外の視点』
結界の中がバチバチと音を立てる。
稲光のような力がステインの身体から漏れ出していた。
「グウ!まだ力を出していないのにこの圧力!ハク、シトリン!気功で結界を強化出来るか!?」
「わわわ!や、やってみるよ!これはちょっと予想以上だよ!」
「くう!妾達が全力でやってこれは!!兄上、どれだけ力を溜め込んでいるんですか!?」
「マリンは私達の後ろにいないとダメなのです!」
「う、うん!皆んな気をつけてね!?」
更に音と光を増すステイン。
既にケルピー達は全力で対応している。
『気』と『魔力』を同時に操るステインの力に対抗する為に、ケルピー達も結界の『魔力』にハクとシトリンの『気』を合わせて押さえ込んでいた。
「ふう、どうにか今は落ち着いたか。『魔力』と『気』を合わせるととんでもない力になるのだな。」
「強くなれたと思ったけど、ステイン兄ちゃんは本当に規格外だよねー!」
「皆んな気を緩めぬように。いつ兄上が本気を出すかわかりませぬよ?」
「ううう〜!まだまだなのです!」
「あ!皆んな来るよ!?」
マリンの宣言にケルピー達は身構える。
ステインの様子を伺っているとゆっくりとステインが目を開く。
1つ息を吸うと、ステインがいよいよ力を解放していく。
「ううう、うるあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」
雄叫びをあげるステインに呼応するように力の嵐が結界を押し返してくる!
ズルズルと後ろに押されるケルピー達。
マリンはシトリンの背中を小さな手で押しながら応援する!
「皆んな、頑張って!!力の解放は長くないはずだよ!?」
「ぐうう!わ、わかっております!マリン様!!!」
「くうう!ぼ、僕も全力だーーー!!!」
「だ、出し惜しみしている場合ではありませんね!!」
「わ、私もが、頑張るのです!!!」
ギリギリの所で均衡を保つケルピー達。
誤解の無いように言っておくが、本来のステインと今のケルピー達の力にそこまで差は無くなっている。
訓練前まではステインとケルピー達に力の差があったが、短い期間の中の訓練で確実にステインとケルピー達の力の差は無くなっていた。
それが、ステインが今まで力の解放を行わなかった理由でもある。
理由は単純に、ステインの力の暴走にケルピー達が耐え切れないと思っていたからだ。
そして、それは正しかった。
ステインが意図的に起こした力の暴走の威力と、本来の生物なら無意識にストッパーがかかるくらいの限界点まで力を解放している為に普段は出さないような力の嵐が巻き起こったのである。
「あああああああああああ!!!!うるあああああああああああああ!!!!」
強い光がステインを包み込む。
ステインがここまで限界の解放を行えるのはケルピー達に対する信頼からでもあった。
ケルピー達を信用しているから、心置きなく力を絞り出す事に専念できていた。
ステインは軽い調子で言っていたが、やはり力の放出をギリギリまでするのは危険な事だった。
加減を間違うと本当に力が空っぽになり、場合によっては生命活動に支障をきたしていただろう。
ステインだからギリギリで加減できたのだ。
「ぐううううううっ!!!!もう少しだ!!」
「くううううっ!!!ま、負けるもんか!!!」
「はあああああ!!わ、妾達も出し尽くすのです!」
「ううううう!!やああああああああ!!!」
「頑張って皆んな!!頑張ってーーー!!!」
ケルピー達が最後の気合を吐き出すと同時に、ステインも最後の絞り出しを行う。
「おおおおおお!!らああああっ!!!!!」
最後の一絞りをするステインに呼応するように、マリンは声をあげる!
「皆んな!!今だよ!!??」
「「「「はああああああああああああああ!!!!」」」」
ステインとケルピー達の最後のぶつかり合いが行われる。
辺りを光が包み込む!
皆んなが光に包まれ、訳が分からなくなる。
しかし、マリンの声でケルピー達は反応して力を合わせた。
ガカアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!!
光が弾けていく。
砂埃が巻き上がり、ステインが見えなくなるが、力の暴走は収まったらしい。力の本流が無くなり、結界にぶつかる衝撃も収まった。
まばゆい光が収束していくと共に、ケルピー達は揃ってその場に倒れていった。
「はあ、はあ、はあ。な、なんと、か、なった、か?」
「はあ、はあ、はあ。う、うん。はあ、お、終わった、みたい。」
「ふう、ふう。よ、良かっ、た!!」
「わふ、わふ。げ、限界、なの、です。」
「皆んな!!大丈夫!!?」
ケルピー達が警戒を解くと、ステインの周りに舞っていた煙が晴れていく。
煙が晴れると、ステインの姿が見えた。
ブスブスブスッ!!!
ステインの身体から焼けた後のような黒い煙が立ち込めている。
動けないケルピー達はステインを見ていたが、グラっと揺らぐステインの身体。
重力に逆らう事なく、背中からステインが倒れた。
皆んな、ステインが気になっていたが、今は誰一人動ける者がいなかった。
そこからケルピー達がなんとか息が整い動けるまでに10分あまりかかった。
動けるようになると皆んながステインの顔を覗き込む。
「すう・・・すう・・・すう・・・」
ケルピー達の苦労など気にする様子もなく、穏やかな寝息を立てるステインの姿があったのだった・・・




