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第六十六話 斎藤VS木崎

(ああ…………最後の手段も外しちまったか。それで自爆してちゃ世話ないよな)


 奥の手であった巨大気弾を自分で受けてしまい、全身が燃えるような衝撃を受けながら斎藤の脳裏にはここ最近の記憶が走馬灯のようにフラッシュバックしていた。



「ほれ、また能力途切れてるぞ。アルマなしの俺くらいもう少し追い詰めないと」

「やべっ。そうは言ってもよ、その気での強化だって能力みたいなものだろ」


 光一との組手の途中、気を注入するという荒業をきっかけに斎藤は不完全ながらも能力スキルに目覚めることができた。ただ、気を弾丸として放出するという能力スキルを使ってもなお光一と組手となるとボコボコにされているのが現状である。

 こうして何度もアルマもないのにアルマ有りの自分を倒していれば、あまり頭が良くない自覚のある自分でも何かカラクリがあるのが分かる。組手の後、寝る前の小休止の間に何度もそのカラクリを教えてくれとせがんでいると、諦めたように魔力と気による強化について説明をしてくれたのだ。


「しっかし気ってのは不思議なものだよな、誰でもできるっていうけどそうは思えねぇぜ」

「こっちからすれば、気を弾にして飛ばすとかいう方が無茶やってると思うがな」


 光一からすれば、あくまで自分の体である気や魔力を肉体に纏うことで強化を行うことは、自身操作を持っていることもあって簡単である。だが、気力や魔力というものは体表を離れるとすぐに霧散してしまうというのが一人での検証で分かっている。

 気というイメージしにくいものを、アルマと高い同調シンクロ率によって呼び起こし放出したうえで操るというのは、自分の体を操作するというアクションからは外れてしまっているのだろう。


「とはいえ、既に気というもんに関しては触れられているんだ。だったら後は何度も繰り返してコツ掴むだけだろ。後は気の使い方に関して具体的なイメージを持つことだな、自分が扱いやすいイメージを固められれば能力スキルの方にも応用できるだろ」

「イメージねぇ……ま、やれることなら何でもやるか」


 それだけ言って、また光一と斎藤は修行に戻るのであった。



(これが走馬灯ってやつかよ…………ん?)


 斎藤が走馬灯だと感じたのはそこまで、燃えるような衝撃こそあったがなぜか己の肉体は依然としてこの仮想空間から脱していない。ダメージと気弾を受けた衝撃で、足から力が抜けていたのが自然と戻る。

 目を開けて自分の体を見ると、その黄色く薄いオーラのようなものが体を覆っているのが見えた。アルマはひび割れ、ダメージが回復したわけではないのに腹の底から力が沸き上がり、斎藤は両の足で大地を踏みしめて立ち上がる。


「!? 嘘だろ!」


 木崎は確実に倒したと思った相手が立ち上がったことに驚きはしたが、すぐさま思考を切り替えると一気に近づいてとどめを刺しにいく。斎藤は野生の咆哮(ワイルドシャウト)を発動した木崎のスピードに対応しきれていない、何かをされる前に決めてしまうという考えであった。


「なっ!」

(見える!)


 ただ、今回は様子見をするべきであった。斎藤は高速で迫る木崎の拳をしっかりと正面に回り込みガードすると、お返しの右ストレートをねじ込んだ。今までの読みだけで放ったものではない、明らかにしっかりと木崎の高速移動についていけるだけの身体能力が今の斎藤にはあった。


「お前、まだ切り札を隠してたのかよ」

「いや、ぶっつけ本番で今にも切れそうな切り札だよ」

「そうかよっ!」


 木崎は斎藤の言葉を聞いいて、さらに同調シンクロ率を高めて再度突撃する。言葉どおりなら、ここは一度逃げるという手段を取るのも手だろう。だが、それでも木崎は正面突破を選んだ。


(ここで逃げるようじゃ、優勝なんて…………あいつに勝つなんてできねぇ!!)


 木崎の脳裏に浮かんだのは一ノ瀬と闘った時に感じた絶望的な差。それを埋めるために特訓をしてきたのだ、正面から全ての相手をねじ伏せ勝利するために。



「お前の近接戦闘は利点だ、あくまで俺が主席なのは総合で上回っただけだ。だから、お前はリベンジしろよ」

「おう、俺とお前でワンツーフィニッシュだぜ!」


 萩野との約束を胸に、斎藤と殴り合いをしながら木崎はさらに野生の咆哮(ワイルドシャウト)の出力を上げる。


(これが、光一の言ってた気の強化ってやつか)

 

 斎藤は新たな力を手に入れながらも頭は冴えていた。初めての技であったが、この力の感じと体の奥底にある力の源から溢れ出す力は光一が話していた気と酷似しており、自身の体を覆っているオーラは間違いなく能力スキルで発射している気であった。

 

 光一はこの仮想世界では気や魔力による強化は不可能であると考えていたが、それは半分間違いである。この世界は、現実の肉体を再現しているアバターを脳波で動かしているものであり、内臓などが正確に再現されているわけでもなく、痛覚などもショック症状を起こさないようある程度減衰するように作られている。 

