敵ばかりじゃない。そして、マインの想い。
ギルドを出て、王都内の出店で買い食いをしたステイン達は、いよいよ火竜の山に向かおうとしていた。装備の確認と食料を買い込み出国手続きを終えて王都の外に出る。と、騎士が3人待ち構えていた。
「ステイン殿と見受けるが違いありませんか?」
先頭の一際目立つ鎧を着た男が尋ねてくる。
「そうだが?何か用か?」
若干警戒を示すシトリンと意に介さないケルピー。眠そうにするマリンと多種多様なリアクションを示す。
「王国騎士団第1部隊隊長のガイムと申します。出発前にお会いできて良かった。今回は第3騎士団の元隊長が失礼した謝罪に参りました。申し訳ございません。」
頭を下げる騎士達を不思議そうにステインは見た。そしてケルピーは感心したように頷き、
「人間はこのような裏表を感じぬ者もいる。だから見捨てられぬよな。」
と、言った。ケルピーは浄化の調停者として、人の善悪に敏感であり、目の前の男の清浄さに感心した。聞いたシトリンは警戒を解き、
「兄上が仰るなら大丈夫ですね!」
と警戒を解いた。更に眠そうなマリンは、大きくなったシトリンの上で寝てしまったのだ。
「まあ、王国や騎士団と敵対するつもりはない。謝罪を受け取る。だが、王から俺は、不干渉と自由を保障されている事を徹底しては欲しい。アンタのような真っ直ぐな奴はぶっ飛ばしたくないからな!」
「ステイン殿・・・感謝します。」
もう一度頭を下げるガイム。
「しかし、騎士団のお偉いさんが頭を下げて大丈夫か?俺、後ろにいる2人に恨まれたりしない?」
「大丈夫です!私達はステイン殿の戦いを見た事がありますし、帝国との戦で助けられたので、ステイン殿のことは知っています。」
「そうです!ステイン殿を尊敬しても敵対などととんでもない!第3騎士団の隊長は即刻、王に首にされました!」
「この2人と私はステイン殿に助けられたことのある仲間なのです。他にも大勢の仲間が貴方に助けられた事があります。感謝と尊敬を!」
「そっか、なら良かった。ひょっとして火竜の山に同行するのはガイムだったのか?」
「はい、本来なら私が王の名代を務めるつもりだったのですが、あの元隊長が横槍を入れまして。たまたまギルドマスターのオウル殿が王と会談してるのを聞いていたらしく、ステイン殿が火竜の山に行くと通信が入ったのを聞いて、あのような事態に・・・」
「あの者は貴族出身で平民出身のガイム様を見下していたんです!実力は伴わないのに、横槍を入れて王の名代は自分が相応しいなどと!」
「今回の件は良い薬になったでしょう。」
ガイムと騎士が言うにはあのカメレオンは、たまたまステインがギルドカードの通信をした時に、たまたま側にいて、平民のステインと、平民のガイムが王の名代として任務に出るのが面白くなく、勝手に行動を起こしたみたいだ。ガイムがステインと同行するのを嬉しそうに話していたところ、更に王の名代と聞いて、自分が行くのが相応しい。平民に任せておけるか!勇者など眉唾物だ粛清してくれる!と騒ぎギルドでの騒動となったらしい。
「カメレオンは馬鹿ということです!」
「カメレオン・・・ブフッ!!」
ステイン達が元隊長をカメレオンと呼ぶのを聞いて騎士が笑う。気の良い人達だ。と素直にステインは感じた。ふと、こんなに感情が動く自分を不思議に思うステイン。自分もこんなに素直に感情が動く者だったのか?不思議に思っていると、ガイム達は去っていき、代わりに1人近ずく者がいた。
「ステイン・・・」
「マインか?」
普段、ステインはマインを姉のように呼んでいた。これは姉と思ってのことではなく。なんとなく言われたからそうしていただけだった。ステインはマインを嫌そうに見る。
「どうした?こんな所に?王都の外までギルドの騒動の文句でも言いに来たか?言っておくが手は出してないぞ。」
「わかってる。今日は非番だったけど、マスターから通信で知らせてもらったから。」
「ふむ、ステイン殿。私達は先に向かっておる。この娘としばし話してくるが良い。」
ケルピーがマインの様子を見てステインにちゃんと話すように言う。ステインはまったく興味を示していないが、ケルピーから見ればマインは何処か思い詰めたように見えた。
「面倒なんだが?」
「マリン様とシトリンは私が守る。ゆっくり進んでおく故、良いから話をしてやれ。」
「お父様!私がマリンを守るので、ごゆっくり。」
ケルピーを擁護するようにシトリンに言われ、渋々頷く。ステインが一応話をする素振りを見せるとケルピーとシトリンはマリンを連れてゆっくり離れて行く。待っていたかのようにマインが話し始めた。
「また不思議な子達を連れているわね・・・」
「説明は面倒だからマスターに聞けば良い。それより話はなんだ?急いで追いかけたいから手短にしろ。」
「ステイン・・・」
マインはここまで冷たい対応をするステインは初めてだった。いつもステインは何だかんだ自分を姉と呼び、嫌そうにしながらも未だ優しさが残っている気がしていた。そして、ステインが自分の事をもう只の人としてしか見ていないことも感じていた。
「この間、ウチの家で詰め寄ろうとした事・・・お母さんとお父さんが止めたけど、きっとステインにとっては踏み込んではいけない所を越えた行動だったんだと思う。あの後、お母さんお父さんにそう言われた。」
「・・・・」
「私達からしたら、私からしたら身内として当たり前かと思ったけど・・・ギルドの壁を破壊、人を殴り飛ばしたって聞いて、注意しなきゃって、暴力を振るうな!って注意を・・・」
「勝手にすれば良い。俺の知った事ではない。」
