第六十三話 |機械仕掛けの戦乙女《デウエスヴァルキリー》
(さて、それでは良い狙撃ポイントでも探しましょうか)
クラス対抗戦がスタートしてから、Aクラス次席である鳳上は背中から二つのファンネルと機械によって作られた羽を展開する。機械仕掛けの戦乙女、鳳上が持つ一つ目の能力であり、展開している間は機械の羽による飛行とファンネルによる探知が行えるというものである。
このクラス対抗戦において、初動の動きは重要である。集中力が同調率という戦力に対して大きな要素となる以上、先手をとって一撃を加えることができれば一気に有利になる。そのため、先手を取れると同時に不意の攻撃に警戒することができる探索系の能力は強力な能力といえる。
(私の熱線の有効射程は百メートル弱、できれば身を隠せる高台なんかがあると理想なのですけれど……)
そして、鳳上の持つ能力はそれだけでない。熱線、熱のビームを右手から照射するという文字にすれば単純な能力であるが、その貫通力と気力が続く限り撃ち続けられるという強力な特性を有している。それどころか、この二つの能力を鳳上が発現したのはこの学園に入学する一年前である。
そう、二つの能力の発現に成功した通称ダブルに、今年入学した生徒の中で一番早いのは谷中紘一だと斎藤は考えていたが、実は違う。この学園に入る前に鳳上が既にダブルへの覚醒を成し遂げている。彼女は入学試験では意図的にこの能力を使ってはいなかったが、それはあくまで能力に頼り切らずとも学園のトップになれるという自負のもと自分に課した枷であった。
(しかし、現実は学園次席。……で! す! が! このクラス対抗戦であの一ノ瀬を倒して、今度こそ私が学年主席に相応しいと認めさせてあげますわ! ……おっと、大声はNGでしたわね)
思わず高笑いをしそうになるのを堪え、鳳上はさらに歩みを進めようとしたその時、ファンネルが誰かが近くにいる気配を捉え意識をそちらに向ける。ファンネルが受信した映像を眼前に出現させたディスプレイで確認すると、
(この見た目は……確かFクラスの代表でしたわね)
そこに映されていたのは、目の上のたんこぶである一ノ瀬がなぜか目をかけているFクラス代表こと、光一であった。一ノ瀬本人が入学試験で苦戦したとは言っていたが、彼はどうも闘いを楽しむためにしばしば手を抜く悪癖があるのは鳳上も知っていた。
だがしかし、一ノ瀬が光一を高く買っているのも事実であり、クラス対抗戦で光一を倒したとなれば主席である彼に自分のことを認めさせることができるだろう。そう考えた彼女は、足音を立てぬように歩き、羽をできるだけ折り畳みながら光一のいる方へ向かう。
(いましたわ)
鳳上が光一を肉眼で確認できる距離まで近づくが、あちらはまだこちらに気がついていないようである。木々によって鳳上の姿が隠れているのもあるが、どうやらあちらに探索を行えるような能力やアルマを持っていないのだと考え右腕に熱線、の為のエネルギーを溜める。
「なっ……!!!??」
完全に不意打ちで放ったはず、それでもミスがあったとしたら木々に隠れて熱線を放ったせいで、光一に着弾する前に木々が焦げる音が鳴ってしまったことだろうか。その音に反応した光一は即座に鳳上の方を向くと、右手で熱線を受け止める。
鳳上からすれば、その多少反応されようとも、熱線の貫通力であれば生半可な防御などそのまま貫通して致命傷を負わせられると踏んでいたのだが、それがあっさりと右腕で受けられてしまうなど想定外である。
(いや……いつもの癖で無意識に手加減してしまっただけですの……次こそっ!)
鳳上の熱線はその性質上、あまりにも戦力差がありすぎると致命傷を負わせてしまうことから、安全装置がある学園に入る前は常に手加減をして発動をしていた。その時の癖で手加減をしてしまった。目の前のFクラスに耐えられてしまったのはそのせいだと考え、鳳上はバックステップで距離を取りながらファンネルと右腕を光一に向ける。
「熱線、最大出力!!」
二つの能力を発現させてから長らく使い続けてきた鳳上にとって、能力の応用すすら実現できるまでになり、最初は右手からしか放てなかった熱線を機械仕掛けの戦乙女のファンネルから放つことができるまでになっていた。
三方向からの全力射撃を一転に集約させた鳳上の持つ最大の威力を持つ一撃、目の前の相手は最初から全力を持って倒さねばならないという判断を即座にできるだけ、彼女はやはり優等生なのだろう。
「……限界突破」
「えっ?」
ただ、目の前の相手がそんな優等生の理屈だけで説明がつくような相手ではないのも事実なのだが。




