ステインと訓練と訓練
突然のステインの死ぬ宣言に一同は慌てる。
「すすすす、ステイン!死んじゃダメ!ダメ!!」
「す、す、ステイン殿!?いきなり何をいう!?」
「ステイン兄ちゃん!何か敵が来た!?僕も手伝うから大丈夫だよ!?」
「あ、兄上!妾みたいに炎の力で回復できるのか!?人間は死んだら戻らぬぞ!?」
「お父様お父様!!わ、私が守るのです!!!」
「わ!ちょ、皆んな!?落ち着け!?」
大慌てでステインに群がるマリン達。
ステインは詰め寄られ、困った顔をしていた。
一度、皆んなで休憩がてらステインが何をしたいかを説明する。
皆んな、真剣な表情でステインを見ていた。
「まず皆んな、俺が『聖気』の訓練をしてるのは知ってるよな?」
「うむ、最高神様より聞いたというのは知っている。」
「ステイン兄ちゃんがマリン様と同じ力を持ってるんでしょ?」
「人には過ぎた力ですが、魔人の力に対抗するには必要でしょうね。」
「お父様、強くなるです?」
「ステイン、もっと強くなれる?」
「今より強くならないと魔人の力に対抗できないからな。でだ!現状、『聖気』の感覚が全然掴めないでいる。このままじゃ、訓練を重ねても意味が無いかもしれない。それに、ゆっくり修行している時間があるかもわからないだろう?」
「そうだな・・・」
「僕ら何も分かってないからね・・・」
「妾達もその為に魔国に時間をかけて向かっていますからね。」
「私も頑張ります!」
「私は応援頑張る!」
皆んなが強くなる意思を見せている。
マリンはまだ戦闘に耐えきる程の成長はしていない。
ケルピー達、調停者は今の調停者の限界を超えるつもりでいるみたいだし、シトリンは調停者並みに強くなるつもりでいる。
このままでは、俺だけ現状のまま成長出来ない。
だから、今から、死ぬつもりでやる!
「皆んな、落ち着いて聞いてくれ。実は大分前からこの方法は考えついていた。死ぬ事はないけど、仮死状態になる事まではわかっている。皆んなには俺の身体とマリンの守りを頼みたいと思っている。」
「ふむ、ステイン殿、何をするつもりだ?」
「ステイン兄ちゃん何するの?」
「兄上、無理はダメですよ?」
「私、お父様とマリンを守るのです!」
「ステイン、大丈夫?」
皆んな心配そうに見てくる。
意を決して、考えている方法を皆んなに伝える。
「俺の中にある魔力と気を一度放出し尽くす。0に限りなく近ずけるんだ。」
「「「!!!???」」」
「そうするとどうなるのです?」
「分かんない!」
ケルピー、フェニ、ハクは驚愕しているが、シトリンとマリンはよく分かっていないようだ。
ゆっくりと説明する。
「とりあえず最後まで聞いてくれ。今、俺の体には『魔力』と『気』と『聖気』が存在している。けど、今の俺の『聖気』が弱すぎるんだ。逆に『魔力』と『気』が強すぎる。どうにかして、一度『聖気』を感じる事が出来れば、後は使えるようにはできるはずなんだけど、『魔力』と『気』が邪魔で感じる事さえ出来ない状態なんだ。」
「理屈は分かるが・・・」
「うん。いくらステイン兄ちゃんでも危ないよ?」
「妾も賛成しかねます。危険過ぎませんか?」
調停者の3人は危険性をわかっているのか、やや反対している。
魔力と気は本来、全ての人間が大なり小なり持っている生命エネルギーみたいなものだ。
今、俺がやろうとしているのは、これを0に近ずけて、微量な『聖気』を見つけようとしている方法だ。
「完全に抜いたりはしない。けど、仮死状態になるはずだ。しばらく目を覚まさないとみて間違いないだろう。だから、皆んなに守りを任せたい。」
「心得た。私が守ろう。」
「僕も!その間に僕も強くなっておくし!」
「妾も皆んなを癒し、守れるように精進致しますわ!」
「私は強くなるのです!」
「私は頑張れ〜って応援頑張るからね!」
話がまとまって、皆んなとこれからの行動を決めていく。
取り敢えず、『聖気』を感じる為にも魔力と気を放出しないといけないが、それは後回しにした。
今は俺がマリンを連れながら移動しているので、ケルピーとフェニ、ハクとシトリンという2組に別れて訓練出来ている。
それを俺が今眠ると、俺とマリンを守る為に最低1人は付きっ切りになるからだ。
ギリギリまで2組の修行を実行させながら魔国方面に向かう。
場合によってはもう少し時間をかけて向かうようにする。
兎に角、今は皆んな訓練に余念がない。
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『ハクとシトリン』
「シトリン。ステイン兄ちゃんやケルピーとフェニに負けないように手加減は無しで行くよ?」
「はい!ハクお兄様!」
お互いに気を放出し、自身の強化に専念するように気功を使う。
『気』とは、生命のあるものならば、木でも花でも微量ながら流れているものだが、本来の性質は穏やかなものだ。
それを戦闘にあんなに激しく使うのはステイン位じゃなかろうか?と、ハクは思う。
白虎として産まれた時に『気』というものを扱う事を知っていた。
人間の赤子が手足を動かすように『気』を操る事が出来ていた。
しかし、ステインの様に段階的に出力を変えて戦ったり、様々な用途に合わせて性質を変えたりする事はハクには考え付かなかった。
(というよりは、多分、僕やシトリンには向いていないんじゃないかな?)
