終・昔話。〜勇者となったステイン〜
夫婦と生活するのに慣れ、普通に朝、食事をしていた時、奥さんがポツリと呟いた。
「ステイン君に採ってきてもらった食料も少なくなってきたわね・・・」
「そうか。長の話し合いが長引いてステイン君を連れて行くかどうか決まらないから予想より食料が足りなくなったんだろうな。」
「そうなのか?なら、今日は狩に行ってこようか?」
「ごめんなさい、ステイン君。そういうつもりじゃなかったの!」
「そうだぞ?ステイン君に狩に行けとは言っていない。無理はしなくていい。まだ数日は平気だろう。」
「気にするな。俺もたまには身体を動かしておきたいだけだ。朝食が終わったら行ってくるよ。」
「ありがとう、ステイン君。」
「すまないな。」
夫婦は俺の事を名前で呼ぶようになっていた。
それくらい仲を深めていたという事だろう。
手早く朝食を済ませ、フードを被り、狩に出掛ける。
周りの人は俺が人間だとは言ってあるらしく警戒する者もいる為、宿を出て素早く森に入って行く。
本当はその時気付くべきだった。
俺を監視していた帝国兵がいた事に。
町の中で住民から警戒の眼差しを受ける為、害意に気付くのが遅れていた事に、俺は気付いていなかった。
もちろん今の俺ならそんな事ないけどな。
あの時はまだまだ未熟だったのだろう。
そのせいで、帝国との戦争に介入する、決定的な現場に遭遇する事となる。
しばらく森の中を散策して狩をしていた。
順調に狩を行い、そろそろ帰るか、と思っていた時だ。
ふと、風に流れてくる煙の匂いを感じた。
「これは・・・町の方角か!?」
煙の流れてくる方角が町の方だと気付いた俺は、獲物を抱えて慌てて走り出す。
その時は妙に嫌な予感がしたんだ。
森を走り抜け、町の方角を見ると、煙が上がっていた。
夕方でもないのにオレンジ色をした炎が空をオレンジ色に、煙が黒く染め上げている。
獲物を放り出し、町に到着すると、そこには命を落とした魔族の死体が転がっていた。
むせ上がるような血の臭いが充満している。
燃え上がる炎と煙が邪魔だった。
ガキン!ドンッ!!ゴオオオオオオオオオオ!!!
町の奥から戦闘音が聞こえてくる。
俺はそこに向かって走り出した。
宿の夫婦の顔が頭に浮かび上がる。無事なのか?生きているか?気になってしょうがなかった。
その時、行く手を阻む、帝国兵士がいた。
「邪魔だ!!」
帝国兵士を根こそぎ火の中に殴り飛ばしながら先を急いだ。
戦闘音がなくなると同時に俺はその場に到着した。
物陰から伺う。
そこに居たのは、崩れた建物の資材でバリケードを作る町人達と3人の兵士だった。
但し、兵士の側には町の女が集められていた。
「降伏しろ。女がどうなってもいいのか?」
「頼む!女は見逃してくれ!!」
「俺達はこの間、俺達の野営地を攻撃した者を探している。此処にいるんじゃないか?」
「そ、それは町の者ではない!旅の人間だ!」
「人間だと?王国側の人間か?まあいい。そいつを連れてこい。」
「や、宿の主人、あの小僧はどうしたのだ!?」
「今日は朝から町の外に行ってるよ!というか、アイツを差し出すつもりか!?」
「奴らの狙いは小僧だぞ!差し出さねば何をされるか・・・」
「まだ子供だぞ!帝国に差し出すなんて・・・」
「女達がどうなってもいいのか!?お前の奥さんだっているだろうが!?」
「!!!」
奥さん、捕まっているのか?
女が集められている方を見ると、ちょうど奥さんが一際目立つ鎧を着た兵士の1人に捕まって引きずり出されていた。
「いい女だな。女、俺の相手をするなら命は助けてやるぞ?どうだ?」
「誰が!!私は旦那一筋よ!!」
「旦那か。あの中にいるのか?面白い。」
奥さんを引きずるように連れて旦那達の前に行く。
「宣言する。俺達は帝国に攻撃する馬鹿を探しに来ただけだ。そいつを出すまで、女を犯し続ける。」
「「「「「!!!!!?????」」」」」
乱暴に奥さんを倒す。
旦那さんが飛び出した。
「やめろ!」
「貴様が旦那か。光栄に思え、帝国英雄が1人であるこの俺の子種を貴様の女にくれてやる。」
「やめろ!!!」
駆け寄る旦那さんに残りの兵士が抑え込む。
「英雄様はこういう無理矢理な感じがお好きなんだよ!」
「女の喜びに震える奥さんを見ているんだな。」
「妙な行動をしたら、女を1人ずつ殺すぞ?」
女子供を人質にされ、男は動かない。
英雄が奥さんに手を伸ばした所で、俺の我慢が先にキレた。
「俺がお探しの旅の者だ。」
宣言して、物陰から出る。
ゆっくり歩いて近づいて行く。
「ほう。戻ってきたか。」
「戻ってきただと?お前、俺がいないことがわかっていたな?」
「察しが良いな。少し前からお前の存在は見つけていた。俺は『邪眼』の英雄だ。監視など寝ながらできる。野営地を攻撃した者を探すように言われていたが、思いの外面白く出来そうだったのでな。貴様がいない間にセッティングしておいた。」
「・・・・・」
「どうだ?多少なりとも一緒に過ごした者を人質に取られる気分は?お前の行動次第であそこの旦那も、この女も死ぬかもな?」
「ステイン君!私は大丈夫だから、逃げなさい!」
「!?」
奥さんの言葉に驚く。
すると、旦那さんも言う。
「そうだ!これは帝国とこの町の問題だ!!君は逃げなさい!」
「黙れ!」
旦那さんが帝国兵士に押さえつけられる。
「逃げれる訳が無いだろう?この広場は兵士で包囲している。」
「・・・・・」
「言っておくが、俺は貴様程度の力なら敵では無いぞ?『邪眼』も勿論だが、俺は気功の達人だ。貴様程度の身のこなしなら・・・」
「気功術。」
帝国英雄の言葉を遮るように気功を使い包囲していた兵士を倒して行く。
巧妙に姿を隠していたが、派手に殴っていった。
ドンッ!ガンッ!!ゴンッ!!!
