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歪んだ歯車  作者: 村上蘭
8/12

ダメ男の悪あがき


 八



 

  2014年2月に、ビットコイン消失事件が起


 き最終的に500億円相当の被害が出て、同年4


 月にマウントゴックス社は事実上の経営破綻に追


 い込まれた。記者会見の放送が流れてあっという


 間にこのビットコインの取引高世界一と言われた


 取引所は崩壊した。あまりにも、あっけなく一つ


 の会社がこの世界から消えたのだがマウントゴッ


 クス事件が日本の社会に残した物は大きかった。


 ビットコインの、信用は地に落ち仮想通貨そのも


 のが怪しい危ない詐欺そんなイメージが日本人の


 頭にインプットされてしまった。これは、後々判


 明した事なのだがビットコインが消失したのはハ


 ッキングが原因ではなくマウントゴックス社社長


 のマルク・カルプレスの横領事件であったのであ


 る。つまり、ビットコインの仕組みその物には何


 の不都合は無く結局一人の人間が起こした犯罪で


 あったのだが世間の見方は違っていた。それは、


 そのときのマスコミの報道の仕方が、まるでビッ


 トコインそのものが悪いかの如く放送されてしま


 った為である。それで、今になっても日本では世


 界に比べてビットコインの普及が格段に遅れると


 いう結果を残してしまっている。まあ、それはも


 う少し未来の話なのだが話を現在の浩一に戻して


 みよう。あれからの、浩一はまるで運命の女神か


 ら見捨てられたかのように不運が続いていた。所


 有していた、ビットコインが全て無くなったのは


 当然だったが無くなる前にビットコインを多少現


 金化していたのだがそんな物はすぐに底を尽きた


 ちまち生活に困る事になり頼みの綱の母親に連絡


 を取ってみたのだが・・・




 「もしもし、お袋」




  浩一は、切羽詰まった声で母親に言った。




 「あ、浩ちゃん・・・」




  歯切れの、悪い母親の声で浩一は嫌な予感がし


 たのだがそれは当たっていた。母親の声の向こう


 に浩一の最も苦手とする父親の声で「おい、携帯


 ちょっと貸せ」と言っている声が聞こえていた。




 「おい、一回しか言わない良く聞けお前は勘当す


 る。お前が、今まで紀子から借りた金は手切れ金


 変わりだ。その金は、返さなくても良いが今後一


 切親子の縁はこれで切る以上だ」




  ほとんど、怒号に近い声でそれだけ言うと父親


 の電話は切れた。こちらも、あっという間に親子


 という細い糸がぷっつりと切れてしまった。完全


 に、追い詰められた浩一はプライドからここだけ


 は避けていたのだが、背に腹は代えられず電話を


 してみた。




 「はい、坂田でございます」




  電話口に出たのは坂田和彦の母親であった。




 「あの私は、和彦君の大学時代の学友で中村浩一


 と言うものですが、和彦君は御在宅でしょうか」




  浩一が、言った。




 「和彦ですか、和彦なら今は出張でアメリカに居


 りますが」




  坂田和彦の、母親の返事は大方予想通りで、も


 しかしたら帰って来てるんじゃないかと心の奥底


 で思っていた浩一の落胆は大きかった。




 「そうですか・・・」




  浩一は、丁重にお礼を言って電話を切った。坂


 田が、もし日本に帰っていたら頼み込んで坂田が


 持っているビットコインを何とか譲ってもらうつ


 もりでいた。が、その望みは絶たれた。親も頼れ


 ないし友達もあてに出来ないとなると、これしか


 無いなと浩一はある決心をその時していた。




 「仮想通貨の市場は、まだまだ成長を続けてる。


 まだ、チャンスはいくらでも転がっている今回は


 思わぬアクシデントで失敗してしまったが原資と


 なる金さえ用意できればいいんだ」




  浩一は、そう考えていた。そうは言っても、浩


 一に投資に使える金を作れるあてなど無かった。


 サラ金と、考えたがサラリーマンでもない浩一に


 金を貸してくれる所なんて皆無だった。




 「金が用意できれば、金さえどうにかできれば」




  浩一は、昨日からその事ばかり考えていたが一


 晩中考え抜いた結果ある考えに辿りついた。




 「よし、出かけるか」




  浩一は、アパートを出るとあらかじめ調べて居


 た住所に行くべく電車に乗った。神田駅に程近い


 その場所に着いた時は、お昼近くになっていた。




 「ここか・・・」




  季節は、葉桜の緑が眩しい5月になっていた。


 そう、大した距離では無かったのだが浩一の額に


 は結構な量の汗が浮かんでいた。額の汗を、手で


 拭って立ちどまり見上げたビルの3階の電飾看板


 には少しかすれた文字で「阿久津金融」と書いて


 あった。








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