ハクとシトリンは四足歩行の魔獣であり、本来なら圧倒的な上位者である。
故に、細かな戦いには向いておらず、全力戦闘で進化を発揮する戦略型魔獣だ。
元々細かな制御が苦手な部類に入る。
ステインの様に細かな戦法は取れないだろう。と、ハクは考える。
何度かシトリンと爪を合わせていくと、考えをまとめたハクはシトリンに話しかける。
「シトリン。僕達はステイン兄ちゃんみたいな気の使い方は多分向いていない。元々、僕やシトリンは大型魔獣の中でも細かな戦法に向いている種族じゃないからね!だから、短い時間の中で強くなる為に1つの事に絞って訓練しようと思う。」
「は、はい!良く分からないですが、分かりました!」
「元気な返事。じゃあ、今から僕達は気を・・・・・・」
そして、ハクはニヤリと笑うとシトリンに今後の課題を教えてあげる。
2人の訓練は日が暮れてお腹が空くまで休み無く続けられた。
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『ケルピーとフェニ』
ケルピーとフェニの訓練は大人しいものだった。
内容が魔力の譲渡に絞られているからだ。
ケルピーが浄化の力を込めた魔力をフェニに流して、フェニがひたすらにそれを身体に覚えこませていく。
集中力がいる代わりに地味な訓練だった。
「ケルピー殿、すまない。」
「ん?どうした?」
「いや、癒しの魔法を覚える為に付き合わせてしまっていると思いまして、ケルピー殿も訓練したいのでしょう?」
「ああ、気にするな。癒しは今のところ私とステイン殿が使えはするが、私やフェニ、ハクやシトリンといった魔人の気に当てられた者を癒せた者はマリン様だけだ。今後、ステイン殿はその域に達するかもしれぬが、回復役が多くて困る事はない。それに、フェニは癒しに向いていると思う。」
「妾が癒しに向いている?」
「元々が最高神様の調停者なだけあってフェニの能力はヤマタノオロチ殿同様に飛び抜けておる。ヤマタノオロチ殿は戦闘特化だったが、フェニはバランス型とでも言えば良いか・・・」
「そうですか?」
「うむ、それにフェニは種族特性持ちであろう?元々、フェニックスは炎があれば活動できる種族ぼ筈だ。傷付いても炎の中から蘇るという逸話があろう?」
「確かに妾は炎の中で傷を癒しますが・・・」
「そう。フェニは自身の癒しは既にできるのだ。後は他人の癒しを覚えるくらいなら楽に出来るはずだ。元々の持っている癒しの力の使い方を広げるだけだからな。」
「成る程。」
「そこで、癒しと浄化を覚えたら、私達は魔法の質を高めようと思う。ハクやシトリンみたいな物理的な行動も苦手ではないが、弟と妹は行動的だからな。バランス的にも私達は魔法を伸ばすべきだろう。」
「それは賛成しますが、兄上に習ったほうが良い気がしますけど?」
「ステイン殿は確かに魔法も達人だが、私達は調停者としてステイン殿に頼りきりでは居られまい?だから、自分たちで強くなるべきだと思う。」
「成る程。理解しましたわ!では、さっさと覚えて訓練にはいりましょう!」
それからケルピーの思惑通り、フェニは半日かからず癒しと浄化を覚え、ケルピーと共に魔力トレーニングと新たな魔法に注力していった。
余談だか、ハクとシトリンが訓練で魔国までの街道にクレーターを作ったり、ケルピーとフェニが魔法で森を吹き飛ばしたり、それをステインがマリンを連れながら治して回ったりしていたとかなんとか・・・
次回で訓練回は終わりにしたいと思います。
いつも途中で流れを変えたりしてしまうのでどうなるか決まっていませんが、今回の章は予定では後2話で終わる予定です。
お読み頂きありがとうございます。