「本当にそう思っているんだよね。ステインは。」
「俺は面倒は嫌いだ。と伝えていたはずだ。」
「そうなんだよね・・・だからお母さんお父さんはあの日私に言ったんだ。いつまで姉のつもりなのか?って。」
「マインも気づいてたはずだろ。」
「そう、ステインが私を姉と呼ぼうとも姉とは思っていないって知ってたはずなんだ・・・なのに私は姉の様に家族のようにって思って・・・一方的に押し付けたんだよね。私は・・・」
「普通に言われる分には何も言わない。あの日は俺の家族が泣かされたんだ。マリンが泣いたんだ。泣かせた奴を許す事は出来ないし、そのつもりもない。」
「そう、私とは違う。ステインはマリンちゃんを本当に家族と思っていたんだ。その家族を守ろうとしたんだ。私はそれを否定してしまった!だから私はもう、ステインの姉じゃ無くなったんだ・・・」
「わかっているなら良い。だが、何故わかっていながら来た?」
「私は自分が納得する為に来たの。ステインがどう思おうが構わない。けど、私の為に謝りに来たの。」
「いらん。謝罪など・・・」
「姉になれなくてごめんなさい!」
「!!?」
ステインはその言葉に初めて今日、マインを見た。
「ステインは何も言わなかったけど、ウチにいた時もいつも1人で姿を消すし、一緒にいたけど別の所をいつも見ていた!けど、ステインがウチに帰ってくるのが私は嬉しくて、弟になって欲しくて、家族でいる事を強要してた!全部、私は、最初から間違いだらけ・・・ステインはそんな家族じゃなくて、自然と家族と思える人達といたかったんだ。あの子達といるステインは楽しそうだったから・・・」
目に涙を溜め、自分の想いを話すマイン。ちょっと前のステインなら、これでも心は冷めていただろう。本当に少ない時間でステインは変わっていた。マインの話を聞いていた。聞かなくても構わない話を、やらなくて良い行動を、ステインは何故か聞いていた。その自分を不思議に思いながら、マリン、ケルピー、シトリンの顔が浮かぶ。家族と自然にいえる、仲間であり、兄妹であり、家族になっていた。時間じゃなく、魂で感じた家族だった。
「私は・・・私・・・ちゃん、と!ステインの家族になれなかった!!ごめんねステイン!ごめんなさい・・・」
「・・・」
我慢していたであろう涙を流しながらマインが謝っている。ステインはじっと見ていた。ステインはマリン、家族を守る為にあの日冒険者を殴った。理由はそれだけだ。その家族を守る行動を否定しようとしたマインを自分の中から排除してしまった。しかし、自分がそうであるように、マインもステインを家族と思い、自分の力でステインを守りたかっただけでは?と思ったのだ。その気持ちが今はステインにも良くわかったのだ。
「マインはもう家族じゃない。」
「!!・・・そう、だよね・・・」
項垂れるマインにさらに言う。
「けど、家族と思える奴らといるから気持ちはわかった気がする。不思議だけど今ならマインの気持ちが分かりはすると思う。」
「ステイン?」
「けど、マインはもう家族じゃない。俺はきっと・・・」
ステインは改めてケルピー、マリン、シトリンを思い浮かべる。そして、ゆっくりマインに伝える。
「俺はきっと、自分で自分の家族を見つけたかったのかもしれない。だから、マインはもう姉とは呼ばない。マインはマインだ。それで良いんじゃないか?」
「!?私は私・・・?」
「そうだ。姉と呼べなくなっても、家族じゃなくても、知り合いとして、昔馴染みとして普通にすれば良い。呼び名が変わっただけじゃないか?俺はマインを嫌ってはいない。」
「ステイン・・・」
ステインが許すとは思っていなかった。ステインは一度自分の枠から外した者や事は2度として見ようとしない。けど、今ステインはマインをマインとして受け入れていた。信じられない気持ちと嬉しさがマインの心に溢れた。恋愛とは違う、まさしく家族や友人として愛おしい気持ちが溢れた。涙を拭いながらステインに言葉をかける。
「わ、私がした事は、間違い、だらけ、だったから!ステイン、か、帰って来たら!また!!」
泣きながら、涙を堪えながら話す。この想いを、気持ちが届くようにと。叫ぶように言う。
「ああ、そうだな。それならマリンの服でも選んでやってくれ。俺は女の子の趣味はわからない。それで良い。」
「わかった、グスッ!!か、可愛いの選ぶ!!ビックリするくらい!可愛くしてあげるから!!う、うえ〜!!!」
「任せた。あんまり泣くな。涙を拭いて帰りを待っててくれ。」
ちょっと罰が悪そうにマインの頭に手を置き、最近マリンやシトリンにする様に撫でてやる。すると、今日初めてまがちょっと笑った。
「クスッ・・・ステイン、変わったね・・・少し、優しくなった。」
「・・・家族のおかげだ。俺だって不思議な気分なんだ。」
お互いに笑い合うステインとマイン。お互いが過ごした時間が思い浮かび、もっと違った時間もあったのでは?とステインは思った。けれど、昔の自分には分からない、いや、今もわかってはいないのだろう。それを、俺は考えていこう。と思った。
「じゃあ、俺は行ってくる。またな、マイン。」
「うん、行ってらっしゃい!気をつけて!!」
目一杯手を振りながら見送るマインの視線を感じながらステインは家族を追いかけ始めた。
マイン視点を入れたかったですが、タイミングがなかったので、ここでマインの気持ちとステインとの関係を少しでも入れたかったんです。
機会があれば書いてみたいですが、今は物語を進めようと思います。
ご覧いただきありがとうございます。




