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第七十二話 国崎VS鳳上

(威勢のいいこと言ったけど、どうしようかしら)


 天川と一ノ瀬から離れた二人であったが、その戦況はあまり変わっていなかった。制空権を完全にとられている以上、鳳上の方が圧倒的に有利。熱線アポロンゲイザーをギリギリで避けてはいるが、どうしたものかと思考を巡らせていた。


(こっちの手はあくまで近接戦闘のみ、対してあっちは制空権に高火力の遠距離持ち)


 再度、自分と鳳上の持つ手札を頭に並べてみると笑ってしまうほど差がある。こっちは上位クラスとはいえ最下位のCクラス。対して、相手の鳳上は最上位クラスのツートップ。しかも、周りの教師の話によると例年であれば主席間違いないの実力を持っているらしい。


「いい加減諦めてくださいませんか、時間の無駄なので」

「はぁ?」


 唐突に弾幕が止み、鳳上が話しかけてきた。


(何言ってるのコイツ? こっちとしては休憩できる分好都合だけど)


 小さく息を吐き、疲れを気取られないようにしながら国崎は立ち止まる。


「あなたCクラスの次席でしょう? ここまで生き残っただけでも十分でしょう。私にも、主席を取り戻す目的があるんですわ。あなたのような雑魚相手に時間をとられている暇はないんですのよ」


 うんざりしたような、それでいてその先の目的に向かって強く意思を持っているような言葉であった。だが、それは同時に国崎に対して”どうあがいても勝てないのだから痛い思いをする前に降参しろ”と言っているに等しい。

 そして、それは。


「へぇ、随分と私を低く見てるじゃない」

「それはそうでしょう。合同演習でも私たちAクラスに勝ったこと一度もないようなところなど、どうしてそこまで気に掛ける必要が?」

「それを舐めてるっていうのよ!!」

「ッ! ……上位クラスのドベが」


 久崎にとって怒髪天を衝かれたようなものだ。

 一瞬、こめかみのあたりに無意識に力が入り表情が歪んだ彼女は、足元の小石を小さく蹴り上げると剣の腹でそれを打ち出した。それは鳳上の頬に当たりはしたが、アルマが作る力場で守られている彼女には傷一つない。だが、


「あら、やっとこっち見たわね」

「あなたも分かってるでしょう。今年Aクラスに他の人達が勝てるわけないって」


 挑発とばかりのその行為は鳳上の激情を煽り、逆に国崎の頭に登った血を冷ます。そして、わなわなと両腕に力を籠める鳳上にもう一言、


「それと、他の人がかなわないって割にどこかで闘ってきたのかしら。半身にダメージ残ってるでしょ」

「う、るさいなぁ!!! 機械仕掛けの戦乙女(デウエスヴァルキリー)! 完全開放!!」


 その言葉で完全に鳳上の堪忍袋の緒は切れた。機械仕掛けの戦乙女(デウエスヴァルキリー)を最大出力で発現しビーム出力口となるピットを四機出現させ、熱線アポロンゲイザーをチャージする。これまでの温存を考えるのではなく、目の前の敵を焼き尽くすのを目的とした攻撃。


(何だか想像以上に怒らせたちゃったみたいね。でも、こっちの方が闘いやすい!)


 国崎はアルマ戦の扱いに関しては鳳上よりは劣る。だが、武術の家に生まれた彼女は戦闘においては十分な経験を持ち、激情に駆られてしまえば動きが鈍ることを十全に知っている。


(こっちも温存とか考えてたら一瞬でやられる!)

音速の戦乙女ラディカルヴァルキリー!!!」


 それでも鳳上の弾幕の密度はそれまでとレベルが違う。これまでのように体裁きだけで避けるには、そもそものスピードが足りない。それを補うために、国崎も能力スキルを発動する。体、特に脚部のアルマを再構築した彼女は、爆発的な加速を持って熱線アポロンゲイザーの連打を避けていく。


「チッ……」


 これまでとは段階の上がった速度になかなか熱線アポロンゲイザーを当てられず舌打ちをする鳳上。それならと彼女は冷静に狙いを定めなおす。発射スピードに任せてただ狙うのではない、四機のピットからの熱線アポロンゲイザーは国崎の逃げ道を誘導するように照射していき、右腕からの一撃を当てる。

 

「うっっっ……でぃやぁぁ!!!」


 国崎は体に直撃する熱線アポロンゲイザーをなんとか剣で受ける。ただのサブアルマとしての剣なら、すぐにでも原型をとどめず防御も成り立たないであろう一撃。音速の戦乙女ラディカルヴァルキリーで強化されていなければ、数舜のうちに消し炭になっていただろう。


(森の中にっ!? だが、今なら木ごと焼き払う!)


