王城にて昔話。〜勇者になる前のステイン〜
それから、勇者だなんだと騒がれて、暴動が起きそうだから避難しろ。ということで、何故か今、お城にいます!
展開早すぎない?マインが付いて来て顔を青くしてるけど?
マリンやケルピー達は平気な顔してます。
まあ、マリンは小さくても神だし、ケルピー達に至っては調停者。
はっきり言って王様より全然偉い。
そんなメンバーの妹であるシトリンも堂々と昼寝している。
「す、凄い部屋ね、ステイン?」
「王城は何処もこんな感じだぞ?来たことないのか?」
「あるわけないでしょ!?私はギルドの一職員でしかないもの!!」
「まあ、俺も久し振りに来たからな。来たくなかったけどな。」
「ステインは勇者時代にお呼ばれされていたものね!」
「ステイン兄ちゃん、勇者って何?」
「うむ、妾も聞いたことがないな。兄上、勇者とはなんなのです?」
「私も知らぬな。良い機会だ。たまには昔のステイン殿の話でも聞いてみたいな。」
皆んなに聞かれて当時の事を思い出す。
話すと長いんだけどな〜。
まあいいか。王城の客間に通されてからメイドさんしか来てないし、しばらくお待ちください。って言われてるし、暇だし。
「結構昔だからな。話すなら、最初からだろうな。」
寝ているマリンとシトリンを撫でながらゆっくり話し出す。
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俺の始まりは森の中だった。
気付いたらそこにいた。
名前も何も覚えていなかった俺はよく分かっていないまま森を彷徨っていた。
魔獣に襲われ、更に、盗賊におそわれ、始めの頃は逃げる事もあったけど、段々と魔獣の動きから魔力を覚え、盗賊達の中にいた気功使いの動きから気功を覚え、敵と認識したものを蹂躙し始めた。
そんな事を1年位してたかな?
森で暴れる小鬼を調査しに来た。という、当時まだ子供だった魔王に出会った。
魔王だと知ったのは後からなんだけど、なんせ魔王は見た目がな〜。
まあ、とにかく初めて会った時、アイツはこう言ったんだ。
「最近騒がれている小鬼とは小僧の事か?只の子供ではないか。」
「お前こそチビだろうが。」
「ち、チビだと!?貴様の方がチビだろうが!?」
「そうなのか?けど、お前もチビだろう。」
「き、貴様〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
という感じで、喧嘩になりまして、魔王と魔法合戦になりました。
魔王がまた手加減しないやつで、その時森が半分吹き飛んだんだよな〜。
で、その魔法をその場で覚えてやり返したら、また半分森がなくなったんだよねー。
魔王はやり返したらビックリしてたから、隙をついて、魔法をぶつけてやったんだ!
魔王が丈夫で何とか生きてたんだよ。
その後、目を覚ました魔王に「まままま、魔王の魔法をやり返すなよ!お前、魔王か!?」とか言われたんだっけ?
で、それから魔王に自分の状況を話したら魔国に来いと誘われて、お世話になったんだ。
当時、知識が全然なかった俺は、その時、魔王から「ステイン」と名付けられて、魔城の中にある図書館で本を読み漁っていたんだ。
しばらく魔城に世話になってたんだけど、図書館に篭りきりも良くないだろうと思って魔王に外に連れて行かれるようになった。
俺は一応人間だろうという事になっていた。見た目は人間だしな。ただ、何故あの森にいたのか、自分が何なのかはわかっていなかっただけだ。
魔国では、当時はまだ人間に良い印象を持っていない魔族も多かったし、その頃からフードを被って外に出る癖がついた。
それから少しずつ、知識を覚え、魔王の話を聞く時間が増えていった。
「お前、そんなチビなのに魔王だったの?」
「だから、チビって言うな!!気にしてるんだぞ!?仕方ないのだ。魔王になる魔族は何故か成長が止まるのだ。因みに我はもう30歳になる。お主こそ人間でいうと5、6歳にしか見えぬぞ?」
「そうなのか?俺はじゃあ、6歳にしとこうかな?」
「そうだな。我が名付けた『ステイン』の名前と6歳、人族という事でよかろう。だが、魔国であまり人間と言いふらすでないぞ?帝国との戦争のせいで人間を恨む魔族も多い。」
「わかった。気をつける。バレたら消せば良いか?」
「消すな!!」
「じゃあ、埋める?」
「埋めるな!!」
いつのまにか魔王との仲も軽口を言い合える位になっていた。
魔王が人間を匿っていると魔族にバレると面倒なため、基本、魔王の城からは出ていないし、一部の世話付きが俺の存在を知っていただけだった。
のんびりと1日1日を過ごしていた。
それから、魔王との生活が1年位過ぎ去った時、俺は魔国を巡る旅に出る事にした。
目的はあった。
「魔王、世話になったな。ありがとう!」
「主を止める事はせんが、たまには顔を見せに来るが良い。」
「おう!」
「まあ、主の強さなら魔獣にやられもせぬだろう。油断はするな。魔国内なら我の領域だが、人間にも良い奴と悪い奴がいる。魔族も同様だ。お主は人付き合いの経験がなさすぎる。」