 そのため、現実のの肉体の丹田から気や魔力を練り上げ強化しようにも、その丹田がないのでは強化ができないというわけである。一方で、斎藤の気弾砲弾シュートフォース能力スキルを発動した瞬間に、能力スキルによって練られた気がアルマを通して出力される。この仮想世界では、能力スキルはほぼ完ぺきに再現しており、現実で気や魔力を使うような能力スキルを発動すると、この空間でも再現されるのだ。


(ただ……あまり長続きはしねぇだろうな)


 これまで一番の動きを見せながらも、斎藤はこれが一瞬の煌めきであると直感していた。気弾砲弾シュートフォースの発現を安定させるために、斎藤は気というものにとあるイメージを持つようになった。それは、自身の体という風船に気という空気が入っており、気弾砲弾シュートフォースで気を使う際には風船の口を適切に緩め放出していくようなイメージ。

 

 だからこそ、気というものはあくまで空気のように発射するだけで纏うというイメージができなかった。そのこと自体は変わっておらず、それでも斎藤の周りには気が渦巻き強化を続けている。それは、イメージの風船に自爆した気弾によって穴が開き、自らの意志と関係なく気が漏れ出しているのだ。全身からとめどなく漏れる気は、苦手であった纏うという段階を踏まずに全身を強化し木崎と互角以上に動いてのだ。

 だが、それは後先を考えることなく自身の底に眠るエネルギーを放出しているに近い。水の張った風呂の栓を抜くように力が抜けているのが分かる。


(それでも、今これを止めるわけにはいかなねぇんだ)


 木崎の動きについていけているのは、あくまでこの強化が続いているから。この闘いが終われば、勝ち負けに関わらず気力は底をつくだろうということは分かっていても、斎藤は強化を止めない。


(こいつ、どんどん動きにキレが出てやがる。だが、()()()()()()()()()()使()()()()()


 互角の殴り合いをしながら、木崎は一つの考えにいたった。それは、斎藤の動きが良くなってから気弾砲弾シュートフォースを使っていないということだ。肉弾戦で迫られてはいるが、それはあくまで斎藤の能力スキルを頭の片隅に入れながらの肉弾戦だ。

 肉弾スペックはほぼ互角だとしても、いまの肉体強化を使いながらの近接戦闘は僅かに木崎の方が経験により勝っている。それでも、斎藤には笹山と光一の二人と行った猛特訓の経験がある。普段の肉体と気で強化された肉体とのギャップがまだ埋まっていないだけ、また一つと拳を打ち合わせるごとに動きの精度は上がり、木崎を捉えようとしている。


(決めるっ!)


 そして、打ち合いのなか木崎が、ほんの一瞬足がもつれたように鈍り前につんのめんる。それを見て、斎藤は一気に踏み込み右の拳を振り切った。


「なっ!」

(かかった!!)


 だが、その拳は空を切った。木崎は野生の咆哮(ワイルドシャウト)の出力を維持できるギリギリまで下げ、強引にブレーキをかけ次の瞬間に再度出力を上げるというチェンジオブペースをしたのだ。普通の足さばきでのブレーキであれば、斎藤は訓練の経験を生かして反応できただろうが、このような能力スキルの使い方に関してはまだ木崎の方が上だ。斎藤が重い一撃を空振りした隙に、木崎は最大速度で斎藤の背後に回る。


(狙うは頭、これで一気に意識を落とす!!)


 この仮想世界では、痛みでも衝撃でも意識が落ちれば安全のためにすぐさま離脱させられる。

 木崎は野生の咆哮(ワイルドシャウト)により、鋭くかぎ爪が生えた両腕を躊躇なく斎藤の後頭部めがけて振り切る。


「なっ!?」


 その瞬間、斎藤の体が木崎の拳を避けるように沈み込んだ。木崎のように意図的に起こしたものではない、疲労と気力の流出で体から力が抜けてしまったのだ。


(ああ、そろそろ来たか……)


 斎藤の脳裏に浮かんだのは、風船の横に穴が開いたイメージ。ただでさえ気力が漏れ出ている体から、さらにまた大きく気力が流出していく。


「まだまだっ!!」


 直撃こそしなかったが、木崎のかぎ爪は斎藤の頭を掠めてさらに大きく体勢を崩させる。斎藤は未だに背中を向けたままで、自分の有利は揺らがないと木崎は再度拳に力を込める。


「ぐっあっ!?」


 追撃をしようとした木崎の顔面に、何か固い壁のようなものが勢いをつけてぶつかり視界がくらりと歪む。斎藤が自身の背中を使っての打撃を見舞ったのだと木崎が気がつくより先に、斎藤は体を回転させながら溜めを作って拳に最後に残った気力を乗せて最大の拳を振りぬいた。


(ごめん…………萩野、約束守れなかった)


 体中ボロボロにしながらも、静かになった戦場で斎藤は拳を掲げて小さく勝利を噛みしめるのであった。



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