第七十話 主人公VS主席その2
「せあっ!!」
天川が剣を振りかぶり力いっぱいの斬撃を見舞うが、ドラゴンの鱗にわずかな傷をつけただけ。それとは逆にドラゴンがその巨体を振るい、前足を天川に向けて振るうと圧倒的な質量の前に吹き飛ばされてしまう。
「ガハッ……」
肺から空気が押し出され、何度かせき込みながらすぐに立ち上がりその場を離れる。ついさっきまで自分がいた場所が、ドラゴンに踏みつぶされるのをちらりと見ながら天川は思考を回す。
(確かにパワーは圧倒的だけど、動き自体はのろい上に攻撃自体は単調だ)
その質量にこそ驚いたが、攻撃は踏みつぶしなどの簡単なものばかり。勇気の欠片で再度傷ついた鎧を修復すると一気に距離を取る。あれだけの力を行使するのであれば、そのうちガス欠を起こすはず。
「鋭い刃、業火の刃」
ドラゴンの頭部に立つ一ノ瀬が、その手に業火を宿した剣を生成する。はるか下方にいるときはずの天川にすら、その炎の煌めきが見えるそれを彼はドラゴンの頭部に突き刺す。その業火は刃でできたドラゴンの中をめぐり、ただの窪みのようであった目に光を灯す。
無機物で想像されているはずのドラゴンが、まるで生きているかのように天川の方を向くとがぱりと口を開いた。
「マジか、よっ!!!」
その口の中にごうごうと燃える炎が見えたと同時に、天川はその場から全力で離れる。
だが、
「焼き尽くせ、龍の火炎息吹」
圧倒的な質量から放たれる火炎は、天川がいるところもろともフィールドの一部をまるまる炎の中に飲み込んでいくのであった。
「さて、これで倒れてしまうのかな?」
片膝をつきながら一ノ瀬は小さく呟く。ドラゴンを形作るほどの高出力での能力行使に、業火の刃というさらに高度な技まで使用している。学園始まって以来、最強の新入生と呼ばれる一ノ瀬であっても余裕といえるものではない。
しかし、それほどのことをしなければならないのだと、一ノ瀬は天川のことを認めているというわけである。
「はぁはぁはぁ。今のは……やばかった」
ただ、天川は脱落していなかった。ギリギリまで炎の中心から離れたものの、完全に避けることはできないと悟ったかれは拳を地面にたたきつけて地面を隆起させると即席の防火壁にし、防御をしても焼けていく両腕をひたすらに再生成し続けることでギリギリ耐えたのだ。
それでも、天川はブレスの勢いもあってかなり吹き飛ばされ、一ノ瀬の視界から消えていた。一息つこうと、さらに森のほうに移動して身を隠すことでわずかな間とはいえ体を休ませようとしたところで、横から熱戦が飛んできた。
「!?」
疲労と気の緩みもあって天川の反応が致命的に遅れた。眼前に迫るそれに目を閉じそうになった瞬間、
「智也!」
「凛! どうしてここに」
さらに横から何者かに突き飛ばされて、熱戦から逃れることができた。すぐに目線を移すと、そこには刀を構えた久崎凛が緊迫した表情でこちらを見ていた。
「私もあのドラゴンを見て現場に来たんだけど……その途中で厄介なやつに見つかっちゃったのよね」
凛はドラゴンの頭上にる一ノ瀬に視線を向けたが、すぐに視線を横にスライドさせる。何もない空中なはずのそこには、機械の羽を持つ天使がいた。
「あれは、Aクラスの次席だったけ? こんなところでAクラスそろい踏みかよ」
「愚痴言ってる場合? 協力なんかされたらただでさえ低い勝ち目がもっとなくなっちゃうのよ」
Aクラス次席、鳳上灯はやや俯きげな表情のまま天川と久崎のいる方を向いていたが、横から一ノ瀬に話しかけられたのか彼の方を向くとそのまましばらく停止していた。一ノ瀬の圧倒的な殲滅力に、鳳上の取り回しと威力に優れる熱線を同時使用されれば非常に苦しい戦いとなる。
そのはずであったが、少し話したであろうのちに鳳上は挑発するような仕草を久崎に向け、その場から離れるように飛ぶ。
「分かれた……?」
「どうやらあっちは一対一がお望みみたいだな」
「そうね、むしろそっちは大丈夫かしら? 私の助けが欲しいなら協力するわよ」
「そっちこそ」
その言葉を最後に天川と久崎は二手に分かれた。どんな会話をしたのか知らないが、あっちから連携を断ってくれるのであればそちらの方がメリットが大きい。久崎は鳳上に、天川は一ノ瀬の方に再度歩みを進め、その顔はさっきまでの不安の影が差しているようなものではなくなっていた。
「…………私は強い私は強い私は凄い私は役立たずなんかじゃない」
その一方で、鳳上の表情と言葉にはかつての自信と気品に溢れた雰囲気はなく、自分を無理やりに鼓舞するような自己暗示めいた言葉をブツブツと呟いているのであった。
Xの夜音♪様(@yato_a2)から光一の絵を頂けました!
右腕のアルマと高い同調率の感じが出ていて凄く素敵で、何度も眺めているくらいです。




