上層への到達と前人未踏の領域とイレギュラー
予定通り、ステイン達は夕暮れ共に60層へと到達した。
60層は上層との境目であり、ここから上は踏破した者は未だかつていない事になっている。その原因が、サラマンダーと呼ばれる火蜥蜴や、フレイム・ワイバーン、さらに火竜などの超上級のモンスターであり、最強種の一角竜種のモンスター達と、フロアを埋め尽くすマグマの暑さに耐えきれないためである。
「こっから先はマグマのせいで暑いから無理は禁物だ。氷結マントがあるから大丈夫だと思うけど、マリンは辛くなったら言うように。シトリンは戦闘じゃなくマリンの様子を見ててくれ。時間をかけずに頂上まで登り切りたい。」
「うむ、酸素も薄くなってきているからな。マリン様は私が空気の層で覆っているが、シトリンは平気か?」
「はあ、はあ、だ、大丈夫です〜」
「すぴ〜〜〜。ん、んん〜〜〜?」
「お!マリンが起きたか!シトリン、今日はここまでだからゆっくり休め。良く頑張ったな!」
「ワフ〜〜〜〜!ありがとうございます!お父様!!」
シトリンを撫でてやり褒めてやると、嬉しそうに目を細め、尻尾をブンブン振っている。
「にゅ〜〜お腹空いた〜〜〜!」
「ふむ、マリン様は本当に良く寝て良く食べます。コレは火竜の山を攻略する頃にはまた成長されるかもしれぬな。」
「良く食べる子と、良く寝る子は育つってやつか?だったらご飯の準備頑張らないとな〜!」
「私も一杯食べて大きくなります!」
「心配せずともステイン殿と私の妹になったのだ。大きくなるだろうよ。」
マリンが起きると途端に賑やかになるステイン達は、しっかり食事と水分を取り、早目に休む。ダンジョン内でも結界とテントを使っているが、念のためステインはケルピーと一緒に見張りを兼ねて外で寝ていた。ステインとケルピーならば余程でなければ気配で気付けるが、マリンの言っていた正体不明の気配があるため、仮眠程度に収める。
そして、夜が明け、出発の準備をすると、いよいよ上層へと向かう。
「昨日言った通り、氷結マントを脱がないようにな?暑くてぶっ倒れるぞ!」
「はい!お父様、装備ありがとうございます!」
「はい!マント気持ちいいね〜♪」
「うむ、問題ないようだ。」
「では、本日の家族目標は火竜の山の攻略とヤマタノオロチに会うことだ!行くぞ!」
掛け声と共に上層へと向かう階段を登り始める。
登り切った所から辺りはマグマのせいで真っ赤な景色に変わる。ボコボコとマグマが音を立てる中、前方にサラマンダーが現れる。火の背びれに炎の鱗を纏っている。
「シトリン、サラマンダーは直接攻撃には向いていないが、実は気功を使うとパンチで倒せる。見てろ。」
言うや否やステインがサラマンダーに接近、気功を込めたパンチをサラマンダーの横っ腹に入れる。
ドカンッ!!!
殴られたサラマンダーは何も出来ずに壁に衝突し、気絶していた。
「す、凄い!」
「シトリン、魔法を使うならば炎に対し、本来なら風は不利なのだが、卓越した風使いならば、このように倒せる。」
シュオン!!
と音を立てて新たに現れたサラマンダーを切り捨てるケルピー。
「お、お兄様も凄い!」
「凄い!凄い凄い!!ステイン、私もした〜い!!」
驚愕するシトリンと派手なことが好きなマリンが騒ぎ出す。
「シトリンも直ぐにサラマンダーくらい一撃で倒せるようになるさ。マリンはもうちょっと大きくなったら戦い方を考えような。」
「うむ、マリン様は元より、シトリンも充分天才と言えるからな。慌てず兄達について来なさい。」
「分かりました!」
「わかった〜」
そこからは、サラマンダーを殴り、フレイム・ワイバーンを撃ち落とし、火竜を叩き落としながら進む。
「今のところ昔来た時と変わりはないようだが。」
「そういえば、ステイン殿は火竜の山を攻略した事があるのか?」
「いや、無いよ。霊峰を攻略しちゃってから山登りに飽きちゃってな〜。最上層までは行って引き返したんだよな。魔導カメラを置いて。」
「成る程な。霊峰に行ったならば火竜の山くらいではもの足りまい。霊峰は神級ダンジョンだったはずだからな。」
「ああ。正直ダンジョンボスの火竜もクリスタル・ドラゴン位の力だろ?霊峰なら中層レベルしかない。」
「霊峰ってなんですか?」
「山〜〜〜?」
「ああ、此処より3倍位の高さがあるんじゃないか?空間が捻じ曲がってて正確な高さはわからないけど。」
「ステイン殿はまさしく神の領域まで来ておるな。」
「霊峰であったヤマタさんに同じ様に言われたよ。」
「霊峰に隠れていたのか。ならばヤマタノオロチ殿は闘神様の調停者だろうな。私と違って闘いに優れている筈だ。」
「ああ!だから殴り飛ばせなかったのかな?普通に殴ったら吹っ飛ばなかったもんな〜。」
「殴ったのか!?」
