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歪んだ歯車  作者: 村上蘭
9/12

悪魔の微笑と奈落





 灯りを、消した部屋で浩一はパソコンの前に坐って


いた。その顔は、パソコンの青白い光に照らされ闇の


中に不気味に浮かんでいた。その眼は、パソコンの前


においてある紙袋をじっと見つめている。紙袋の、中


身は昼間浩一が阿久津金融から借りた三十万円が入っ


ていた。浩一が、金を借りた阿久津金融とは法の網を


かいくぐる方法で商売をしている。いわゆる、闇金と


言われる所だった。当然、浩一のようなサラ金も相手


にしない者に金を貸すのであるからその利子は世間一


般からしたらとんでもない法外な額である。普通に、


考えたら正気の沙汰では無いのであるが浩一のように


追い詰められている者にとったら地獄でキリストにで


も会ったかのような気持になるのであろう。その事が、


地獄の一丁目に行く入り口なのだとは微塵も考えてい


ない浩一だった。




「良し、これで又スタートラインに立てたぞ」




 浩一は、闇の中でつぶやいた。いい加減な、所はあ


るが浩一も馬鹿ではないので闇金から借りた金を返せ


なかったらどういう事になるかぐらいは容易に想像で


きた。もし、そうなったらたちまち雪だるまの様に借


金がとんでもない額になってしまうのは眼に見えてい


た。しかし、浩一にはかなりの確率で借金を直ぐにで


も返せる自信があった。この間まで、仮想通貨で稼い


だ資産があったという事実が大きかった。




「この位の、はした金どうって事ない耳を揃えて奴ら


に返してやるさ」




 浩一は、紙袋から出して机の上に整然と並べた三十


万円を睨みつけるように見て吐き捨てるように言った。


だが、投資の世界に限らずこの世の中には絶対にやっ


てはいけない事がある。特に、投資する際の原資は余


剰金でやるというのは大原則である。生活費とか、ま


してや余裕もないのに無理して金を借りそれを投資に


充てるなどと言うのは言語道断な事なのであるが今の


浩一にはそんな冷静な判断は出来なかった。焦りから、


以前の様にビットコインで一発当てるその事しか頭に


浮かばなくなっていた。それが、どういう結果を生む


かを考えもせず・・・




「俺には、運命の女神がついている。今度も


絶対上手く行く!」




 浩一は、誰に言うともなく呟いて自分自身を無理矢


理納得させていた。翌日から、浩一は精力的に動いて


やったことは前回とほぼ変わらなかった。まずは、こ


れはというコインを厳選して買い相場の様子を見なが


ら値が上がるチャンスを待った。柳の下に、ドジョウ


は普通二匹はいない物なのだが果たして浩一が仮想通


貨を購入したあたりから何という事かビットコインが


上昇し始めそれに呼応した様にビットコイン以外のア


ルトコイン達もどんどん上昇を始め浩一の買った幾つ


かのコイン達も凄まじい勢いで爆上げが始まっていた。


浩一の、投資した原資はたちまちにふくれあがって行


った。もう、仮想通貨の上昇は留まるところ知らずと


いう風に毎日上昇を続けて行き一週間も経つと前ほど


では無いが浩一の資産はそこそこの額になっていた。




「よし、良いぞ俺はまだ運に見放されたわけじゃ無か


った。そうだ、また俺のサクセスストーリが始まる」




 浩一は、また笑いが止まらない状態になりつつあっ


た。だが、流石に前回のように何が起こるか解らない


事は学習した浩一だったので明日にでも円に利確して


兎に角この資産を確固たるものにして置くという事は


決めていた。




「よし、今夜は前祝いに町に繰り出すか」




 浩一自身、こんなに上手く行くとは思っていなかっ


たのが正直な気持だったのであるが事は浩一の想定を


遥かに超えてとんとん拍子に進んで行った。正に、奇


跡だと感じていた。浩一は、したたかに酔っていた。


まるで、それまでの不遇をなじる様に元はと言えばそ


の不遇も自分の不遜が招いた事なのだがそれは完全に


忘れて浩一は勝利の美酒に酔いしれていた。浩一が、


酒にうつつを抜かしている間にもビットコインの上昇


は止まらずある頂点を目指すように凄まじく上り詰め


て行った。時間は、刻々と進み今日が終わり新しい明


日が始まろうとしていた。その頃、浩一はキャバクラ


に乗り込んでいた。束の間の、青春を無駄に消耗して


いる様に見える堕天使達に囲まれへべれけに酔っぱら


ていた。時刻は、0時29分から0時30分に変わった瞬間


それまで打ち上げ花火の様に上昇を続けていたビット


コインの動きがピタッと止まった。暫く、その位置を


キープしていたが一瞬その美しく描かれていた右肩上


がりの上昇線はきびすを返すとまるで奈落に落ちるナ


イアガラの滝さながらに真っ逆さまに落ちて行った。

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