「だから、それを知るために1人旅するんだろ?機会があったら人間の国にも行くつもりだ!」
「良い。お主は人間だからその方が住みやすかろう。だが、帝国には行ってくれるなよ?お主と敵対する羽目にはなりたくない。」
「魔王には世話になったから、そんな事するつもりは無いけど?」
「魔族や人を学べ。利用される事がある。という事があるのだ。お主の意思で無い行動は慎め。それだけの力は既にある。後は意思を強く持つのだ。旅をしていたらいづれわかる。」
「意思じゃない行動か・・・利用されない・・・」
「ほれ!長くなってしまう。行くが良い!お主の成長を楽しみにしている!」
魔王には本当に色々世話になったな。
俺が今の俺になる基礎は間違いなく魔国で培ったし、その環境をくれたのは魔王だ。
それから魔王の言う通り、俺の力を求める魔族や、人間嫌いの魔族に襲われて、撃退して、魔獣をぶっ飛ばして、何だかんだ修行しながら更に2年くらいフラフラしてた。
そんな時、『霊峰 天上山』の噂を聞く。
前人未到の巨大な山で、星に届くくらい高い山らしい。天上には神が住むと言い伝えられている。
という話を聞いて、9歳にして周りが嫌になりかけていた俺は、唯一の楽しみだった修行がてら霊峰に挑戦する事にした。
霊峰は当時の俺からしたらキツくてキツくて、半分くらいまでスイスイ登っていたけど、半分が過ぎと所からは、そこから先は過酷だった。
寒いかと思ったら暑く。静かだと思えば嵐になる。雨かと思えば乾く砂漠のような環境。
火竜の山なんか目じゃない位に環境の変化に激しい所だった。
魔獣も災害級を含め、古代竜や、精霊種などの咎落ち魔獣など、地上では一体でたら大騒ぎどころか、軍隊を差し向けるレベルの魔獣がゴロゴロいたんだ。
長くなるから、割愛すると、俺の修行場所だったエリアを抜け、頂上までは1年かけて登りきったんだ。
で、頂上にはヤマタノオロチが隠れていて、下界の監視を行っていたんだ。
お互いにやっぱり殴り合いの喧嘩になって、当時は引き分けになったけど、今にして思えばヤマタさんは手加減してたように思う。
霊峰を傷付けないようにしてたんじゃないかな?
身体は大きいけど優しい良い奴だったからな。
何だかんだで仲良くなって、ヤマタさんに頼んで頂上に居させてもらってたんだ。
で、1年位ヤマタさんと修行がてら霊峰に住み着いてたんだけど、急にヤマタさんに言われたんだ。
「ステインよ。いつまでいるつもりだ?」
「ん?いつまでって、修行が楽しいから考えてなかったけど?」
「お前は・・・。良いか?ここは人間には良くない場所だ。見てみろ、空を。」
「ああ、いつも紫がかった星空だもんな〜」
「此処は人間には未だ到達できぬ、言わば果ての地だ。昼夜の感覚が薄れ、下界の気配を感じ辛く、環境も人間が住む所ではない。」
「わかってるよ。ヤマタさんは調停者として、此処で人を監視できるけど、俺には無理なんだろ?」
「そうだ。我はこの巨大な体と、ドラゴン種の長として地上では目立ち過ぎる故、霊峰にいるのだ。此処は人間が来れる場所ではないから騒がれる事もなかろう。」
「修行には打って付けだよな!」
「馬鹿者!お主、前に言っておっただろ?人間を学ぶ旅をしていたと、魔族の国を回ったけど、息抜きに霊峰にチャレンジしたと。お前は修行が目的になっておる!」
「目的?」
「そうだ。お前の話に聞いた魔王とやらとの話を聞く限り、お前は人間の中で生きようとしていたはずだ。しかし、人間とは愚かな一面を持つ故、お前はそれが嫌になった。だから霊峰のような隔絶された場所は心地よいかもしれぬ。だが・・・ステインは人間であろう?」
「・・・何が言いたいんだ?」
「人の世界に戻れ。修行はもう良かろう?お主の力はかなり人間から離れておる。修行は充分だ。それより、人の世界で自分の場所を作れ。今のステインは力ばかり強くなって精神が追いついておらぬ。こればかりは自分で人との付き合いの中で覚えて、感じて、成長するしかない。人間とはそういうものだ。」
「・・・・」
「そして、いつか大きく成長したステインと我はまた逢いたい。ステインよ、成長してくるのだ。そして、我より強くなってまた会いに来てくれ。お前は我の唯一の友だからな。」
「友・・・そうか、友達・・・ヤマタさんは友達か。」
「ああ、友だと我は思っておる。友がいると良いぞ?自分が1人ではない事が力になる事もあるのだ。」
「まだ良くわからないけど、ヤマタさんの言うことなら間違いはないだろう。わかった。俺、また人間と暮らしてみる。」
「ああ!どうしても人間と合わない時はステインの暮らし易い場所を見つけて、自分で住処を作るが良い。」
「うん、頑張ってみる!!」
そして、俺はまた魔国へと戻ったんだ。
もう一度、魔国の領内を巡ってみようと思った。
そして、初めて人間の醜さを見たんだ。
それが、勇者と呼ばれる原因になった、帝国との戦争だった。




