第三十八話 合同アルマ演習その七
アルマというものが発見され、能力の存在が認められて百年弱。様々な能力が観測されてきた。集約せし力、この能力は発現者も多く現在知られている中でもメジャーなものである。
その内容は単純、纏うパーツが少ないほど残りのパーツの性能が上がるというものである。
これだけ聞けば、観撮が話すようにクズ能力と断言するのは早いように感じるが、この能力の問題は全六つからなるアルマを全て纏った状態で使っても効果がないという点である。しかも強化率は纏うパーツが増える度にガタ落ちしていく。
これは順当に同調率を上げ、纏うことのできるパーツを増やすという基本的な考えと絶望的に相性が悪い。
(そのはずなんですけどね)
観撮は解析を起動したまま構えを取る。確かに集約せし力は良い能力だとは思えないが、光一の纏うアルマは右腕一つ。それならば強化倍率は跳ね上がる。つまり、トリプルバーストが防がれた理屈は単純に右腕の耐久力を削り切れなかっただけ。
(そう考えるしかなさそうですね)
半身になって緩やかに下げた左腕を前にして、観撮はじりじりと距離を詰める。それに対して、光一は悠然と歩いて近づいている。
「シッ!」
観撮が短く息を吐いて踏み込み、光一の顔面を狙う。ボクシングでいうところのフリッカージャブに近い浮き上がるような軌道。普通のジャブより一段と捌きにくいはずだが、その一撃は光一が僅かに状態を反らされ当たらなかった。
それでも立て続けにフリッカーを打つ観撮、右腕を警戒してかアウトボクシングのようにそこそこの距離を保ちながら、解析を使って光一の動きを予測。攻撃の予兆を感じ取るとすぐさま後に飛んで距離を取っていく。
(今だ! 意識が手にいっている今ならこれが通る!)
一度、二度フリッカーを避けられたのと同時に観撮がまた一歩大きく踏み込む。ここまで数回の攻勢では、フリッカーと少しの右だけで闘い観撮のスタイルはボクシングであるとイメージをすりこんだ。
ここで出すのは渾身のハイキック。腕以上にパワフルな部位で意識外からの一撃。完全に入った感覚が右足に伝わる。“やった”用心深い観撮でもそう判断してしまう程の手ごたえ。しかし、
「!? がッ」
「ああ、すまん。痛かったか」
帰ってきたのは岩でも蹴ったのかと錯覚する固い感触。ハイキックを右腕で防がれただけでこのザマである。これはFクラスでロクにパーツを扱えないことを逆手にとって右腕だけにアルマを纏い、集約せし力で強化しているだけで出る性能ではない。
(この固さ、威力。こいつ、まさか素の同調率でも僕を上回って……)
一時的に痛みで痺れる足を後にかばいながら、観撮は再度構えて解析を再起動。光一の実力を再確認して、これからの戦法をどうにかしようと頭を回す。
(こうなったらとにかく手数を当てなければ、いくら相手の右腕の性能がよかろうともそれ以外の部位の防御は薄いはず。こっちがやられる前に攻めなければやられる!)
光一のパンチを左に回り込んで肘を脇腹に刺す、防がれはしたが左腕で防御されたので痛みはない。むしろ防御した相手の方がダメージを負ったと判断して、攻めの手は緩めない。
さらに観撮の右ボディが刺さり、それを無視して振るわれた右フックにカウンターするようにバク宙と同時に観撮が光一の顎を蹴り上げる。
ぐらり、と光一の体が揺れたのを見て今度こそ観撮は渾身の一撃を決める為に踏み込む。光一の顔目掛けて打たれた右ストレート。
「!?」
「オーケー、大体分かった」
それは、ごくあっさりと光一に掴まれた。腕を引っ張って抜けようにもびくともしない。それならばと、観撮はさらに踏み込んで左ストレートで光一をひるませて抜け出そうとしたが、左腕も掴まれてしまい完全に両手を塞がれてしまう。
「大体Bクラス上位からA下位ってとこかね。おかげさまでいいデータが取れた」
純粋な腕力だけで観撮の姿勢が下がっていく。その腕力に驚き、打開策を練る余裕もない。
観撮がもがいていると、唐突に光一が右手を開き観撮の肩を押した。当然、観撮は後によろけるがもう片方の腕を光一は力任せに引っ張る。
「ま、期待外れじゃなかったぜ」
(ま、不味い不味い不味い!!! この解析結果は……!)
前後に揺さぶられる観撮の視界が最後に捉えたのは、唯一のアルマである右拳を構えた光一の姿と、解析の能力が映した、
「予想通りってところだったけどな」
“限界突破”の文字であった。




