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瘴気と泣き顔は見たくない!

馬の様な調停者をぶっ飛ばして、マリンを連れてぶっ飛んだ地点に向かう。


女神曰く、調停者になんらかの魔人の力が関わっているらしい。魔人が関わっているという事は、神であるマリンを狙って来たのかもしれない為、危険度を考えマリンを連れて行くことにした。


調停者は、グッタリと倒れていた。意識は無いように見える。だが、どんな生き物も油断した時が一番危ないし、マリンを連れている以上、調停者の異常が解消されるまで、警戒を解く事はしない。


ゆっくりと近づき様子を見ようとした時だった。調停者を赤黒い霧みたいなものが包み込み、灰色だった馬が赤黒く染まっていった!


近くにいては危険だ!と考えて後ろに飛び下がった。所に、いきなり気配が現れたのだ!


ドンッ!!!


「がふっ!!?」


横腹に痛みが走る!何かが俺の身体を貫いていた。


「痛い、だろうがーーーーーー!!!!」


後ろに蹴りを入れると、手応えがあった!ズルッと腹に刺さっていたものが抜ける。


「グル・・・グワアアアアアアア!!!!」

「!!!」


そのタイミングで馬の方が立ち上がり咆哮を上げた!


「・・・赤黒い馬になってるんですが?」


マリンを抱えて、この状況はマズイ!結果的に敵は二体いたのだ!!マリンを1人残して来なかったのは正解だったが、マリンを抱えながらじゃ全力で戦えないし、今更マリンを放り投げる訳にもいかない。


「『メガヒール』。」


回復の魔法で傷を治す。どうする?敵を殺さず、マリンを守りつつ二体を抑える。難易度高くないか?となれば、やる事は1つ!!


俺の腹を刺した何かが起き上がる。

同じく赤黒い霧を纏った狼?みたいな奴だった。


「ハイ・フェンリルか?あんな色は見た事ないが・・・普通じゃないな。」


調停者を超災害級だとすれば、ハイ・フェンリルは災害級とランクは落ちるが、ハイ・フェンリルは普通のフェンリルと違い、額に角がある。魔力を角に集め、最大威力の武器になる角だ。普通の状態なら俺に探知されず攻撃を喰らわせるなんて事はあり得ない。


「あり得ないことが起こっている。という事は、ピンチって事だよなあ!!!!?」


叫ぶと同時に、地面を蹴り、世界樹に向かって走り出す!


「う、ううわああん!!!」

「マリン!!済まないが緊急事態だ!!風除けを出す余裕がないから我慢してくれ!!」


走り出す衝撃と突風でマリンが起きた。先程までは魔法で結界と防音をかけていたが、今は全力で下がる為、身体の強化と二体の敵への警戒に集中しているためそこまで余裕がなかった!


「ガウッ!!!」


正面に突如現れるハイ・フェンリル。

なんだ!?転移だと!?これも魔人の力か!!


「ガーワウ!!!」

「グウワ!!!」


ハイ・フェンリルの角に魔力が溜まる。更に、後ろから馬が魔力を放ってくる!!


「うわああああん!!うぐ、うぐ!!!」

「ちっ!!マリン!!もうちょっと揺れるぞ!!!?」


正面に踏み込み、左腕にマリンを抱え込む。同時に右腕に魔力を溜めながら、ハイ・フェンリルの頭上を飛び越える!


「ウウウ、ガウ!!!」

「グワア!!!」


飛んだ俺目掛けて、ハイ・フェンリルの突撃と、馬の魔法が襲いかかる。


「本能しか残っていない様だな!!行動が単純なんだよ!!!」


右腕に溜めていた魔力を虚空に放ち、空中で加速、回避と同時に世界樹に向かって大きく飛び上がった!


「うぐ、うぐ・・・うきゃああああ〜〜〜〜〜〜♪」

「おお、ちょっと機嫌が直ったかマリン?」


結構危機的状況だったんだが、飛び上がった瞬間マリンが声をあげて喜んだ!アクロバットな行動がお気に入りか?




