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歪んだ歯車  作者: 村上蘭
7/12

ビールとポテチは不幸の味?






「えー人生を、生きて行く上でこの世の中には三つ


の坂があると言われています。先ず、一つ目の坂は


上り坂そして二つ目は下り坂三つ目の坂がまさかと


言う坂です」これは結婚式のお祝いスピーチなどで


会社の上司がたとえ話に使う事の多いフレーズであ


るが、そのまさかが浩一の身になんの予告も無しに、


青天の霹靂のごとく起きたのだった。




「どうなってるんだよ、いったい・・・」




 浩一が、この異変を知ったのはたまたま入ったラ


ーメン屋に置いてあったテレビの放送でだった。事


件の概要はだいたいこんなものだった。2014年、2


月某日マウントゴックス社のコンピューターに何者


かがハッキングを仕掛けてきてゴックス社が所有し


ていた大量のビットコインが一瞬にして盗まれてし


まったと言う事らしかった。当然、浩一が持ってい


たビットコインも一瞬にして無くなってしまった。


ビットコインは、いくら稼いでも仮想通貨である限


り日本政府の関与するところで無いという利点があ


って税金の対象外という事だったのだが、その反面


こういう事態になっても日本政府はなんの関与もし


ないつまり個人がビットコインでどんなに大損して


も何の救済もしないという事だ。つまり、すべては


自己責任である。とはいえ、浩一のショックは大き


かった。早速、ゴックス社に問い合わせの電話を掛


けたのだが・・・




「ただいま、回線が大変混雑して電話が繋がりにく


い状態になって大変ご迷惑をおかけいたしております。


御手数ですが、このままお待ちになるかしばらく時間


を置いてお掛け直し下さい」




 何度、掛け直してもこの機械的な女性の声が聞こえ


るだけだった。取り敢えず、浩一は渋谷にあるマウン


トゴックス社の本社ビルに行ってみる事にした。案の


定、本社ビルの前には大勢の報道関係者だったり今回


の被害者とおぼしき人たち(これには浩一も含まれる


のだが)後はいわゆる好奇心だけの野次馬がやっぱり


多数来ていた。



「おい、兎に角中に入れろどういうことか社長の説明


を聞かせろよ」

 



 被害者の、一人と思われる青年が本社ビルの前に立


つ警備員に詰め寄って叫んでいた。




「それは、残念ですが出来ません。関係者しか、入れ


るなと指示が来てるもんですから」




 警備員は、頑として入れないぞという顔でこう答え


た。




「ふざけるな、俺たちは被害者だぞ関係者も関係者最


大の関係者だろうが」




 

 そうだ、そうだと周りからも声が上がっていた。警


備員は、最初二人だったが押さえ切れないと見たのか


後から応援の三人が来て五人になっていた。騒ぎはだ


んだんと大きくなっていく様相が濃くなって来て、誰


が呼んだのかパトカーや警察官まで来ていた。たかが、


一つの取引所で起きた事でここまでの騒ぎになってし


まったのはその被害金額の大きさのせいである。それ


もこれも、ビットコインの高騰のせいだったのだが今


回ハッカーに盗み取られたと言われているその総額は


なんと114億円相当との事だった。その時、警備員を


押しのけて独りの男がゴックス社の正面玄関から出て


来た。その手に、持っていたハンドスピーカのスイッ


チを入れ男が喋り出した。




「皆様、この度は当社に突然の災難が降りかかりまし


て皆様にも多大なるご心配をおかけしておりますが詳


細につきましてマウントゴックス社の社長が本社社屋


で時間は未定ですが夕方記者会見を行う事になりまし


た。尚、混乱を避ける意味で中に入れるのは報道関係


者のみとさせていただきます。以上です」




 それだけ、告げるとゴックス社の社員と思われる男


は、ビルの中に消えていった。後に、残された者はも


うこれ以上粘っても中には入れないと諦めて帰る者そ


れでもしつこく帰らず本社前で坐りこむ者など人それ


ぞれだったが浩一は一旦家に帰ることにした。テレビ


で、記者会見の模様が放送される事をそこにいた報道


関係者から聞かされたからだった。こんな、寒い中夕


方までこんなところに立って待っていたって風邪を引


くだけだと判断したからだ。変える、途中コンビニで


晩飯用の弁当とビーにおつまみを買ってアパートに戻


った時にはもう午後4時を回っていた。浩一は、部屋


に入るとストーブを点火し、リモコンでテレビのスイ


ッチを入れたがまだ記者会見の放送は始まってなかっ


た。




「取り敢えず、ビールでも飲んで待っとくか」




 浩一は、缶ビールのプルトップを切りおつまみにと


一緒に買って来ていたポテトチップスコンソメ味の袋


をテーブルの上にひろげた。部屋にチップスの香ばし


い匂いが広がり1,2枚つまんで、缶ビールをぐっと


飲むとチップスとビールが口の中で混ざり合い一気に


喉を潤して行った。



「カーッ、旨いこの組み合わせは最高だな」



 浩一が、胸の不安をビールで消しながらそうやって


時を稼いでいるうちに午後5時になり、マウントゴッ


クス社社長の記者会見の放送がやっと始まる所だった。




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