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ヤマタノオロチからの伝言と攻略の始まり。

「グル・・・」


バサッバサッとステイン達の目の前に降り立つ火竜。通常の個体が30メートル位だとすれば、2倍近く大きな竜だった。ステインとケルピーが警戒し、シトリンがマリンを守るように背中に乗せている。マリンは巨大な火竜を見て興奮していた。


「す、ステイン!!お、おっきな大きなトカゲさん!!」

「ケルピー・・・ウチの妹が大物すぎる。」

「流石マリン様。器がでかい。」

「マリン!大人しくしないと危ないよ!?」

「グワ?」


はしゃぐマリンを見て、火竜が変な鳴き声をあげる。


「ケルピー、この大きさはダンジョンボスクラスだよな?」

「感じる力はダンジョンボスであろうな。」

「グワ!」

「お父様!その通りと言っています!」

「シトリンわかるのか?」

「はい!私はわかります。火竜よ、貴方は何しに私達の前に来たのです!」

「グルグル、グワグルグル、グア、グワ!!」


シトリンが聞くと、途端に鳴き声をあげ、なにかを訴えている火竜。警戒を解き、火竜の話が終わるのを待つ。シトリンが通訳を行う。


「えっと、お父様、お兄様。どうやら、頂上にいるヤマタノオロチ様からの伝言らしいのです。『ステインよ、浄化の調停者と来てくれて感謝する。私は此処から今は動けぬ。話がしたい。急ぎ頂上まで来てくれ。ダンジョンボスの火竜を行かせるが、今の火竜は力が弱っている。自力で攻略をしてくれ。』と言っています!」

「ヤマタさんの伝言役か。気配が大きいなりに力をあまり感じないのはどうしてだ?」

「ふむ、それも含めて攻略し、話を聞きに行くしかあるまい。」

「グワ!」

「頼んだ!と言ってます!」

「ステイン、私、お腹すいた〜」


バサッと火竜が飛び立つ中、マイペースなマリンに若干教育を頑張ろうと思いながら、先に食事の準備を進める。串焼き肉と野菜のスープ。パンを用意して食べ始める。妹達はバクバク食べているが、ステインとケルピーの年長組は食べながら話をしていた。


「何かが起こっているのは間違いなさそうだな。」

「ああ。使いを出す程余裕がないのか、それとも魔人の影響かだと思うが・・・」

「余計、気を抜けなくなったか・・・」

「効率重視で少しでも早く攻略するべきかもしれんな。」

「シトリンの訓練も考えていたが・・・。パーティを分けるか?」

「ふむ、我らならそれも大丈夫だが、どうやら私とステイン殿が行く必要がある以上、パーティわけが上手くなかろう。」

「そうだよな〜、ココらでシトリンを鍛えたかったけど、今回はスピード重視で進むか。3日見てたが、2日で登り切ろう。」

「うむ、余力を残しておく必要があるだろうしな。それが良かろう。」

「よし、シトリン!マリン!明日は早目に出発するからご飯を食べたら早目に寝なさい。シトリン、道中の戦いはなるべく任せるけど時間をかけ過ぎないように。」

「は〜〜い!」

「分かりました、お父様!」


改めて結界の魔法を使い、侵入者が出ないようにテントや毛布を出して中で休ませる。ステインとケルピーで外に寝床を簡単に用意して身を寄せ会うようにして休んだ。

そして、次の日、早目に起床し、食事を済ませて、火竜の山の入り口に向かう。


火竜の山はまず、山道を登り、しばらく進むと門がある。門の中に入ると、洞窟のような作りになっており、道なりに進むと階段がある。階段を上ると、今度は広めの通路が広がっていた。この段階からダンジョンの攻略ははじまる。


「広いけど、暗いね〜?」

「ステイン殿、私が光を出しておこう。」

「ああ、ありがとう。魔力がキツくなったら言ってくれ、交代しよう。」

「お父様?私はどうすれば良いですか?」


ケルピーが光を確保して、ステインがマリンを抱えていた。シトリンは火竜の山のダンジョンが初めてなため、どうすれば良いかを確認する。ステインはマリンを抱えたままシトリンに言う。


「シトリンは今回、戦いを任せる。ココからは気功のみで戦いなさい。時間はあまりないが、練習しておいて損はないからな。危なくなったら、俺かケルピーがフォローするからな?」

