急ぐ者と待つ者と
「シトリン!気功の強化が甘いぞ!ちょうど良い強さを掴んだら、今度はキープしてみろ!」
「あう・・・は、はい!」
「マリン様、お尻は痛くありませんか?」
「大丈夫〜!ケルピー早いね〜」
既に30層を越え尚、走り続けるステイン達。
シトリンの訓練はステインが見本を見せつつ実戦で行われ、ケルピーはマリンを乗せて走っていた。
通常、火竜の山は中級冒険者から挑戦する上級ダンジョンで、30層と言えば、中級冒険者が来られるギリギリのラインである。更に冒険者はパーティーを組んで挑む。
それをほぼシトリンのみの戦闘でクリアしていく。
ダンジョンスターの出現率も段々増えてきて、シトリンも苦しくなって来たようだ。
「シトリン!キツくなってからが勝負だ!気功は直接的な身体の鍛錬がものを言う!魔法と違い、気の量は体力に依存する。頑張れ!!」
「うう・・・わ、わかりました〜〜〜!」
気功とは人間で言うと戦士系の魔力を扱えない者が使うモノであり、また、気功と魔法は扱える者と扱えない者がいる。魔法や気功が達者なら騎士や冒険者などになり、使えない者は農家や文官などとなっていく。
人種の差別は未だに消えない世の中だが、能力による差別は少なくなっていた。
「んん〜〜〜?」
「マリン様、どうしました?」
マリンが首を捻りながらうめき声をあげた。
「んん〜良く分からないけど、なんだろ〜?」
「ふむ、やはり何かあるのか?ステイン殿!マリン様が何か感じておられる!何かあるぞ!!」
「マリンが?・・・ダメだ。俺には何も感じ取れない・・・」
「私も感じられぬ!だが、忘れるな。マリン様は神だ!私達に感じられぬ何かを感じておられる!」
「そうだよな・・・。よし、シトリン!聞いていたか?」
「ワウ!!ウウウウ!!・・・はい!聞こえていました〜!!」
「ならば、用心して40層に着いたら休憩する!何か起こった時、ヘトヘトじゃ危ない!」
「うむ、そうだな。シトリン、もう少し頑張れるか?」
「は、はい!お父様、お兄様!私、いけます!!」
「んん〜〜〜〜?ステイン〜〜、上かな〜〜〜?」
「上?もしかして、上層で何か起きてるのか?ヤマタさんと関係があるのか・・・?」
「ヤマタノオロチ殿の気配ならば、マリン様は違和感なく感じるだろう。可能性としては魔人関係が高いと思われる!」
「行ってみないと分からないと言うことか。対策も何もしようがないしな・・・」
マリンは何かを感じている。ケルピーという調停者の事件があった為、魔人関係の可能性を疑うが、答えはわからない。マリンがもう少し成長していたら何かわかったかもしれないが、ステイン達では何も感じない以上、行ってみるしかないし、出来ることは体力の温存くらいだった。
急ぎ攻略する為に、ここから先はステインもある程度モンスターを蹴散らして行く。
「シトリン!半分受け持つ!遅れずに気功を使ってついて来いよ!!」
「は、はい!」
「マリン様、しばらくしっかりと捕まっていてください。」
「わかった〜!」
「『気功術 流水』!!」
「おお!お父様!なんですか?それ!?」
「気功の応用、『気功術 流水』だ。これは流れるように気を操り、滑らかな動きで最小限の戦闘を行うのに適しているオリジナル気功術だ!シトリンも頑張れば色々使えるようになるはずだぞ?」
「か、カッコイイ!お父様!カッコイイのです!!私も頑張ります!!」
「うう?ケルピー、ステインカッコイイ?」
「そうですな、ステイン殿のような人間は他にいますまい。カッコイイと思いますよ?」
「・・・よし!行くぞ!」
(((照れてる???)))