転がる様に聖域に降り立つと同時に女神が語り掛けてくる。


《ステイン!!大丈夫か!?》

「おう、なんとかな。マリン、ちょっと世界樹で待っててくれるか?」

「あい!」


世界樹の根元にマリンを下ろし、女神に頼む。


「いい子にしてろよマリン。すぐ終わる。女神様、何かあれば知らせてくれ。」

《承知した。ステイン、来るぞ!!》


赤黒い霧を濃くしながら二体の猛獣が姿を現した。


《聖域の結界は負のエネルギーに反応して遮る。それを突破してくるとはな。》

「さっき、腹を刺された仕返しと、その赤黒い霧、マリンの身体に悪そうだからな。まとめてぶっ飛ばしてやるよ!!!」


トントンとその場で軽く飛んで、意識を戦闘に集中する。


《ステイン。『神眼』で確認した。二体ともに身体の中に何か埋め込まれておる!ちょうど心臓の位置じゃ!!深くはない故、貫かぬ様に砕いてしまえ!!!》

「了解した。行くぞ!!」

《酷い事を・・・ステイン、助けてやってくれ・・・》

「しゅ、ステイン・・・おねがしましゅ。」

「・・・」


女神とマリンが泣きそうな声で頼んでくる。人の身である俺には見えないものが見えているのだろう。

俺は、面倒くさい事が嫌いだ。

俺がやらなくていい事、大丈夫な事はやらない。

俺の力を当てにする奴には手を貸さない。

俺の意思を無視した依頼、勧誘、圧力はぶっ飛ばす!!!

けど、俺は・・・俺はな!!!!


「俺は!!!誰かが泣いてるのが一番嫌いなんだよ!!!!!」

「ガーーーーーーーーーっ!!!!」

「グーーーーーーーーーワア!!!!」


俺と同時に赤黒い霧からも咆哮が上がる!!


「もう終わりにするぞ!!『気功術 光牙』!!『マテリアル・ブースター』!!!」


叫ぶと同時に赤黒い霧に飛び込み、二体を捕捉する。


「『纏い奥義 穿光滅牙せんこうめつが』!!!!」


俺の速さに追いついていない二体の胸付近を強化した腕で貫く!!同時に、纏っていた気孔を解放!!


「爆!!!!」


ドンッッッッ!!!


「「ガアアアアアアアアア!!!!!!」」


二体が雄叫びを上げながら崩れ落ちる。

『纏い奥義 穿光滅牙』、気功術 光牙こうがによって、極限の突貫能力を得て、魔法マテリアル・ブースターによって極限の身体強化を施す。光の如きスピードで飛び込み、貫き通す奥義で、纏った強力な気孔をステインの「爆」の声で爆発させる。内外から対象を破壊する奥義である。

これによって文字通り一瞬で2体とも倒してしまったのだ。


「はあ、はあ、さ、流石に疲れた〜〜〜〜〜〜!!!」

《ステイン!!!見事じゃ!!ほんとにお前は凄い人間じゃ〜〜〜!!》

「しゅていん・・・ステイン!!しゅごい、しゅごい!!」


トコトコとマリンが近ずいてくる。女神が何も言わないという事は終わったという事だろう。


「は〜〜〜〜・・・、さて、女神様、コイツらどうする?」


赤黒い霧は霧散して今は見当たらない。現れたのは金色の狼と白銀の馬だ。傷をおっている為、治療が必要なのだが・・・


「これは・・・そのまま治療する訳にもいかないな。」

《うむ、魔人の気に充てられすぎておる。このまま治療しては魔人の瘴気に侵された部分が残ってしまう。そうなれば助けたとて長くは持つまい・・・》

「あい・・・」


悲しそうに女神が、マリンが言葉を話す。俺は万能ではない。治療は出来ても、解毒は出来ても、神と等しい能力を持つ魔人の瘴気を取り除く術は流石に持っていない。


「・・・すまない。俺には手が無い・・・」


狼と、馬に近ずいて撫でながら謝る。俺が助けられなかった命・・・悔しさがこみ上げる。人外だ勇者だ魔王だと言われても、たった1つの魔人の力に手が出せない。それが、堪らなく悔しくて・・・


「あい、あい〜〜〜〜〜!!!」


マリンがいつのまにか隣まで来て馬と狼を見ている。そっと小さな手を伸ばすと、


「あ〜〜〜〜〜〜〜い!!!!」


大きな声をあげたマリン。同時に伸ばした手のひらが虹色に輝く!馬と狼を包み込んでしまった!


《な、なんと!!これは・・・!?》

「まさか・・・!?」


光が消えると、残っていたのは、馬と狼とまとまる様に幸せそうな顔で寝ているマリンがいたのだ。

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