いつも冷静なケルピーがステインの殴った宣言に驚きの声を上げる。
「ああ、効いてはいたけど耐えられた時は驚いたな。そこから3日位殴り合いして、当時は引き分けたんだよ。懐かしいな〜〜〜〜!」
「人外では済まぬぞ?ステイン殿・・・」
ケルピーの予想通り闘神の調停者と殴り合いをしたとすれば、それは人間とは思えなかった。
闘神の調停者、闘いに属する者である。その力は調停者の中でも群を抜いており、人間が戦うなど以ての外である。故に無駄な闘争を起こさぬ様、ヤマタノオロチは霊峰に篭り、闘争のバランスを崩さぬ様にしていた。それを、霊峰を攻略し殴り合いをするなど神も予想していなかっただろう。
「よっと!65層か・・・皆んな平気か?」
「大丈夫です!」
「すぴ〜〜〜〜」
「体力は大丈夫だ。精神的に疲れたが。」
皆んな平気そうにしている。ケルピーだけ疲れている様だが体力は問題ないらしい。
ステインの人外振りとメンバーの非常識な力で問題なく進む。このまま行けば昼過ぎには最上層に到達できる予定だったが、70層からいきなり様子が変わった。
「なんだこれは?以前来た時はこんなじゃなかった筈だ!!」
「お父様、変な匂いがします・・・」
「うにゅ〜〜〜〜〜!くちゃい!!」
「なんと言う光景だ!」
そこはマグマが溢れる光景は変わらないものの、マグマの色が変だった。異臭を放つ黒いヘドロの様なマグマが溢れていた。さらに奇妙な光景があった。ワイバーンやサラマンダー、更に他のモンスターも倒れ伏せていた。
「魔導カメラで見た時もこんな風景ではなかった筈だが・・・」
「ステイン殿、私が異臭を防ぐ浄化の結界を張るが、範囲が限定される。皆もあまり離れるな!」
「は、はい!お兄様!!」
「うにゅ〜!」
ケルピーの周りを囲む様に布陣を取り、ゆっくり進んでいく。70層が終わりと言う時にいきなりそれは起きた。
「ごギャグぎゃーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
聞いたことのない様な叫びが広がり、聞こえた方を振り向くステイン達!
「な、なんだあれは?」
「キマイラ?い、いや、なんだ!?」
「マリン!!絶対に離れちゃダメだよ!」
「う、うん!」
「キャルペパボーーーーーー!!!」
声にならない叫びを上げるモンスター。サラマンダーの様でもありワイバーンの形にも見える。更に人間の様にも見えていた。
「良くないな。子供に見せていいものではない。」
「ゾンビか?いや、また違う気配がある。」
「お、お父様どうしますか?」
「ううう〜〜〜」
このまま階段を登って逃げるのも手だが、追ってくるだろうな。とステインは思った。何故なら、この化け物はステインの方しか見ていないからだ。
(なんで俺を見ている?)
わからない事態が襲いくる中でステインは1つの決断をする。
「ケルピー、浄化の結界は長く持つか?」
「いや、流石に攻略の事を考えると戦闘しながらでは持つまい。」
「なら、ケルピーはシトリンとマリンを連れて先に行け。」
「「「!!!???」」」
3人が驚いた顔をしてステインを見る。ステインは冷静に声をかける。
「気づいているか?あいつ、俺の方に意識を向けている。逃げても追ってくるだろうし、この空間の空気は長居するのに向いていない。狙いが俺ならば受けて立つ。」
「しかし、ステイン殿にとっても此処の空気はよくあるまい!私が離れたら・・・」
「ああ、わかっている。アイツも恐らく弱くない。けど、俺は少しならこの空気は耐えれるけど、マリンとシトリンはキツイだろ?苦戦するかもしれないけど、負けるつもりは無いし、すぐに追いかける。」
「す、ステイン!!危ないよ!?い、一緒に行こ〜〜〜!?」
「お父様!私も残ります!」
「ダメだ!!最悪、ヤマタさんの所にお前たちだけでも急いで行くんだ!この調子じゃ何が起こるかわからん!!大丈夫だからヤマタノオロチを助けて来い!ヤマタノオロチは最強のドラゴンだ!動ければ助けになってくれる筈だからな。急げ!!」
「2人共行くぞ!ステイン殿を信じているならば此処は先に向かうのだ!!」
ケルピーがステインの想いを受け2人を連れて離れる。ステインは目の前の化け物から視線を外さず、結界を張る。ケルピーの浄化の結界程完璧に空気は遮断できないが、幾分マシになる。布を取り出し口元を覆う様にマスク代わりに結ぶと、目の前の化け物に言った。
「一体何が起こってどうなっているのか分からんが、俺の家族に手を出そうとするなら敵だ。言葉が通じるなら一度だけ言っておく。ぶっ飛ばされたくなかったら引っ込んでろ!!」
ステインの宣言と目の前の化け物が動き出すのは同時だった。
バトルに突入します!上手く描ける様に頑張ります!