3人の気持ちが1つになった。
そこから、照れ隠しでステインがツッコミ、撃ち漏らしをシトリンが、後方から襲ってくる者はケルピーが魔法で撃ち倒し、繰り返す螺旋の山道と、階段を登りきり40層まで到着した。
ちょうどお昼ということもあって、ステイン達は休憩がてら食事を摂って休んでいた。
「シトリン、ココからは自由に戦っていいぞ。」
「え?でも気功の練習は良いのですか?」
「本当はもっと気功の練習をさせてやるつもりだったけど、マリンが異常を感じている以上、無理に戦うよりも得意なスタイルで余力を残して行く方がいい。何が起こるかわからないからな。」
「あう・・・残念です。」
「シトリンよ。練習は今回限りではない。聖域に帰ってからでもステイン殿に教えてもらうと良い。」
「そうだぞ?シトリンが習いたいなら戻ってからでもゆっくり教えてやる。今回は我慢してくれないか?」
「はい。分かりました。お父様、お兄様も帰ったら訓練お願いします!気功も魔法も強くなって皆んなの力になりたいのです!」
「すぴ〜〜〜」
お昼寝しているマリンを身体で包み込みながらシトリンは2人に頭を下げる。
「ケルピー、妹が弟子になった!俺、最強にする!!」
「ふむ、私も弟子などいた事がないのだが、シトリンならば存分に鍛えてやろう。」
「はい!よろしくお願いします!」
「うにゃ〜〜」
それから身体を充分に休め、先を進む。ここから先は上級冒険者がパーティを組んで足を踏み入れる領域となる。油断はできないが、ケルピーがマリンを乗せ、シトリンが遊撃に入り、ステインが特攻していく。
人外と超災害級の調停者と既に災害級を超えた成長をしているシトリンが突き進むのを止められるモンスターもトラップもなかった。その証拠に、
「すぴ〜〜。うにゅ〜〜〜。」
マリンはケルピーの上で幸せそうに寝ていたのだ。
その頃、最上層のマグマの中心でヤマタノオロチがステイン達を待っていた。ダンジョンボスの火竜が心配そうにヤマタノオロチを見ている。
「我が眷属よ。ステイン達はこちらに向かっているのだな?」
「グワッ!!」
「そうか。ここに来れば魔国か王国が騒ぎステインが我を見つけると思っていたぞ・・・我が知る中で最強であり最高の男ステイン。頼む、我が耐えている間に来てくれ!」
8本の首を震わせながら、かつての友ステインに思いを馳せ、マグマの中で何かを耐えるヤマタノオロチ。付き従う様に仕える火竜。そこに人影が近ずいて来た。
「ご苦労だな。調停者よ・・・」
「!!?」
「グワッ!?」
「警戒するな、私は戦うつもりは無い。様子を見に来ただけだ。」
「貴様は何者だ!?」
「グルるるるッ!!!」
黒い靄がかかって姿がはっきりしないが、人間の男の様だ。ヤマタノオロチと火竜の警戒した威圧を受け流している。
「私は今は何者でも無いが・・・そうだな、《器を待つ者》とでも言っておこうか。」
「《器》だと?まさか貴様は・・・!?」
「今の私は戦う力も無い。弱っている火竜と調停者でも倒せるかもしれんが、貴様達も今は戦う力はあるまいし、ここで戦えはしないだろう?」
「そうか・・・コレは貴様が!!」
「グワグワッ!!」
「まあ、様子見だ。ここで失礼するが、今向かっている者が来たらまた来るとしよう。」
スーッと影に消える人影。
ヤマタノオロチが何かを防ぎステイン達を待つ中、不気味な男が暗躍していた。
(ステインよ・・・彼奴は良くない!早く来てくれ!!)
神に願う様にステインを待つ。それしかできない自分を悔しく思うヤマタノオロチだった・・・
スピード感を出そうとすると、戦闘描写が少ない方がいいのかと思いましたが、あっさりしすぎている気がしています。通常、外にいるのを魔獣、ダンジョンにいるものをモンスターとしています。
魔獣=野生動物の様に縄張りを持ち、必要以上に襲わない。
モンスター=本能のままダンジョン侵入者に襲いかかる。
という設定です。