 鳳上は今までのアルマ演習では、熱線アポロンゲイザーの出力を制限していた。特に人体相手には無意識のうちにセーブする癖が悪癖としてあったのだが、怒りに飲まれた鳳上にはそのような制限は消えている。地を焼き、木々も一切の盾にならず熱線アポロンゲイザーが周りを焼いていく。



「凄いね、あれなら主席はあっちでも良かったんじゃない?」

「出力は立派だが、それを安定して出せなければ意味はない。だが、きっかけは掴んだみたいだな」


 笹山と葉波の二人はその鳳上を見ながら言葉を交わす。事実、筆記の成績も混んでいるとはいえ鳳上と一ノ瀬のどちらを主席にするのかは職員会議でも難航していた。そこをアルマ学の実線において、鳳上と一ノ瀬の二人に大きく差をつけたのが笹山なのだ。


「やっぱり最後はAクラスの二人になりそうかな」

「いや……まだ諦めていないみたいだぞ」




 



 国崎は熱線アポロンゲイザーを避けながら森に入ったところで、さらにその出力を引き上げる。木々は熱線アポロンゲイザーに対する盾にはならないが、鳳上から彼女の行動を予測しずらくする効果はある。


(ここっ!)

「なっにっ!?」


 国崎が探していたのは、森の中でもひときわ大きな木。一気にその幹を強化された速度で駆け上がり空へと飛びあがる。


「これなら、届く!」

「ぐっ!」


 急激な上下に鳳上の目はついていかず、熱線アポロンゲイザーの狙いもおろそかになったところを国崎の袈裟斬りが迫る。鳳上は寸前で左腕を国崎の剣と自身の間に挟み防御をしたが、そんな防御など上から切り裂いてやるとばかりの気迫を籠めてさらに国崎が力を籠める。


「舐めるなぁ!」


 だが、左腕を犠牲にしたほんの僅かな時間があれば、鳳上が空中で身動きのとれない国崎の横腹に手のひらを当てるくらいのことはできる。脇腹に莫大な熱を感じた次の瞬間には熱線アポロンゲイザーがゼロ距離で発射された。


「ぐっう!」

(浅いっ!? だが、これでもうやつに有効打はないはずっ!)


 国崎は剣から手を放してでも無理やり体を捻ることで鳳上の右手から狙いを外すことで、なんとか直撃を避けることに成功したが、同時にただ大きく跳んでいただけに過ぎない彼女の体は脇腹の一部を焦がしながら重力に引かれていく。

 このような跳躍での奇襲など、鳳上相手に二度は通じない。


(今、ここでやらなきゃいけないのよ! だから!)

「私に力を貸しなさい! 音速の戦乙女ラディカルヴァルキリー!!」


 唯一の武器である剣すら失った彼女は叫ぶ。たった一人で視界の端に移る強大なドラゴンに立ち向かい、いつの間にかどんどん先にいってしまう少年に追いつくことを望むように。


「あ、あぁ……。なん、なの、それは」


 鳳上が見たのはまるで天使だった。彼女自身の持つ羽はしなやかな機械の羽、対して目の前の国崎が新たに得たのは、流線型をした羽。まるで生き物の翼を模したような鳳上とは真逆の、飛行機のような人工的な翼。


 一度、空中で羽ばたいた国崎は一気に体勢を立て直すと鳳上に爆発的な加速を持って接近する。


(私と同じ飛行能力!? それでも素手相手なら一度受けるぐらいはっ!)


 鳳上が取った行動は二つ、一つはビットを集めすべての照準を国崎に向けたこと。もう一つは自身の両手で防御行動をとったこと。

 国崎は先のやりとりで剣を捨てている。それならば、いくら高速で迫ろうとも素手の攻撃一度で鳳上は沈まない。むしろ、素手の攻撃のために自分の周りで停止するのであれば熱線アポロンゲイザーの集中砲火で確実に潰せる。


「国崎流……」


 だが、鳳上は見誤っていた。機械仕掛けの戦乙女(デウエスヴァルキリー)も飛行能力のほかにビットを出現することができるように、国崎の力にもあるのだ。


疾風ハヤテ!!」


 自身の力の誇示ともいえるものが。

 国崎の手に握られていたのは一振りの剣だった。高速で迫りながら腰だめに構えられた剣を一気に振り抜き、目の前の鳳上を一気に防御ごと両断する。 

 

 

              Aクラス 鳳上 灯  脱落リタイヤ

 


 


 

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