「気功・・・お父様、教えてくれるのですか?」

「勿論だ!マリンもシトリンを応援するよな〜?」

「はい!シトちゃん、頑張って〜?」

「!!」


プルプルと体を震わせてキラキラと目を輝かせるシトリン。1つ遠吠えをあげると高らかに宣言する。


「お父様!妹に格好いいところを見せるのです。指導お願いします!!!」

「うむ、良かろう。シトリン、厳しいがついて来いよ!」


テンションが上がるステインとシトリンにつられてマリンまで手を振り上げ騒ぎ始める。ケルピーがやれやれと見つめていると、騒ぎを聞きつけた、ダンジョンモンスターが近づいていた。ギランッと視線を向けるステインとシトリン。


「シトリン、気功は纏えるな?」

「はい。纏うだけならば!」

「では、今回の目標を伝える。」

「はい!」


ケルピーが蹄を鳴らし、ステインが軽く足踏みし、シトリンが唸る。

ステインがゆっくり皆んなを見渡し、モンスターが目の前に来ると同時に高らかに宣言する!


「今日の家族目標は火竜の山の攻略60階!ケルピーはフォロー!シトリンはいいと言うまで気功を使い続けろ!行くぞ!!」


シトリンがダンジョンモンスターを引き裂き、ステインとケルピーが後に続く。

火竜の山のダンジョンは構造は単純で山を螺旋状に登るようにできている。階層毎にモンスターが強くなっていき、ダンジョン後半では火竜やサラマンダーなど火属性のモンスターが出てくる上に、マグマなどの地形が現れ暑さにより攻略を妨げてくる。全80階層の大型ダンジョンである。ステインが言った60階層は丁度マグマ地形との境の階層であり、そこまでのダンジョンモンスターは中級レベルのみである。気功での身体強化という指定付きだが、そこまで行くのならシトリンで充分だろう。


変化の少ない下層部分を通過しながら、ステインはシトリンに指示を飛ばす。


「シトリン!そんな全力で気功を出すな!今日1日持たせる為に強弱をつけろ!」

「はい!・・・む、難しい・・・」

「シトちゃん頑張れ〜!」

「魔力もそうだったが、災害級故に潜在能力が高すぎるようだな。」


森を走るよりはゆっくり走っているが、それでも高速で進んでいくステイン達。次々とモンスターを蹴散らしながら進んでいる。トラップなどの妨害装置はケルピーが風や雷で破壊していた。


「シトリン!今日は訓練だから失敗してもいい。ちゃんと見てるから頑張るんだ!いいか?攻撃する瞬間だけ、なるべく出力を上げるんだ!」

「あう・・・。ココ!!・・・うう!」


ああでもないこうでもない、シトリンは試行錯誤しながら、気功を使っている。ステインは正しく気功の達人である。気功のみで上級の魔獣を倒せる事もそうだが、通常では不可能と言われている気功と魔法の併用。同時発動を可能にしている要因の1つが精密なコントロールにあると考えている。常人が同時発動をしようとすると、魔力と気が反発し合い、大ダメージが反動として返ってくる。しかし、ハイ・フェンリルからマザー・フェンリルに進化し、通常あり得ない言語化、気功などの能力を得たシトリンならば成長すれば使えるようになるのでは?とステインは思っていた。その為、気功のコントロールを徹底的に教えるつもりだった。


「気功になれるんだ!もっと自分の身体の一部、手や足を動かすように!練習あるのみだ!」

「シトちゃん、頑張れ〜頑張れ〜〜〜!」

「シトリン、すぐに出来ることではない。焦らずやりなさい。」

「皆んな・・・うう、ハイ!私、頑張ります!!」


気功で強化された爪で迫り来るモンスターを引き裂きながら元気を出して進むシトリンを、時に注意し、指導して、それ以上に応援しながら進む。

当たり前だが、ステイン達はこの先に何が待っているか気づきようもなかった。

頂上で待つヤマタノオロチ。

その場で、何が待っているのか?


「あう〜〜〜?」

「?どうしたマリン?」

「マリン様?」

「えい!!ん?何かあったマリン?」


マリンだけが、浄化の女神としてなのか、不穏な空気を感じていた。


ただ、


小さな子供の女神にはそれを説明することが出来ないまま、ダンジョンを進むしかなかったのだ。


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