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第六十四話 代償

全力の熱線アポロンゲイザーを受ける直前、光一が小さく呟くと同時に黒かった右腕のアルマは赤が混じり赤黒く光り鳳上の全力を受け止める。


(うそ……ですわよね!? アレを受け止めるなんて)


 鳳上からすれば全力の熱線アポロンゲイザーは防御されても良い攻撃であり、まともに受けてたところで下位クラスのアルマなど防御の上から貫通できる威力がある。鳳上もそれを見越して、フェイントをかけるよりも最大威力での一撃で、防御の上から致命傷を負わせる算段であったのだ。


「速い……っ!?」


 熱線アポロンゲイザーに加え、常時展開系パッシブ能力スキルである機械仕掛けの戦乙女(デウエスヴァルキリー)を同時に発動できる鳳上の同調シンクロ率は当然ながら高い。平均して、全身六十近い値を長時間維持することができ、何もしないでいるのならあの一ノ瀬よりも長い時間の維持ができるほどである。


 だが、今の光一の同調シンクロ率は八十を超える。メインアルマこそ右腕だけだが、サブアルマを付けている左腕には黒い腕輪型のトレーニングアルマをつけており、身体能力そのものは大きく強化されている。この高い同調シンクロ率に限界突破オーバーリミットで強化を重ねれば、右腕の耐久力は鳳上の熱線アポロンゲイザーだろうと貫くことはできないというわけだ。

 光一は熱線アポロンゲイザーを防ぐと、強化された身体能力を使い一気に鳳上との距離を詰める。動揺しながらも、光一に右腕を向けて熱線アポロンゲイザーを放つ彼女であったが、その近距離であっても光一はまたあっさりと右腕で受け止め、空いた左拳を彼女の脇腹にめり込ませた。


「か……っ、はっ……っ!!」

(やっぱ左じゃ一撃は無理だな)

 

 強靭であるはずの鳳上のアルマ越しでも、彼女をえづかせるくらいの威力はあったようで、腹に受けた衝撃で体が折れ曲がる。トドメの一撃として右拳を構えたが、鳳上が無意識に戻していたファンネルから熱線アポロンゲイザーを放ち防御のために拳が止まる。

 すぐにでも追撃をするつもりであったが、鳳上は畳んでいた機械の羽を展開すると渾身の力で地面を蹴り一気に飛び上がる。


(に、逃げないと! 早くっ!)


 その恐怖に塗り分された顔は、Aクラス次席と下位クラスの闘いの結末だとは誰も思いもしないものであった。


「逃げられたか」


 空高く飛び立った鳳上を見上げ光一は小さく呟いた。地面を走って逃げてくれるのならやりようはあるが、空を飛ばれてしまうとどうしようもない。そこらの石でも投げてやろうかとも思ったが、


「っ! ……時間か」


 光一は胸に走る激痛と疲労から膝を曲げ、左手で胸を抑える。それと同時にだらりと垂れた右腕のアルマのところどころがブシュッという音と共に開き、限界突破オーバーリミットで過剰に蓄えられてしまった熱を排出する。

 普段は限界突破オーバーリミットを使う前から、痛覚や疲労を自身操作で脳をいじることで誤魔化しているのだが、強襲であったことと仮想空間であったことが重なって無視しきれなかった。


 限界突破オーバーリミットによる強化は集約せし力(ディスペラード)に比べて瞬時に、そして高い強化率を誇るということもあり咄嗟の能力スキルとして発動したのだが、その代償がこれだ。


(肉体強化に回す魔力や気力はいらないんだ。多少感覚が鈍るとはいえ痛覚麻痺は常に発動していてもいいかもな)




 痛覚を麻痺させてしまうと、それに付随して他の感覚も少なからず鈍る。それは近接格闘がメインの戦闘手段である光一にとって確実にマイナスになる。そのため痛覚麻痺を常時発動することは避けていたが、咄嗟に本気を出して動けなくなってしまえば元も子もない。


「さて、いい場所でも探すかね」


 あれだけ有利になったのならば、鳳上の後をつけて倒し切ってしまうのがセオリーであり、他のクラスへのスカウトのアピールや卒業後の進路にも響く。特にFクラスがAクラスを倒したとなれば、絶大なアピールになるが光一にとってそれはどうでもよい。

 目的は()()()、天川智也の打倒のみ。そのためにも魔力や気力、集中力の無駄遣いは避けたい。それならば、こちらから攻勢に出るのは天川と出会った時で良い。むしろ鳳上を放っておいて邪魔になりそうな他の参加者を倒してくれたほうが都合がいい。


 そう考えた光一は、飛び去っていく鳳上を追うことはぜずに逆方向に歩いていく。こちらが最後まで生き残っていれば、天川は必ず来ると確信しているからこその余裕。改めて考えれば確固とした根拠はないが、それでも光一はその事実を信じているのであった。





 

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