第六十七話 手札
第六シミレーションルームでは、代表のうち脱落となってしまった者たちの意識が戻っていた。
「花梨……」
「ごめん、麗」
東堂が個室で一人呆然としていると、そこに申し訳なさそうな顔をした安室が入って来た。二人は合同クラス演習から修行を積み、実力が上がっている実感もあった。しかも、対抗戦の最初に合流も果たすという運まで向いていたというのに、結果は振るわなかった。
上位クラス相手に二人が揃っているということから、気が大きくなり無茶な指示を出してしまったことを後悔し、その気まずさから動けないでいた東堂の前に安室は立つ。
「強かったね、あいつ」
「ごめん、麗。私がもっと上手く立ち回っていれば……」
東堂の言葉は弱まり、視線はより下へ下へと移動していく。安室は、ベットに座りながら俯いていく東堂の顔を、両頬を挟み込むように掴み自分の方を向かせる。
「まだ、クラス対抗戦は終わってない」
「え……」
「私たちなんてまだ入学したばかりだ。それでここまで伸びたんだから、これからもっと強くなるために頑張ればいいじゃないか」
真っ直ぐに瞳を合わせてた言葉は、二人で乗り越えた特訓の日々を思い出させ心に沁みていく。
「うん、そうね。落ち込んでたみたい。けど、もう大丈夫」
東堂はゆっくりと量頬に添えられた手を握り、外しながら立ち上がる。その瞳には先ほどまでの弱気はなく、これからの未来を見据えたやる気に満ちているのであった。
「ちくしょう!! あの野郎、裏切りやがった!」
東堂と安室の二人が外に出ると、怒りに満ちた叫び声が聞こえてきた。
(この声は、確かE組の観撮か)
わなわなと震える観撮が声を荒げながら部屋から出てきたのだろう、彼はイラついた様子で壁を殴るとそのままシミレーションルームが入っている棟から出て行ってしまった。
(裏切り……?)
東堂は遠くで聞こえるその言葉に疑問を思いながらも、安室に連れられてシミュレーション棟に取り付けられた巨大モニターに視線を向けるのであぅた。
「誰だ」
「不意打ちだってのにそんなにあっさり防ぐなよ。最底辺だろ」
光一が歩きながら探索をしていると、斜め後ろから砲弾が飛んできた。光一は右腕でそれを防ぎ、林の方に向かって言葉を投げかけると一人の男が軽薄な笑いと共に現れた。
「観撮が言っていた通り、Fクラスといってもなかなか強いみたいだな。アンタも俺と同じかい?」
萩野啓太、Bクラスの代表であり主席。光一からすればそれ以上のことは何も知らない相手であったが、萩野は違う。
「あんたとは特に関わり無かったと思うが」
「優勝のための道筋にいるってなれば調べるのは基本だろ?」
言葉を交わすのはそこそこに光一は拳を固めて接近する。最初の一撃が遠距離武器であったことから、光一はまず接近しなければまともな攻撃をできないという判断であった。そして、遠距離戦を挑んできたということは、接近戦は遠距離よりも自信がないと考えるのがセオリー。
(意外と動けるな、さすがのBクラス主席か)
ハイキャノンの連打を躱しながら接近する光一であったが、挨拶がわりの拳は避けられ追撃の回し蹴りは受け止められた。能力こそ使っていないが、それでも近接戦が得意でない相手なら七十パーセントほどの同調率で捕まえられると思っていた。
「おいおい、俺相手に温存かよ。早いところ能力使わないと抱え落ちになっちまうぜ」
このクラス対抗戦という場は、優勝を目指すのはもちろんであるが、上位クラスや他学校、果てには就職先へのアピールの場でもある。価値の目はなくとも能力が発現しているのなら、それを発動するだけも十分なアピールの場となる。
萩野の言葉は、それを建前とした挑発であることは分かっている。だが、それでも光一はその挑発に乗った。
「へぇ……やっぱただのFクラスじゃねぇみたいだな、アンタ」
集約せし力、装着しているメインアルマの数が少ないほど残りのメインアルマのスペックが上昇していく能力。通常では扱いにくいことこの上ない能力を光一は乗りこなす。
ただでさえ高い同調率に、最高倍率の集約せし力が乗ることで右腕は必殺の一撃となり萩野に迫る。
「!」
「ふーっ、危ねぇ。まともに受けてたらやばかったかもな」
光一が左手での掴みを繰り出すことで、萩野はそれを避けようと無理に体を捻る。それこそが光一の狙いであり、無防備な脇腹にフック気味の右拳を放つ。だが、それは萩野と光一を隔てるように出現した半透明の壁に止められてしまう。
この能力を光一は知っている。防御ということに関しては随一の力を誇る、Dクラス主席の東堂が持つ能力。
「お前、いくつ持ってやがる」
「それぐらいなら教えてやるよ、一つさ」
堅牢な壁であるというのは実際に触れた拳から伝わってくる。そして、ようやく光一は違和感に一つの仮説を立てた。
堅牢な壁だけではない、やけに鋭い五感と強化された肉体、Bクラスの割に威力が若干低いが再装填のないハイキャノン。それらはどれもこれも能力の動きであり、一騎当千に銃火器贋作とどれもこれも光一が闘ったことのある能力があると考えれば辻褄が合う。
(今見えているのは一騎当千と銃火器贋作、堅牢な壁だがあの口ぶりだとまだまだありそうだな)
萩野の言葉が嘘か本当かはどうでも良い。重要なのは、目の前の相手が何ができるかどうかというだというのは笹山との特訓で教えてもらった教訓の一つだ。
「……集中」
小さく光一が呟くと同時に、その意識はゾーンに沈みより冷静により冷たく萩野という敵を打ちのめすために尖っていくのであった。