「な、何事だ!?」
「お前の邪眼?では見えないか?」
「何がだ!?」
「周りの兵士ならもう居ないぞ?」
「何を言って・・・」
「英雄とか言っていたか?何が英雄だ。お前、どう見てもジャイアント・オークだろう?豚にしか見えん。」
「き、貴様!?」
「ブヒブヒ煩い。さっさとその役立たずな眼で確認してみろ。どこに兵士がいる?」
「!!!???」
確認した英雄が慌て始める。
もうこの場にいる兵士以外は潰しておいた。
それを確認したのだろう。
「ば、馬鹿な!?何をした!?」
「何が気功の達人だ。気功で強化した俺の動きも見えていない。ペラペラお前が喋っている間にぶっ飛ばしておいた。今頃、馬鹿供は海の中だ。綺麗に飛ばしておいてやったぞ?」
「な、何を!!?」
「わかりやすくやってやる。」
ドンッ!!!
突然、旦那さんを押さえていた兵士が吹っ飛んでいく。
とてつもない衝撃で、すぐに見えなくなる。
「え?え!?」
「見えたか?それとも、目の前にいた俺の残像しか見えないか?」
「す、ステイン君!?」
英雄と旦那さんが驚いて狼狽えている。
英雄の手が奥さんから緩む。瞬間、帝国英雄の前に駆け出る。
「さて、お前、英雄だっけ?」
「はあ!?な、女は?い、一瞬で!?」
「なかなか胸糞悪い言葉達をありがとう。お礼にお前は兵士達より激しく行くぞ?」
「ま、待て!!!」
「気功術。に、魔力の上乗せだ!!吹き飛べ、帝国!!!」
「や、やめ・・・」
「オラア!!!」
ゴシャッ!!!!!
「ブベラッ!!!」
真上に打ち上げる。と同時に、俺も飛び上がる。
空中高くで英雄と並ぶと宣言する。
「気に食わない国だな帝国は。俺は魔国には世話になっているんだ!帝国ごと吹き飛ばしてやるから、お前は先に逝ってろ!!」
「ヒャ、ヒャふ!!?」
ゴンッ!!!ヒュー・・・・・・ドゴシャッ!!!!!
地面に向けて蹴り、地面に叩きつける!
物凄い砂埃と共に英雄が地面に叩きつけられ、生き絶える。
着地した俺は宿の夫婦を見る。
「「ステイン君!!」」
同時に俺を呼ぶ夫婦。周りの町民は何が起こったのか理解できずに狼狽えていた。
俺はその隙に旦那さんと奥さんに言う。
「2人共、何ともないな?」
「ああ!ありがとうステイン君。また助けられたな!」
「ステイン君こそ怪我はない?」
「ああ。2人共、俺は行くところが出来た。今のうちにここを離れる。」
「「え?」」
「帝国の奴らのやり方は気にいらん。俺は行く。じゃあな!!」
「「ステイン君!!??」」
名前を呼ばれている頃には俺は走り出していた。
無性に帝国が気に食わなかった。
今ならわかるが、当時の俺は何故気に食わないのか言葉にできなかった。
だから、ただただ帝国を潰すために片っ端から帝国兵士をぶっ飛ばし続けた。
小さな隊をぶっ飛ばしても意味はない。と思い、戦争になっていた王国との戦場に乗り込んだ。
2人の英雄をぶっ飛ばし、片っ端から帝国兵士を打ち倒していった。
結果、英雄を失った帝国は瓦解し、王国と魔国が帝国に攻め入り、勝利となる。
絶望的な戦場、帝国英雄を3名中3名撃破。万を超える兵士の大半を撃墜。
それを、フードを被った少年が1人で行なっていた事は、当時の魔国、王国の兵や騎士には有名だった。
殆どの者が彼の素顔を見た事が無く、ただ、その戦闘の凄まじさに感動する者もいれば、恐怖する者もいた。
余りの戦果、実力に、当時の戦争に参加していた者達はステインを通り名で呼ぶようになっていた。
魔国では、その戦闘の凄まじさに対する恐怖と、英雄を打ち倒した姿から『英雄殺しの英雄』と呼ばれる。
王国では、単騎で駆け回る姿、行動で王国騎士団に希望を与え、帝国との戦争の勝利の功労者として王より、呼び名をつけられる。
それが、『勇気ある最強の者』と、『勇者』と呼ばれるようになっていた。
一応、昔話は終了です。
戦争の話より、魔国での出来事みたいな感じになりましたが、戦争の話は今後改めて出したいので、後日にしました。
次回、王城の中からスタートします!




