第三十七話 合同アルマ演習その六
「おい、観撮! 何やってんだ」
「何って、盾になって貰ったんですよ。能力顕現者を守るのは当然でしょう。それとも、僕抜きでそこの男に勝てるとでも?」
「ぐっ……」
勝手にクラスメイトを盾にされたことを咎めるEクラスの男がいたが、観撮はそれを正論で封殺する。Eクラスの生徒たちも分かっているのだ、目の前のFクラスが強大な力を持っているということを。
(観撮とかいったな、こいつこの状況でいい統率力を発揮してるじゃないか)
「そこの人、何故Dクラスの二人をかばったんです? 無駄にダメージを受けるだけだと思いますが」
「こいつらは俺が追い詰めたんでな。漁夫の利でポイント取られても腹立つだけだからな」
この演習では、何人倒したかの個人スコアと勝利クラスにいるかどうかで付与されるAPが変わる。砲撃から安室と東堂の二人を守らなければ、個人スコアは光一ではなくEクラスの誰かに奪われていたのだ。
「観撮、お前とは休戦協定を結んでいたはずだが」
「協定とは破られるためにあるものですよ。D、Fクラスの主力を一度に潰せるなら尚更ですね」
東堂が対話を試みるもの、観撮は無視してEクラスの生徒たちに指示を出す。あらかじめ指示されていたのだろう、大半の生徒が片手にキャノン系のアルマを身に着け三人に狙いをつける。
「おい、お前ら。五分生き残れるか」
「え? あ、ああ。そのくらいならなんとか」
「上等」
光一は、万事休すといった表情を浮かべる二人に声をかけ、短く言い残したと同時に思い切り地面を蹴ってEクラスに突撃する。Fクラスを逸脱した踏み込みは、狙いを付けていたはずのEクラスたちが光一の姿を見失ってしまうほど。
「すごい……」
安室の口から思わずそんな声が漏れた。単身Eクラスたちの中に飛び込んだ光一の動きはまさに一騎当千、腕の一振りでまた一人とEクラスの生徒が宙を舞う。
「チッ……時間稼ぎにもならないですか。陣形Dを組め! トリプルバーストの使用を許可する!」
観撮が声を張り上げると、Eクラスの生徒は一気に光一と東堂たちから距離をとった。その程度なら光一は一足で距離を詰めることができるが、Eクラスの生徒が三人固まり構えた巨大なキャノン砲を見て動くのを一瞬、躊躇った。
Eクラスの生徒たちが構えるそれは、三人でパーツを持ち寄る必要があるものの破格の威力を持つキャノン砲のアルマ。しかし、いくら威力が高くとも当たらなければ意味がない。光一の反応速度なら避けるのは不可能ではない。だが、動くが遅れた理由は、その方針が安室と東堂の方を向いていたからである。
(まずい、この位置は防ぎきれない)
東堂は瞬間的に悟ってしまう。正面から受けるのであれば堅牢な壁でトリプルバーストの砲撃もギリギリ防ぐ自信はある。
だが、Eクラスの生徒たちは前後から同時に砲身を向けていた。今の彼女には複数の堅牢な壁を出すことはできない。どこからその弱点がバレたのかは分からないが、ここで自分は脱落するだろうということは分かる。正面に堅牢な壁を展開しながら、背中越しにトリプルバーストが発する光を受けて覚悟を決めたその時、彼女の背中に影がさした。
「う、うそだろ……」
「俺たちのトリプルバーストが……」
正面からの砲撃を防いだ衝撃で、後方に飛ばされた東堂は背中に何か暖かくもずっしりとしたものに当たって止まる。
「もう少し隠し時たかったんだがな。ま、しょうがねぇか」
振り返ると、右手を突き出した格好で赤熱した砲弾を受け止める光一の姿があった。
(馬鹿な! あれをまともに受けるなど防御系の能力でもなけりゃ無理だろ!?)
光一が能力顕現者であることは予想のひとつであったが、トリプルバーストを涼しい顔をして防ぐのは予想外である。Eクラスの次席である男は、Fクラスでありながら、E,Dクラスを圧倒する光一の源を攻撃系の能力であると考えていたのだが、それならば攻撃に使えるような何かであり、あのような防御に使えるなどどんな能力なのか想像もつかない。
「どうやら、僕が直接相手しないといけないみたいですね」
「麗!」
「すまない……花梨」
人数も減り、切り札も防がれ士気の大きく下がったEクラスの前に安室が転がされた。全員の視線がそちらに移り、観撮がずれた眼鏡を直しながら出てきた。
(この男、いくら消耗しているとはいえ麗を相手にして傷一つないだと)
安室がまるで相手にならない、いくら観撮が能力顕現者でEクラスの主席だとしてもDクラスの次席である安室を子供扱いというのは違和感がある。
「その能力……まさか破壊者かい? だとするならば君もまた僕と同じようにヤツにやられた口なのかな」
「ヤツ? 誰のことだよ、俺なら入学試験でも倒されたことなんてないが」
「何だって?」
観撮計、彼はEクラスの主席という位置に甘んじているのだが、その実力はBクラスの中位から上位はある。そんな彼がなぜEクラスにいるのか、それは入学試験で彼は一人として倒すことなく脱落するという結果を残してしまったからである。
その原因となった人物こそ、今のAクラス主席であり、天才こと一ノ瀬颯真である。観撮は次のクラス対抗戦で一ノ瀬に復讐するためにAPを集めて良い装備を集めようと躍起になっているのだ。
観撮からすれば、目の前の光一もクラスに似合わない実力を備えており、自分と同じように強者から入学試験で狙われたのかと思っていたのだがそれは違うと光一は言い切ったのだ。
「それに破壊者だなんてレア能力もってねぇよ。こいつは集約せし力だ」
「なんだと……そんな事があるはずがない! そんなクズ能力であれだけのことができるわけが……」
「だったら調べてみろよ、そういう能力なんだろ、お前の能力はよ」
破壊者の能力はその名の通り破壊を操る能力であり、発現者はほぼいない程に珍しく、自分に向かってきた武具の威力を破壊することすら可能という。
観撮が最初に浮かんだ可能性を光一はあっさりと否定し、自分のもつ手札を明かした。それは、能力が明かされた程度で自分の力が揺らぐことはないという自身の現れであると同時に、その手札が隠すほどのものではないということなのだろう。
(そんなに言うなら使おうじゃないか、集約せし力なんてペテンを仕掛けたところで、僕の解析かかれば無駄なことだ)
観撮の右目に青く光が灯り、幾何学模様が瞳に浮かぶ。解析、見たものを解析する能力であり、熟練者は大掛かりな解析機械と同等の力を宿すとも言われる能力である。観撮の熟練度でも、少し集中して見れば相手の使用している能力の解析も行える。
「集約せし力……だ、と」
「だからそう言ってるだろ」
その能力もまた、観撮の予想とは全く違った結果を示すのであった。




